土曜日の午後、駅前のボーリング場は家族連れや高校生で賑わっていた。
入り口から響いてくるのは、ピンが倒れるカラカラという乾いた音と、ストライクを決めた人たちの歓声だった。子どもたちがはしゃぐ声、お父さんたちがガーターを出して悔しがる声、カップルが楽しそうに笑い合う声……いろんな音が混じり合って、休日らしい賑やかな雰囲気を作り出している。
オレは手持無沙汰に立ちながら、機械を操作している間瀬の背中を眺めていた。
「えーっと、プレイヤー登録と……湊はKUSAKABE、悠馬はKUGAっと」
間瀬は慣れた手つきでタッチパネルを操作しながら、三人分の名前を入力している。最後に自分の名前「MASE」を入力して、満足そうに振り返った。
「よし、準備完了!」
一方で悠馬は、ボール置き場でマイボールを選んでいる最中だった。重さや指穴の大きさを確かめながら、慎重にボールを選んでいる様子が見える。いつものように真剣な表情で、一つ一つのボールを手に取っては確認している。
今日は、間瀬にオレたちの関係を打ち明けるために呼び出したんだ。
昨日の帰り道で、悠馬と話し合って決めたことだった。間瀬は共通の友人だし、これからもずっと付き合っていく相手だから、隠し続けるのは良くないだろうって。
でも……実際に告白する時が来ると、緊張で胸がドキドキしてくる。
自分たちの関係を初めて誰かに説明するなんて、想像以上に難しいことだった。どんな言葉で説明すればいいんだろう。どんな反応が返ってくるんだろう。受け入れてくれるだろうか、それとも……。
緊張からか、なんだか喉が無性に乾いてきた。手のひらにも汗がにじんできて、ジーンズのポケットに突っ込んだ手が湿っているのが分かる。
「お疲れ様」
悠馬がボールを抱えて戻ってきた。それを見て、間瀬がニコッと笑う。
「よし、そろそろゲーム始めるか!」
間瀬が明るく答えて、機械を操作してゲームをスタートさせる。レーンの向こうでピンがセットされて、ボーリング場特有の機械音が響いた。
「しかし珍しいな」
間瀬がボールを手に取りながら、ニヤニヤした顔でオレたちを見た。
「お前たちの方から遊びに誘ってくれるなんて久しぶりじゃん。どうかした?」
その何気ない問いかけに、オレの心臓がドキッと跳ね上がった。
「あ……えっと……」
どう説明したものか、言葉が出てこない。練習してきたはずなのに、頭が真っ白になってしまった。間瀬のいつもの笑顔を見ていると、余計に言いづらくなる。
ちらりと悠馬の方を見ると、彼が「俺から説明しようか?」という視線を送ってきた。でも、オレは首を振った。これは、オレが言わなきゃいけないことだ。
間瀬はそんなオレたちの様子に気づかず、悠馬をレーンに行くよう促す。どうやらプレイ順は悠馬かららしい。
「まあ、理由はどうあれ久しぶりに三人で遊べて嬉しいよ!」
そう言いながら、間瀬がオレに話しかけていた。レーンの上では、悠馬がボールを投ていげる。ゴロゴロと重い音を立てながらボールが転がっていき、ピンに向かっていく。
その間に……今だ。
オレは意を決して口を開いた。
「実は……オレと悠馬、付き合うことにしたんだ」
悠馬がボールを投げ終えて振り返ったタイミングで、オレは思い切って告白した。
「え? 付き合うって何を?」
間瀬はまだピンと来ていない様子で、首をかしげている。
その時、悠馬の投げたボールがピンに当たって、ガラガラという大きな音が響いた。ストライクだったようで、機械の効果音も一緒に鳴り響く。
オレは深呼吸をして、改めて言い直した。
「オレと悠馬……付き合ってるんだ。恋人として」
その瞬間、緊張が最高潮に達した。心臓が激しく鼓動して、今にも胸から飛び出しそうだった。手のひらはもうびっしょりと汗で濡れていて、膝も少し震えている。間瀬の反応を見るのが怖くて、視線を逸らしそうになる。
間瀬の表情が、次第に変わっていくのが分かった。最初はぽかんとしていた顔が、だんだんと驚きの色に染まっていく。目を丸くして、口をぽかんと開けたまま、オレのことをじっと見つめている。
そこに悠馬が戻ってきた。
「え……お前と湊が、恋人として付き合ってるって今聞いたけど……本当? それとも冗談?」
間瀬は混乱したような表情で悠馬に尋ねた。その声は普段より少し高くて、動揺しているのがよく分かる。
悠馬は迷いなく頷いた。
「本当だ」
間瀬の反応がどう返ってくるか怖くて、オレは逃げるようにボールを手に取った。
「……次、オレの番だ」
そそくさとレーンに向かって、ボールを構える。でも頭の中はぐちゃぐちゃで、全然集中できない。フォームも滅茶苦茶で、投げたボールはそのままレーンの端に落ちてガーターになってしまった。
ボールが戻ってくるのを待ちながら、ちらりと後ろを振り返る。間瀬と悠馬が何やら話しているようだが、距離があるので何を話しているかまでは分からない。
彼らのことを眺めているうちに、ボールが戻ってきた。今度は集中しようと思ったけれど、やっぱりうまくいかない。二投目はガーターにはならなかったものの、ピンは二本しか倒れなかった。
緊張しながら席に戻ると……。
「湊ー!」
いきなり間瀬が飛んできて、オレに抱きついた。
「なんだよもー、お前ら最近付き合い悪いと思ったら、俺の知らない間にそんなことになってたなんて! さすがの俺でも想像してなかったわ!」
間瀬の声は興奮していて、でもどこか嬉しそうだった。予想していた拒絶や嫌悪感とは全然違う反応に、オレは驚いて固まってしまった。
「え……あの……気持ち悪いとか、ない?」
恐る恐る尋ねると、間瀬は首を振った。
「まあ確かに驚いたし、仲良かった友達二人が俺を差し置いて恋人になってしまった寂しさはあるけど……でも気持ち悪いとかはないよ」
そして、間瀬はいつものニコニコした顔で続けた。
「っつーか、黙っててもよかったのにわざわざ話してくれるあたり、お前らほんと真面目だよな。そういうところ俺は好きよ」
その瞬間、悠馬がオレと間瀬を引き離した。
「お前ら、近い」
明らかに不機嫌そうな顔で、間瀬とオレの間に割って入る。嫉妬を隠そうともしない様子に、間瀬が目を輝かせた。
「うわ、すげー悠馬! こんなに分かりやすく嫉妬するタイプだったの?」
間瀬は楽しそうに笑いながら、悠馬の反応を面白がっている。
オレはその光景を茫然と見つめていた。
間瀬が……間瀬が受け入れてくれた。オレたちが付き合っていると聞いても、いつも通りに接しようとしてくれている。そのことが嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなった。友達って、こんなにもありがたい存在なんだな……。
「あ、次俺の番だったわ」
間瀬はそう言いながら、ボールを取りに向かった。
その後ろ姿を見つめながら、オレは悠馬にぼそりと呟いた。
「間瀬が受け入れてくれて良かった……」
「緊張したか?」
悠馬が静かに尋ねてくる。
「うん、すごく」
オレが頷くと、悠馬は「そういうお前は緊張した?」と聞き返した。
悠馬は答えの代わりに、無言でオレの手を握った。
その手は……しっとりと汗で濡れていた。
「お前、涼しい顔してるかと思ったけど、めちゃくちゃ手汗すごいじゃん。さてはかなり緊張してたな?」
オレがからかうように尋ねると、悠馬は無言のままだった。でも、握られた手の温もりから、彼の気持ちがよく伝わってきた。
そこに、ボールを投げ終えた間瀬が戻ってきた。オレたちが手を繋いでいるのを見て、大きく叫ぶ。
「おい、そこ! カミングアウトしたからっていって、急に俺の前でイチャイチャしないでくれますか! 恋人いない俺にとって目の毒です!」
そんな間瀬の様子を見て、悠馬とオレは顔を見合わせて笑った。
なんだか、すごく幸せな気分だった。
入り口から響いてくるのは、ピンが倒れるカラカラという乾いた音と、ストライクを決めた人たちの歓声だった。子どもたちがはしゃぐ声、お父さんたちがガーターを出して悔しがる声、カップルが楽しそうに笑い合う声……いろんな音が混じり合って、休日らしい賑やかな雰囲気を作り出している。
オレは手持無沙汰に立ちながら、機械を操作している間瀬の背中を眺めていた。
「えーっと、プレイヤー登録と……湊はKUSAKABE、悠馬はKUGAっと」
間瀬は慣れた手つきでタッチパネルを操作しながら、三人分の名前を入力している。最後に自分の名前「MASE」を入力して、満足そうに振り返った。
「よし、準備完了!」
一方で悠馬は、ボール置き場でマイボールを選んでいる最中だった。重さや指穴の大きさを確かめながら、慎重にボールを選んでいる様子が見える。いつものように真剣な表情で、一つ一つのボールを手に取っては確認している。
今日は、間瀬にオレたちの関係を打ち明けるために呼び出したんだ。
昨日の帰り道で、悠馬と話し合って決めたことだった。間瀬は共通の友人だし、これからもずっと付き合っていく相手だから、隠し続けるのは良くないだろうって。
でも……実際に告白する時が来ると、緊張で胸がドキドキしてくる。
自分たちの関係を初めて誰かに説明するなんて、想像以上に難しいことだった。どんな言葉で説明すればいいんだろう。どんな反応が返ってくるんだろう。受け入れてくれるだろうか、それとも……。
緊張からか、なんだか喉が無性に乾いてきた。手のひらにも汗がにじんできて、ジーンズのポケットに突っ込んだ手が湿っているのが分かる。
「お疲れ様」
悠馬がボールを抱えて戻ってきた。それを見て、間瀬がニコッと笑う。
「よし、そろそろゲーム始めるか!」
間瀬が明るく答えて、機械を操作してゲームをスタートさせる。レーンの向こうでピンがセットされて、ボーリング場特有の機械音が響いた。
「しかし珍しいな」
間瀬がボールを手に取りながら、ニヤニヤした顔でオレたちを見た。
「お前たちの方から遊びに誘ってくれるなんて久しぶりじゃん。どうかした?」
その何気ない問いかけに、オレの心臓がドキッと跳ね上がった。
「あ……えっと……」
どう説明したものか、言葉が出てこない。練習してきたはずなのに、頭が真っ白になってしまった。間瀬のいつもの笑顔を見ていると、余計に言いづらくなる。
ちらりと悠馬の方を見ると、彼が「俺から説明しようか?」という視線を送ってきた。でも、オレは首を振った。これは、オレが言わなきゃいけないことだ。
間瀬はそんなオレたちの様子に気づかず、悠馬をレーンに行くよう促す。どうやらプレイ順は悠馬かららしい。
「まあ、理由はどうあれ久しぶりに三人で遊べて嬉しいよ!」
そう言いながら、間瀬がオレに話しかけていた。レーンの上では、悠馬がボールを投ていげる。ゴロゴロと重い音を立てながらボールが転がっていき、ピンに向かっていく。
その間に……今だ。
オレは意を決して口を開いた。
「実は……オレと悠馬、付き合うことにしたんだ」
悠馬がボールを投げ終えて振り返ったタイミングで、オレは思い切って告白した。
「え? 付き合うって何を?」
間瀬はまだピンと来ていない様子で、首をかしげている。
その時、悠馬の投げたボールがピンに当たって、ガラガラという大きな音が響いた。ストライクだったようで、機械の効果音も一緒に鳴り響く。
オレは深呼吸をして、改めて言い直した。
「オレと悠馬……付き合ってるんだ。恋人として」
その瞬間、緊張が最高潮に達した。心臓が激しく鼓動して、今にも胸から飛び出しそうだった。手のひらはもうびっしょりと汗で濡れていて、膝も少し震えている。間瀬の反応を見るのが怖くて、視線を逸らしそうになる。
間瀬の表情が、次第に変わっていくのが分かった。最初はぽかんとしていた顔が、だんだんと驚きの色に染まっていく。目を丸くして、口をぽかんと開けたまま、オレのことをじっと見つめている。
そこに悠馬が戻ってきた。
「え……お前と湊が、恋人として付き合ってるって今聞いたけど……本当? それとも冗談?」
間瀬は混乱したような表情で悠馬に尋ねた。その声は普段より少し高くて、動揺しているのがよく分かる。
悠馬は迷いなく頷いた。
「本当だ」
間瀬の反応がどう返ってくるか怖くて、オレは逃げるようにボールを手に取った。
「……次、オレの番だ」
そそくさとレーンに向かって、ボールを構える。でも頭の中はぐちゃぐちゃで、全然集中できない。フォームも滅茶苦茶で、投げたボールはそのままレーンの端に落ちてガーターになってしまった。
ボールが戻ってくるのを待ちながら、ちらりと後ろを振り返る。間瀬と悠馬が何やら話しているようだが、距離があるので何を話しているかまでは分からない。
彼らのことを眺めているうちに、ボールが戻ってきた。今度は集中しようと思ったけれど、やっぱりうまくいかない。二投目はガーターにはならなかったものの、ピンは二本しか倒れなかった。
緊張しながら席に戻ると……。
「湊ー!」
いきなり間瀬が飛んできて、オレに抱きついた。
「なんだよもー、お前ら最近付き合い悪いと思ったら、俺の知らない間にそんなことになってたなんて! さすがの俺でも想像してなかったわ!」
間瀬の声は興奮していて、でもどこか嬉しそうだった。予想していた拒絶や嫌悪感とは全然違う反応に、オレは驚いて固まってしまった。
「え……あの……気持ち悪いとか、ない?」
恐る恐る尋ねると、間瀬は首を振った。
「まあ確かに驚いたし、仲良かった友達二人が俺を差し置いて恋人になってしまった寂しさはあるけど……でも気持ち悪いとかはないよ」
そして、間瀬はいつものニコニコした顔で続けた。
「っつーか、黙っててもよかったのにわざわざ話してくれるあたり、お前らほんと真面目だよな。そういうところ俺は好きよ」
その瞬間、悠馬がオレと間瀬を引き離した。
「お前ら、近い」
明らかに不機嫌そうな顔で、間瀬とオレの間に割って入る。嫉妬を隠そうともしない様子に、間瀬が目を輝かせた。
「うわ、すげー悠馬! こんなに分かりやすく嫉妬するタイプだったの?」
間瀬は楽しそうに笑いながら、悠馬の反応を面白がっている。
オレはその光景を茫然と見つめていた。
間瀬が……間瀬が受け入れてくれた。オレたちが付き合っていると聞いても、いつも通りに接しようとしてくれている。そのことが嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなった。友達って、こんなにもありがたい存在なんだな……。
「あ、次俺の番だったわ」
間瀬はそう言いながら、ボールを取りに向かった。
その後ろ姿を見つめながら、オレは悠馬にぼそりと呟いた。
「間瀬が受け入れてくれて良かった……」
「緊張したか?」
悠馬が静かに尋ねてくる。
「うん、すごく」
オレが頷くと、悠馬は「そういうお前は緊張した?」と聞き返した。
悠馬は答えの代わりに、無言でオレの手を握った。
その手は……しっとりと汗で濡れていた。
「お前、涼しい顔してるかと思ったけど、めちゃくちゃ手汗すごいじゃん。さてはかなり緊張してたな?」
オレがからかうように尋ねると、悠馬は無言のままだった。でも、握られた手の温もりから、彼の気持ちがよく伝わってきた。
そこに、ボールを投げ終えた間瀬が戻ってきた。オレたちが手を繋いでいるのを見て、大きく叫ぶ。
「おい、そこ! カミングアウトしたからっていって、急に俺の前でイチャイチャしないでくれますか! 恋人いない俺にとって目の毒です!」
そんな間瀬の様子を見て、悠馬とオレは顔を見合わせて笑った。
なんだか、すごく幸せな気分だった。
