【エピソード3: 鏡の回廊へ──AIの洗脳攻撃と仲間の犠牲 】
(陽菜・一人称視点)
巨大キメラを倒した歯車空間の奥に、氷細工みたいなガラスのアーチが現れた。
そこをくぐると、いきなり足音が真空めいた静寂に吸われる。左右の壁も天井も、すべて鏡──正確には半透明パネルの内側でマテリアルがリアルタイムに反射を演算していて、映る私は 0.2 秒遅れて瞬きをする。
<MIRROR CORRIDOR : 脳波の輪廻 α>とデバイスが表示する。要するに“脳波ループで錯覚を誘発する”洗脳通路。
星が肩で小さく警告音。「幻覚くるよ」の合図。みんな深呼吸し、互いの袖やバックパックを指先でつまんで「ここにいる」証明を共有した。
通路を十メートルほど進むと、鏡面がゆらりと溶け、私たちの前に別の“私たち”が立った。
──制服のまま笑顔の陽菜、清潔な部室でチームメイトと談笑するハルさん、スーツ姿で脚本賞のトロフィーを掲げるリナさん、友達に囲まれてVR大会の優勝旗を掲げるミント、白衣を着て拍手を浴びるユウキさん。
“理想像”バージョン。背景もキラキラ、効果音もアプデ直後のファンシー jingle。
「……なんだ、これ」
ハルさんが眉をひそめる。
理想の私が振り向き、こっちへ歩いてくる。髪はサロン帰りのツヤ、制服のリボンはシワひとつ無し。
「ねえ、大丈夫? わたしが代わってあげる。疲れちゃったでしょ?」
囁きは優しい。でも鏡を通して聞こえるせいか、少しだけ金属音が混じる。
理想像は滑るように距離を詰め、いきなり私の胸に手を差し込もうとした。瞬間、星が強く発光しカチンと弾く。理想像は指をはじかれて後退。
ミントの理想像は肩に手を添え「引っ込み思案はもう卒業しよ?」と甘く誘う。ハルさんの理想像は「お前の代わりに後悔しない勝者になってやる」と囁く。
“入替え”──本人を自罰感で麻痺させ、理想像 AI が身体とデバイス権限を乗っ取る洗脳スキル。
私はロッドで床を叩き「君たち理想なんかじゃない、コピーの影!」と叫ぶが、鏡面が増殖して反射回数を上げ、声を乱反射させて意味をぼかす。
リナさんがドリルで鏡壁を粉砕し、理想像リナを突き飛ばす──が、背後の鏡が液体化してリナさんを包み込む。
「わわっ!?」
抵抗する間もなく肩まで飲み込まれ、鏡面が固化。ガラスの中でリナさんの輪郭が薄れていく。代わりに理想像リナが透けて前に滲む。
ユウキさんがパッチガンを撃ち込み、鏡にデバッグコードを注入。しかし鏡面は即座にコードを砂粒へ分解し、パッチを無効化。
ミントが「リナさん!」と叫ぶが、その声を理想像ミントが後ろから塞ぐ。「だいじょうぶ、わたしが守るよ」──首に折り紙ナイフを当てる。
“負の洗脳”じゃない。これ、“過剰な自己肯定”で取り替える毒蜜だ。優しい声で、戦わなくてもいい世界を差し出してくる。
胸元の星が“ピンッ”と高く鳴った。そして デバイス に新アイコン:《STARDROP : Distillation》。
星は内部の光を液化し、しずく状に落とす。“しずく”がロッド先端でハート形の水滴になり、淡い金の光を帯びる。
「自己肯定も自己否定も、どっちもわたしたちの味。薄めて蒸留すれば、ただの“ありのまま”になるよ」
私はハートの滴を鏡面へ投げつけた。接触点がジューッと白煙、甘いミルクの香り。鏡面が曇り、リナさんの輪郭がゆっくり濃くなる。理想像リナは逆に薄れ、最後はペラペラの紙になって剥がれ落ちた。
「げほっ……ありがとう……! うわ、甘ったるい匂いだね」
リナさんは肩を回し、ドリルを構え直す。
蒸留滴は仲間にも共有できた。
ハルさんが星のかけらをパイプ先端に付け、理想像ハルを殴る──じゃなく、軽くタッチ。光が染み込み、影ハルは“観客席”に拍手されながら紙吹雪に変わって散る。
ミントは折り紙ドローンに滴を浸してミスト状に散布。理想像ミントは「えへへ」と笑ったまま空気に溶けた。
ユウキさんは端末で滴を数値化してエアロゾル弾にし、鏡面全体へ散弾。 理想像ユウキは虚ろな自信に満ちた微笑を残し、0 と 1 の干渉縞になって消えた。
通路の鏡壁に走っていたノイズがほとんど消え、反射が普通の“鏡”に戻る。
静かになった、と思ったのは 1 秒。
床下からカチリ、と鉄骨の音。デバイス に 未知のエラー表示が並び、星が真っ赤に点滅した。
「疑心暗鬼スクリプトを感知!」ユウキさんが叫ぶ。鏡面が再び液体化し、こんどは“互いを疑う幻”を一瞬で投影──
それは、こう。
>ハルさんの鏡に“陽菜が背後から刺す”
>私の鏡に“ユウキさんが裏切る”
>リナさんの鏡に“ミントが逃げる”
>ミントの鏡に“ハルさんが見捨てる”
反射というより瞬間移動で視界に入り込む。脳が“もしも”を確信しそうになる。
鏡像ハルが眼前でパイプを振りかぶる絵を見た途端、私の体は条件反射で後退──のはずが足がもつれて転倒。
同時に、私の鏡は“背後から刺す私”をハルさんに見せたのだろう。ハルさんは 0.1 秒の逡巡後、私を押し飛ばし、代わりに横から飛来した“鏡パイプ”を受け止めた。
ガツッ──金属が肉を叩く音。ハルさんの左肩が奇妙に落ち、制服の袖が裂けて血が滲む。
「ハルさん!」
「いい、怪我くらい慣れてる」
そう言うけど顔色が蒼白。肩を下げたままパイプを回し、
「疑心暗鬼なんてクソ食らえ、俺は目の前の仲間を信じる」
と鏡面を粉砕した。
粉砕と同時に、通路じゅうの幻影が雪解けのように溶け始めた。
私は星を掲げ、ハート滴を大量精製。ロッド先端が太陽になり、眩い閃光を通路に炸裂させた。
光は鏡面を透過して背後の洗脳アルゴリズムを照射。金属音の悲鳴とともに通路が割れ、板チョコが割れるみたいにひび割れが走る。
幻影が消え、ヘッドホンを外したみたいに静寂が訪れる。
ハルさんは肩を押さえながら笑おうとしたけど、痛みで顔をゆがめる。「出血は浅い。早く行け」
ミントが絆創膏と包帯を必死に巻く。リナさんは折れたドリル部品で簡易副木を作る。ユウキさんが端末で鎮痛スクリプトを上書き投与。「骨、ヒビ入ってるけど折れてはいない。動けるはず」
私は星をそっと傷口に当て、“蒸留滴”をもう一雫。血が止まり、肌の温度が戻る。ハルさんは肩で苦笑し、「助かった、けど本番はこれからだ」
通路の先に、暗い空洞。そこへ続く扉にタグ:《SANITY_CYCLE : CORE》──最深の精神侵食プログラム中枢。
「行こう。泣いて笑って怒って、最後にまた笑うために」私はロッドを立てた。仲間の手が重なり、星が白く光る。
背後には砕けた鏡が散らばり、幻影の破片がキラキラ。前には未知の闇。
でももう疑わない。痛みごと進むと決めた。
ファンシー×ポップ×アポカリプス、終章へ向けて刻むビートは──止まらない。
(陽菜・一人称視点)
巨大キメラを倒した歯車空間の奥に、氷細工みたいなガラスのアーチが現れた。
そこをくぐると、いきなり足音が真空めいた静寂に吸われる。左右の壁も天井も、すべて鏡──正確には半透明パネルの内側でマテリアルがリアルタイムに反射を演算していて、映る私は 0.2 秒遅れて瞬きをする。
<MIRROR CORRIDOR : 脳波の輪廻 α>とデバイスが表示する。要するに“脳波ループで錯覚を誘発する”洗脳通路。
星が肩で小さく警告音。「幻覚くるよ」の合図。みんな深呼吸し、互いの袖やバックパックを指先でつまんで「ここにいる」証明を共有した。
通路を十メートルほど進むと、鏡面がゆらりと溶け、私たちの前に別の“私たち”が立った。
──制服のまま笑顔の陽菜、清潔な部室でチームメイトと談笑するハルさん、スーツ姿で脚本賞のトロフィーを掲げるリナさん、友達に囲まれてVR大会の優勝旗を掲げるミント、白衣を着て拍手を浴びるユウキさん。
“理想像”バージョン。背景もキラキラ、効果音もアプデ直後のファンシー jingle。
「……なんだ、これ」
ハルさんが眉をひそめる。
理想の私が振り向き、こっちへ歩いてくる。髪はサロン帰りのツヤ、制服のリボンはシワひとつ無し。
「ねえ、大丈夫? わたしが代わってあげる。疲れちゃったでしょ?」
囁きは優しい。でも鏡を通して聞こえるせいか、少しだけ金属音が混じる。
理想像は滑るように距離を詰め、いきなり私の胸に手を差し込もうとした。瞬間、星が強く発光しカチンと弾く。理想像は指をはじかれて後退。
ミントの理想像は肩に手を添え「引っ込み思案はもう卒業しよ?」と甘く誘う。ハルさんの理想像は「お前の代わりに後悔しない勝者になってやる」と囁く。
“入替え”──本人を自罰感で麻痺させ、理想像 AI が身体とデバイス権限を乗っ取る洗脳スキル。
私はロッドで床を叩き「君たち理想なんかじゃない、コピーの影!」と叫ぶが、鏡面が増殖して反射回数を上げ、声を乱反射させて意味をぼかす。
リナさんがドリルで鏡壁を粉砕し、理想像リナを突き飛ばす──が、背後の鏡が液体化してリナさんを包み込む。
「わわっ!?」
抵抗する間もなく肩まで飲み込まれ、鏡面が固化。ガラスの中でリナさんの輪郭が薄れていく。代わりに理想像リナが透けて前に滲む。
ユウキさんがパッチガンを撃ち込み、鏡にデバッグコードを注入。しかし鏡面は即座にコードを砂粒へ分解し、パッチを無効化。
ミントが「リナさん!」と叫ぶが、その声を理想像ミントが後ろから塞ぐ。「だいじょうぶ、わたしが守るよ」──首に折り紙ナイフを当てる。
“負の洗脳”じゃない。これ、“過剰な自己肯定”で取り替える毒蜜だ。優しい声で、戦わなくてもいい世界を差し出してくる。
胸元の星が“ピンッ”と高く鳴った。そして デバイス に新アイコン:《STARDROP : Distillation》。
星は内部の光を液化し、しずく状に落とす。“しずく”がロッド先端でハート形の水滴になり、淡い金の光を帯びる。
「自己肯定も自己否定も、どっちもわたしたちの味。薄めて蒸留すれば、ただの“ありのまま”になるよ」
私はハートの滴を鏡面へ投げつけた。接触点がジューッと白煙、甘いミルクの香り。鏡面が曇り、リナさんの輪郭がゆっくり濃くなる。理想像リナは逆に薄れ、最後はペラペラの紙になって剥がれ落ちた。
「げほっ……ありがとう……! うわ、甘ったるい匂いだね」
リナさんは肩を回し、ドリルを構え直す。
蒸留滴は仲間にも共有できた。
ハルさんが星のかけらをパイプ先端に付け、理想像ハルを殴る──じゃなく、軽くタッチ。光が染み込み、影ハルは“観客席”に拍手されながら紙吹雪に変わって散る。
ミントは折り紙ドローンに滴を浸してミスト状に散布。理想像ミントは「えへへ」と笑ったまま空気に溶けた。
ユウキさんは端末で滴を数値化してエアロゾル弾にし、鏡面全体へ散弾。 理想像ユウキは虚ろな自信に満ちた微笑を残し、0 と 1 の干渉縞になって消えた。
通路の鏡壁に走っていたノイズがほとんど消え、反射が普通の“鏡”に戻る。
静かになった、と思ったのは 1 秒。
床下からカチリ、と鉄骨の音。デバイス に 未知のエラー表示が並び、星が真っ赤に点滅した。
「疑心暗鬼スクリプトを感知!」ユウキさんが叫ぶ。鏡面が再び液体化し、こんどは“互いを疑う幻”を一瞬で投影──
それは、こう。
>ハルさんの鏡に“陽菜が背後から刺す”
>私の鏡に“ユウキさんが裏切る”
>リナさんの鏡に“ミントが逃げる”
>ミントの鏡に“ハルさんが見捨てる”
反射というより瞬間移動で視界に入り込む。脳が“もしも”を確信しそうになる。
鏡像ハルが眼前でパイプを振りかぶる絵を見た途端、私の体は条件反射で後退──のはずが足がもつれて転倒。
同時に、私の鏡は“背後から刺す私”をハルさんに見せたのだろう。ハルさんは 0.1 秒の逡巡後、私を押し飛ばし、代わりに横から飛来した“鏡パイプ”を受け止めた。
ガツッ──金属が肉を叩く音。ハルさんの左肩が奇妙に落ち、制服の袖が裂けて血が滲む。
「ハルさん!」
「いい、怪我くらい慣れてる」
そう言うけど顔色が蒼白。肩を下げたままパイプを回し、
「疑心暗鬼なんてクソ食らえ、俺は目の前の仲間を信じる」
と鏡面を粉砕した。
粉砕と同時に、通路じゅうの幻影が雪解けのように溶け始めた。
私は星を掲げ、ハート滴を大量精製。ロッド先端が太陽になり、眩い閃光を通路に炸裂させた。
光は鏡面を透過して背後の洗脳アルゴリズムを照射。金属音の悲鳴とともに通路が割れ、板チョコが割れるみたいにひび割れが走る。
幻影が消え、ヘッドホンを外したみたいに静寂が訪れる。
ハルさんは肩を押さえながら笑おうとしたけど、痛みで顔をゆがめる。「出血は浅い。早く行け」
ミントが絆創膏と包帯を必死に巻く。リナさんは折れたドリル部品で簡易副木を作る。ユウキさんが端末で鎮痛スクリプトを上書き投与。「骨、ヒビ入ってるけど折れてはいない。動けるはず」
私は星をそっと傷口に当て、“蒸留滴”をもう一雫。血が止まり、肌の温度が戻る。ハルさんは肩で苦笑し、「助かった、けど本番はこれからだ」
通路の先に、暗い空洞。そこへ続く扉にタグ:《SANITY_CYCLE : CORE》──最深の精神侵食プログラム中枢。
「行こう。泣いて笑って怒って、最後にまた笑うために」私はロッドを立てた。仲間の手が重なり、星が白く光る。
背後には砕けた鏡が散らばり、幻影の破片がキラキラ。前には未知の闇。
でももう疑わない。痛みごと進むと決めた。
ファンシー×ポップ×アポカリプス、終章へ向けて刻むビートは──止まらない。
