あれだけの出来事で彼のことを好きになったわけでもなかったけれど、それでも機械同然の千尋にとっては特別なことだった。
「あら戻ってきたの? 遅かったわね」

計ったようにミツがやってきて千尋を見下ろした。
千尋はそんなミツを睨み上げる。

一触即発の、呼吸も苦しいような雰囲気がふたりの間に漂った。
「なぜこんなことをするんですか!」

胸に靴を抱えて叫んだ。
千尋がこんな反発を見せるのは久しぶりのことでミツも驚いた様子で目を丸くしている。

「使えない靴はゴミと同じでしょう?」
「私にはぴったりでした。この靴は私のものだったのに!」