「……っ!」
羽音は恐ろしくも幸せな夢を見て、飛び起きた。
全身からは冷や汗が大量に吹き出しており、布団をかけて眠っていたのに肌寒さすら感じる。
(あれが……。4000年前の、夢だとでも言うの……?)
どうして今さら、あんな記憶を見る羽目になったのか――。
それには一つだけ、心当たりがあった。
(藤郷様の炎を、お借りしたから……)
異能譲渡。
それは強い絆を結んだ男女のみが許される、パートナーの力を代わりに使役する手段であった。
満足な信頼関係が得られていない場合や、長時間の使用は身体に負荷がかかる。
神々なら軽々と使えたとしても、人間には過ぎた力だ。
禁忌とされるそれを無意識に発動した結果、炎だけではなく彼の記憶まで共有してしまったのだろう。
(4000年前の私と、今の私は……。魂と名前が同じなだけの別人……。そう、思っていたけれど……)
こうして実際に過去の記憶を追体験すると、彼が同一視するのも当然だと腑に落ちた。
(藤郷様に対する想いは、今も昔も……変わらないもの……)
鬼神は羽音を絶望の淵から救い出し、一度も暴力を振るうことなく慈しんでくれた。
優しく目元を綻ばせてこちらを見つめる姿。
愛を囁く低い声。
暖かなぬくもり――そのどれもが、誰にも渡したくないと思うほどに特別で……。
(私は、彼を……。心の底から、愛しているのね……)
ようやく自らの想いを自覚すると、胸の奥底でモヤモヤとしていた気持ちが晴れ晴れとするのを感じる。
(たくさんの愛を注いでもらった分だけ……。私も、お返ししたいわ……)
どんなことをすれば、彼に自分の想いが伝わるだろうか? そう、羽音が悩んでいた時だった。
廊下に繋がる襖が開け放たれ、藤郷が姿を見せたのは。
「羽音……!」
悲痛な叫び声とともに愛する妻の名を呼んだ鬼神は、襖を閉じるのを忘れてこちらにやってきた。
その慌ただしい様子を見てクスクスと笑いながら、申し訳なさそうに謝罪を口にする。
「心配をかけるつもりは、なかったのですが……。申し訳ございません……」
「謝らないでくれ……! 羽音が、無事でよかった……! 目覚めなかったらと思うだけで、俺は気が気で仕方ない……!」
この発言は、それだけ夫が妻を愛している証拠だ。
それを嬉しく思った羽音は、己の意思で彼に抱きついた。
「羽音……?」
「大丈夫、ですよ……。私はちゃんと、ここにいます……」
まさかこちらから藤郷に触れるなど、思いもしなかったのだろう。
夫は戸惑う様子を見せていたが、それを受け入れるように背中へ逞しい腕を回した。
(藤郷様の妻として、彼のそばにいることこそが、私の幸せ……)
羽音は鬼神のぬくもりを堪能しながら、彼に対する想いを深めた。
羽音は恐ろしくも幸せな夢を見て、飛び起きた。
全身からは冷や汗が大量に吹き出しており、布団をかけて眠っていたのに肌寒さすら感じる。
(あれが……。4000年前の、夢だとでも言うの……?)
どうして今さら、あんな記憶を見る羽目になったのか――。
それには一つだけ、心当たりがあった。
(藤郷様の炎を、お借りしたから……)
異能譲渡。
それは強い絆を結んだ男女のみが許される、パートナーの力を代わりに使役する手段であった。
満足な信頼関係が得られていない場合や、長時間の使用は身体に負荷がかかる。
神々なら軽々と使えたとしても、人間には過ぎた力だ。
禁忌とされるそれを無意識に発動した結果、炎だけではなく彼の記憶まで共有してしまったのだろう。
(4000年前の私と、今の私は……。魂と名前が同じなだけの別人……。そう、思っていたけれど……)
こうして実際に過去の記憶を追体験すると、彼が同一視するのも当然だと腑に落ちた。
(藤郷様に対する想いは、今も昔も……変わらないもの……)
鬼神は羽音を絶望の淵から救い出し、一度も暴力を振るうことなく慈しんでくれた。
優しく目元を綻ばせてこちらを見つめる姿。
愛を囁く低い声。
暖かなぬくもり――そのどれもが、誰にも渡したくないと思うほどに特別で……。
(私は、彼を……。心の底から、愛しているのね……)
ようやく自らの想いを自覚すると、胸の奥底でモヤモヤとしていた気持ちが晴れ晴れとするのを感じる。
(たくさんの愛を注いでもらった分だけ……。私も、お返ししたいわ……)
どんなことをすれば、彼に自分の想いが伝わるだろうか? そう、羽音が悩んでいた時だった。
廊下に繋がる襖が開け放たれ、藤郷が姿を見せたのは。
「羽音……!」
悲痛な叫び声とともに愛する妻の名を呼んだ鬼神は、襖を閉じるのを忘れてこちらにやってきた。
その慌ただしい様子を見てクスクスと笑いながら、申し訳なさそうに謝罪を口にする。
「心配をかけるつもりは、なかったのですが……。申し訳ございません……」
「謝らないでくれ……! 羽音が、無事でよかった……! 目覚めなかったらと思うだけで、俺は気が気で仕方ない……!」
この発言は、それだけ夫が妻を愛している証拠だ。
それを嬉しく思った羽音は、己の意思で彼に抱きついた。
「羽音……?」
「大丈夫、ですよ……。私はちゃんと、ここにいます……」
まさかこちらから藤郷に触れるなど、思いもしなかったのだろう。
夫は戸惑う様子を見せていたが、それを受け入れるように背中へ逞しい腕を回した。
(藤郷様の妻として、彼のそばにいることこそが、私の幸せ……)
羽音は鬼神のぬくもりを堪能しながら、彼に対する想いを深めた。
