――18年前、西鳥家に一卵性双生児が誕生した。

 四柱国で双子は災いの象徴だと言われ、片方は異能を持たずに産まれるとされている。
 出産に立ち会っていた大人達は、どちらが無能なのかを判別する手段を講じた。

「小鴉の皆様、判定をお願いいたします……!」

 漆黒の翼をはためかせ、全長20cmほどの小鴉の群れが一斉に姉妹を襲う。
 生まれたばかりの赤子はこの世の終わりのように声を揃えて泣き叫んだが――いつの間にか、その産声は一つになる。

「おお! こちらは、先に生まれた方だな……!」
「この子が我が西鳥の将来を担う、跡取りなのね……!」

 大鴉の化身が、一匹残らず姉の周りを取り囲んだからだ。

「あなたは羽音よ」
「きゃっきゃ!」

 泣き叫び続ける妹を横目に嬉しそうに笑う赤子を愛おしそうに見つめた両親は、すぐさま隣に視線を移してもう一人に侮蔑の視線を向ける。

「そしてこの子は……」
「無能と確定した娘は、大鴉様の生贄になる定め……。名づけなんて、適当で構わないわ」
「では、無音でどうだろう」
「それがいいわね」
「おぎゃぁああ!」

 そんな名前は嫌だと泣き叫ぶ赤子は、この世に生を受けてすぐに無能の烙印を押され――迫害されて生きることを運命づけられた。

  (なんで、あたしだけなの!?)

 ――それから、の時が経つ。
 異能開花に失敗した西鳥無音の脳内は、目の前で背中に翼を生やした羽音に対する憎悪でいっぱいだ。

「凄いぞ、羽音!」
「さすがは私達の娘ね!」

 ――とてもじゃないが、両親からの愛を一身に受ける姉と一緒になどいられない。
 無音は、羽音に嫉妬した。

  (数分先に生まれただけの羽音は、跡取りとして期待されている! なのにあたしは、無能呼ばわり! そんなのずるい……!)

 明るくて元気で愛嬌を持つ自分こそが、西鳥の当主に相応しいはずなのに――。
 引っ込み思案で大人しい性格の姉だけがお天道様の下を歩くなど、許せなかった。

  (どいつもこいつも、羽音、羽音って! なんで誰も、あたしを見てくれないの!?)

 どうして彼女と同じ顔を持つ自分だけが、最下層の扱いを受けるのか。
 それがさっぱり理解できず、妹は見当違いの憎しみを募らせる。

  (あたしは無能なんかじゃない! それを証明すれば……!)

 無音は着物が汚れるのも厭わずに、足元に溜まった泥を跳ねた。
 その後、何かに気づいて足の動きをピタリと止める。

  (そうだわ! あたしが羽音になって、あの女が無音になればいいのよ!)

 姉妹の違いは、性格と異能が使えるか否かだけだ。
 前者は演技で乗り切れば、どうとでもなる。
 後者は――。

  (両親の寵愛を受ける羽音が、無音とずっと一緒がいいって頼み込めば……! なんの問題もないわ!)

 羽音を脅して異能を発現させればいいだけだとほくそ笑んだ無音は、こうして悪巧みを成功させ――姉に成り代わった。