あの男と会ったのは街でだったから、この辺をふらふらしていたって出会えるはずもない。
せめて街まで出なければなにも進展しないとわかっているけれど、やはり歩くことはできなかった。

「もう嫌。どうして私を捨てたのお母さん」

見たこともない母親の姿を脳裏に思い浮かべてみても、その顔はのっぺらぼうで着ている着物はミツと同じ橙色で自分の想像力にすら嫌気がさした。

考えることもやめてみたとき太陽はすっかり落ちて月が上り、川がゴウゴウと大きな音を立てて流れていた。
雨が降ったわけじゃなくてもこの川は荒川と呼ばれている通り年中気性の荒い流れ方をしている。

そのため人はほとんど近づかなかった。