「娘が悪いわけがない。僕が離縁したのはあいつの気性が荒いからだ。最近はどうか知らないけれどすぐに怒って手がつけられなくなるんだよ。昨日のミツのようにな」

男は昨日ミツが千尋の靴を奪うのを見ていたのだろう。
その母親譲りの気性の荒さと幼いころの面影で、ミツだとわかったに違いない。

「それにあいつは色欲がすごいんだ。外に何人もの男がいた。それに嫌気が差したんだよ」
「義理母の色欲はよくわかります。とくに若くてお金のある男性が好きみたいです」

自分がその男たちを釣り上げるために引き取られたことはさすがに伏せておいた。
自分の名誉のためにだ。
けれど男はなにかを察したように千尋を見つめると、畳に額をこすりつけるようにして「悪かった」と謝罪したのだった。