ダメ元で親友に告白したその後の話

 その問いかけに、オレは少し迷った。でも、せっかく悠馬が聞いてくれるなら……今度こそ、本当のことを話そう。

「……田村先輩は、オレが中学二年生の頃に演劇部の顧問の先生が指導役にと呼んできたOBなんだ」

 ブランコをゆっくりと漕ぎながら、オレは過去を振り返った。

「当時、先輩は大学一年生だった。スタイリッシュで都会的な雰囲気があって……オレは憧れに似た感情を抱いていた」
「一目惚れだったのか?」

 悠馬の問いかけに、オレは苦笑いを浮かべた。

「当時はまだ、自分の気持ちが自分でもよく分かってなくて。ただ……出会った当時は、ただ先輩の都会的な雰囲気に憧れていただけだと思う」

 悠馬はブランコの周りにある手すりに腰をかけて、オレの話を静かに聞いている。街灯の明かりが彼の横顔を照らしていて、いつもより大人びて見えた。

「先輩は一か月に二、三回、部活に顔を出して演技指導をしてくれた。田村先輩の指導は的確だった。どうやら彼は大学で舞台芸術を勉強しているみたいで、知識は確かなものだった」

 ブランコの動きを止めて、オレは続けた。

「そんな先輩が、オレの演技をたびたび褒めてくれることが続いて……オレは舞い上がった。先輩が褒めてくれるのが、自分のことを認めてくれるのが嬉しかった。だから演技の練習も力が入ったし、部活に行くのが楽しかった」

 そこまで話して、オレは自嘲的に笑った。

「先輩と出会って半年を過ぎる頃かな……先輩が部員の女子と話しているのを見て、すごくモヤモヤした気持ちになった。そこでオレはとうとう自覚したんだ。自分は田村先輩のことがそういう意味で好きで、自分は男性が恋愛対象になる人間なんだって」

 悠馬の表情が少し変わったのが分かったけれど、オレは続けた。

「自覚した時はちょっとショックを受けたけど、当時のバカだった自分は、それよりも自分の気持ちを先輩に伝えたいって気持ちが上回った。それで……告白してしまった。これは前に説明した通りだ」
「でも、その告白にはOKと返事をもらえたんだろう?」

 悠馬の問いかけに、オレは頷いた。

「そう。なぜか先輩は年下のガキだったオレの告白を受け入れてくれた。オレはそのことを深く考えずに舞い上がった。休日には映画とかカラオケに誘ってくれて、デートみたいなこともしてくれた。オレはすっかり先輩と恋人になったつもりで、毎日浮かれてた」

 自嘲気味にそう言うと、悠馬が静かに尋ねてきた。

「じゃあ、どうして別れたんだ?」
「実際には別れたんじゃない。偶然、オレが真実を知ってしまったから、先輩と距離を置いたんだ」
「どういうことだ?」

 悠馬の問いかけに、オレは続きを話そうとして、一瞬、声が詰まった。

「無理なら話さなくていい」

 悠馬が優しく言ってくれたけれど、オレは首を振った。

「いや、お前には聞いてほしい」

 深呼吸をして、オレは続けた。

「先輩と付き合い始めてから少し経った時、先輩のいる大学で学園祭があることを知った。オレは先輩がどうして自分を誘ってくれなかったのか深く考えず、先輩を驚かそうと思って先輩に黙って学園祭に遊びに行った」

 ブランコの鎖を握る手に、少し力が入った。

「先輩は演劇サークルで短編映画を作って発表していた。映画自体はよくできてて面白い作品だった。それを見終わった後、オレは先輩に感想を伝えようと大学内を探した。先輩たちは演劇サークルの部室近くにいて、すぐ見つけることができた。でも、その時……オレは先輩たちの話している信じられない話を聞いてしまった」

 悠馬の表情を見ると、心配そうな顔でオレのことを見ている。息が苦しくなってきたけれど、オレは勇気を出して続けた。

「先輩は部室の中で、友達っぽい人にこう言っていた……『マジで面倒だよ。ガキに本気で好かれちゃってさ』って」

 一度口に出すと、堰が切れたように次々と言葉が出てくるようになった。

「先輩の口調がいつもの優しいものじゃなくて驚いた。彼の言うガキというのが自分であることを察して、そのまま隠れて彼の話を聞き続けた。すると、彼は友達にどうやら自分のことについて愚痴を言っているらしいことに気づいた」

 悠馬の顔に、いつもにないほど不快感が浮かんだ。

「先輩は、どうやら自分の母親が元アイドルで芸能人だということ、そのことで芸能事務所のプロデューサーと知り合いであることを知って、あわよくば芸能界のコネが作れないかと自分に近づいたことが先輩たちの話から分かった」
「は? なんだよ、それ……」

 悠馬が怒りを露わにするのを見て、オレは慌てて手を振った。

「でも、先輩の言うことも今なら分からないではないんだ。母さんを身近で見ていたから分かるけど、芸能界ってほんと、コネがものを言う世界だから。例えばどんなに演技がうまい俳優でもなかなか映画に出られないのに、ぽっと出の演技力のない役者が映画の主役を務められたりするのはよくあることだろ?」

 まるで他人事のように、オレは続けた。

「田村先輩は本気で演技の道に行きたいって言ってたから、芸能人の親を持つ自分に接触してコネを作ろうと考えたのも、あながち間違いとは言えない」
「でも、それはお前の気持ちをないがしろにする行為だろう!」

 悠馬の怒りの声に、オレは少し驚いた。悠馬が自分の代わりに怒ってくれることに、胸の奥が温かくなる。

「そう……さすがに当時のオレは先輩の本心を聞いて、だいぶショックを受けた。当時はどうやって学園祭から家に帰り着いたのかよく覚えてない。しばらくショックで泣きまくって、涙が枯れる頃には、なんだかすべてがどうでもよくなってた」

 オレの声が少し震えた。

「世界から色がなくなって、学校にも行く気が失せた。大好きだった母親のことも、関係ないのに少し嫌いになりかけた。そんなことを考えてしまう自分の気持ちが気持ち悪くて、さらに自己嫌悪に陥った」
「それは当然だろう」

 悠馬が優しく言いながら、オレの頭を撫でてくれた。その温かい手に触れられて、当時の自分が慰められるような気持ちになり、涙がぽろぽろと流れてきた。

「でも……お前が学校に来なくなったオレのところに毎日やってきてくれて、普段通りオレと遊んでくれて、オレは本当に救われた。お前といると、自分らしくいられる気がした。そのうち心が落ち着いてきて、学校にも行けるようになった。お前のおかげだ」

 悠馬の目をまっすぐ見つめて、オレは告げた。

「でも、そこから、お前は自分の本心を偽って演技することが増えただろう」

 悠馬の鋭い指摘に、オレは苦笑いを浮かべた。

「ほんと、お前だけはごまかせないよな……」

 そして呟くように続けた。

「そうだ。自分はあれから何かあると自分の本心を偽って演技するようになった。どうやらオレは演技力があるみたいだったし、田村先輩との出来事を通じて、本心をさらけ出すことが怖くなっちゃったからな。でも、そのおかげで学校生活はうまくいった。別に全部が全部演技してるわけじゃないし、大丈夫だって」

 その瞬間、悠馬が強くオレを抱きしめてきた。突然の強い抱擁に、オレは慌てて抵抗しようとした。

「ちょ、ちょっと……」
「もう、俺の前では演技をするな」

 悠馬の真剣な声が、オレの耳元で響いた。

「俺はお前の本心が知りたい。俺のことを好きだと言ってくれた時みたいに、お前のまっすぐな本心が知りたい。俺は、どんなお前のことだって受け止めるから」

 その言葉に、オレは抵抗するのを止めた。嬉しさとか幸せとか、そういう気持ちがごちゃまぜになって、ぼろぼろと涙が零れ始める。

「あれ、やば……これ、止まらない」

 慌てるオレの涙を、悠馬が指で優しく拭ってくれた。そして、そのまま悠馬の唇がオレの唇に重なった。

 熱い悠馬の唇が触れて、オレの頭がクラクラした。悠馬はオレを抱きしめる力を弱めることなく、キスを続ける。今までの触れるようなキスとは違う感覚に、オレは溺れるような感覚を覚えた。

 夜の公園で響く虫たちの声も、街灯の明かりも、すべてが遠くに感じられて……オレは悠馬の温もりの中で、ただただその瞬間に身を委ねていた。