ダメ元で親友に告白したその後の話

 練習は昼食を挟んで午後からも続いた。

 頼んでいた仕出し弁当を受け取って、活動室の隅でみんなでお弁当を食べた。悠馬も一緒にお弁当を食べながら、

「普段の部活ってこんな感じなのか?」

 と聞いてきた。

「うーん、普段はもっとゆるいよ。でも大会前はみんな真剣だから」

 実際、午後からの練習もみんな集中して取り組んでいた。夏休み中はバイトや家族旅行で部員が全員揃う日が少ないから、今日みたいに全員が集まれる日は貴重になる。だからこそ、少しでも完成度を上げようとみんな必死になっている。

 オレは相変わらず田村先輩と一緒に演技指導をしていたけれど、午後からは気持ちが少し楽になっていた。慣れたせいもあるし、なによりも悠馬がいてくれるという安心感があった。時々振り返ると、悠馬がこちらを見守ってくれているのが分かる。

「その表情、もう少し柔らかくしてもらえるかな」

 田村先輩が山田にアドバイスをしている。山田は一年生だけあって、まだ演技に硬さが残っている。でも一生懸命に取り組む姿勢は立派だった。

「はい! もう一度やってみます!」

 元気よく返事をする山田を見ていると、なんだか微笑ましくなってくる。オレも一年生の頃はあんなふうに必死だったなぁ。

 時間が経つのは早くて、気がつくと窓の外がオレンジ色に染まっていた。

「あれ、もうこんな時間?」

 時計を見ると、もう夕方の五時を回っている。朝から練習していたから、あっという間に一日が過ぎてしまった。

「はい、皆さんお疲れ様でした」

 西村先生が手を叩いて、練習の終了を告げる。

「今日はここまでにしましょう。荷物をまとめて、宿泊施設の部屋に移動してください」

 部員たちは「お疲れ様でした!」と声を揃えて挨拶すると、それぞれ荷物をまとめ始めた。みんな疲れているけれど、充実した表情をしている。

 オレも自分の荷物を手に持って、悠馬のところに向かった。

「こんな時間まで付き合わせてごめんな」

 そう謝ると、悠馬は首を振った。

「普段は見られない文化部の練習風景が見られて面白かった。特に後半は撮影係として参加させてもらってたから退屈しないで済んだ」

 そういえば途中から、練習風景を撮影している映像の手ブレがやけに増えたような気がしていた。あれは悠馬が撮影していたからなのか……と思うと、少し面白く思えてきた。でも口に出すのは恥ずかしいから、黙っておく。

「それじゃあ、部屋に行こうか」

 二人で宿泊施設の部屋に向かった。

 部屋は畳敷きの大部屋で、男女別れて部員全員がここに布団を敷いて寝ることになっている。施設は少し古いものの、きれいに掃除されていて清潔感があった。部屋に入るなり、部員たちは思い思いに身体を伸ばしてくつろぎ始める。

「あー、疲れた!」
「でも今日はいい練習ができたよね」

 みんな畳の上に座り込んだり、壁にもたれかかったりして、一日の疲れを癒している。

 その時、山田がオレに近づいてきた。

「そういえば先輩、今日の演技すごかったですね!」

 他の部員たちも振り返る。

「そうだな、長いセリフも噛まずにスラスラ言えてたし」
「田村先輩が言ってたように、めちゃくちゃ感情が乗ってて凄かった」

 みんなが褒めてくれて、オレは照れくさくなった。

「ありがとう」

 そんな時、ドアがノックされた。田村先輩がアイスの差し入れを持ってやってきた。

「お疲れ様、みんなでどうぞ」

 先輩は袋からアイスを取り出しながら、部員たちに配ってくれる。

「ほんと、湊くんの演技はすごいよね」

 田村先輩がさらっと言った時、オレの心に小さな警戒心が芽生えた。

「芸能人の血筋だからなのかな?」

 その瞬間、オレの肩がびくっと震えた。どうして田村先輩が今、この話題を?

「え、芸能人の血筋ってなんですか?」

 山田が興味深そうに尋ねる。オレは必死に冷静を装おうとしたけれど、頭の中は混乱していた。田村先輩の真意が読めない。

「あれ、みんなに言っていなかったの?」

 田村先輩がオレの方を向いて首をかしげる。その表情は穏やかだったけれど、オレには何か計算されたもののように感じられた。

「……言いふらすようなことではないですから」

 オレは小さな声で答えた。

「みんなに言っていい?」

 田村先輩が笑顔で尋ねてくる。ここで嫌だと答えるとおかしな空気になるな……と思い、オレは頷いた。でも心の奥では、嫌な予感が渦巻いていた。

「湊くんのお母さんは元アイドルなんだよ。映画とかにも出演したことのある演技派アイドルだったんだ」

 その言葉を聞いて、部員たちはにわかに色めき立った。

「えー! マジですか!」
「すげー! どんな映画に出てたんですか?」
「なんていうアイドルグループだったんですか?」

 みんなが一斉に質問を浴びせかけてくる。田村先輩は満足そうに頷きながら続けた。

「君の可愛い外見もお母さん譲りだよね」

 田村先輩が笑いかけてくる。その笑顔の裏に、オレは昔と変わらない下心を感じてしまった。

 その瞬間、過去の記憶がフラッシュバックした。

『芸能界のコネ狙いで優しくしていただけなのに、なんか妙に懐かれちゃって。本気で告白もされちゃってさ、困ってるんだよ』

 過去に聞いてしまった、田村先輩の薄情な声が頭の中で響く。

 息が苦しくなってきた。胸が締め付けられるような感覚に襲われる。オレはそっと部員たちの間から離れて、部屋の隅に向かった。

「大丈夫か?」

 悠馬が心配そうに声をかけてくる。その手がそっとオレの背中をさすってくれる。温かい手のひらの感触に、次第に呼吸が落ち着いてきた。

 ああ、彼がここにいてくれてよかった……。

 そう思いながら、深呼吸を繰り返す。

「もう大丈夫」

 落ち着いてきたところで、オレは悠馬に告げた。

「おばさんが芸能人だったことは周りに知られたくなかったんじゃないのか?」

 悠馬が心配そうに尋ねてくる。

「まあ、七光りみたいに言われるの嫌だったからね。でも別に隠すようなことでもないし。もう近いうちに引っ越すんだから、別にどうってことないよ」

 そう答えたけれど、悠馬は不満そうな顔を続けている。何か言いたそうだけれど、口には出さない。

 その時、他の部員たちから声がかかった。

「そろそろ恒例のアレ、はじめようぜ!」
「恒例のアレって何だ?」

 悠馬が首をかしげる。

「ああ」

 オレは苦笑いを浮かべた。

「──肝試しだよ。合宿の夜に近くの公園でやるのが恒例になってるんだ」