仕出しだけでなく、店舗も持っていておいしいと評判のうな重が提供されている。
店に近づくにつれて炭火焼のいい香りが漂ってきて、店の前には行列ができていた。

「こんなに忙しいそうで、話はできるかしら?」
千尋が心配になって言うと男は「大丈夫だ」と、うなづいてみせた。

なんでも料理人を数人雇っているようで、義理母と関係のある本人はあまり表には出てこないらしい。
店の裏側に回って勝手口を覗いてみると、中年を少しすぎたくらいの男がテーブルの椅子に座って紙幣を数えていた。

「松さん。元気か?」
元旦那が声をかけると紙幣を数えていた男が手をとめ、慌てた様子で立ち上がった。