【エピソード3:マスコット軍団の襲撃】
ユウキさんが私たちの拠点で過ごすようになって、数日が経った。最初のうちは警戒心いっぱいだったハルさんも、ユウキさんが持っている「運営サイドに関する情報」や「マスコット変異の資料」には興味津々みたい。リナさんや私も、廃墟の埃っぽい空気に耐えながら端末のデータを一緒に覗き見して、わずかな手がかりを拾おうと毎日必死だ。
ただ、正直、全体的には行き詰まり感がある気がする。街の中心部へアクセスしようとしても、モンスターや自警団の存在がややこしくてスムーズには動けないし、実際に街の地形が複雑に崩壊していて、遠回りばかり。せっかくユウキさんと組んでも「はい、すぐ答えが出ました!」なんて展開には程遠い。
その日の朝──いつもより霧っぽい空気が拠点の隙間から入りこんでいて、なんだか肌寒い。私たちは、狭い床に布を敷いて“会議”めいたことをしていた。というのも、そろそろ物資も不足気味だし、ミントやコウジさんの傷も回復してきている(多少マシになった程度だけど)のを考えれば、別の行動を検討すべきかもって。ああ、でも一歩外に出れば危険だらけだから、どうするかが難しいんだよね。
「自警団と連携するかどうか、再度考えたほうがいいんじゃない?」
先に切り出したのはリナさん。肩にまだ包帯を巻いてはいるけれど、だいぶ痛みが引いてきたみたいで落ち着いてる。自警団って、前に私たちが倉庫でちょっともめた連中だよね。あとで妹さん(?)がこっそり謝りに来たって話もあったし、決して単純な集団じゃないっぽいけど、何やら物資や情報を独自に管理してるらしい。
「うーん…でもさ、あの兄貴分っぽい人は口調も強かったし、私たちを仲間扱いしてくれるとは思えなくない?」
私も若干乗り気じゃないんだよね。正直、“支配”みたいな体制だったら嫌だし、わざわざ揉め事を増やすメリットもないし。
するとユウキさんが横から「でも、自警団のリーダー格は街の地形やモンスターの動きにも詳しいって噂だよ。正面からぶつかるのではなく、必要な情報だけ交換するのはありかも」と提案する。たしかに、荒れ果てた廃墟を把握してる人がいるなら、私たちの探索も捗るかもしれないし、ファンシー×ポップのサーバー施設(データセンター)へ行くルートもわかる可能性がある。
「だけど、物資が足りないあの人たちにとって、私たちが持ってる情報なんかが役に立つかどうか…取引するにしてもカードが少なすぎるよな」
ハルさんは冷静な分析を続ける。ユウキさんも「そうかもしれない。僕の端末にあるデータで興味を引けるならいいけど、逆に狙われる可能性もあるし…」と難しい顔。なるほど、そうだよね。下手に“運営資料”を持ってるとバレたら横取りされるリスクもある。
悩みつつ結論が出ない中、私はふと思い出した。「そういえばさ、自警団の妹さん? なんか『元に戻したい』みたいなことを言ってたじゃない。ああいう人が中にいるなら、強硬派ばかりでもないんじゃないかな? 意外と味方になってくれるかもしれないよ」。私がそう言うと、青年が「うん、それも一理ある」と肯定する。「妹さんが情報を欲してたってことは、敵意が全員にあるわけでもないんでしょうね。」
「でも、ぶっちゃけ行ってみないとわからないか。危険も大きいよね…」
リナさんがうなだれる。私は大きく息を吐くしかない。うん、これぞ堂々巡り。結局一歩踏み出さないと前進しないし、それがめちゃくちゃ怖い。ハルさんはずっと腕を組んで考えこんでるし、ユウキさんは難しい顔で黙りこくるし…。
そこでユウキさんが思いきったように口を開いた。「実は…僕、あの自警団に関して少し情報を持ってるんだ。完全に閉鎖的ってわけでもなく、ある程度物資の取引を認めてる節があるらしい。どうにかして、彼らと短時間だけでも話せる場を作れたら、ある程度の安心を得つつ地図やモンスターの出現情報を交換できるかもしれない。」
おお! その言葉にリナさんと私は「やっぱり?」という目で見合わせる。ハルさんも「ほう?」と眼差しを向ける。ユウキさんは「ただし、相手のリーダーは相当疑り深いって話だし、上手くやらないと追い払われるか、最悪…」と唇を噛んで言葉を濁す。
でも、新しい一歩としては興味深い。もし本当に自警団から街の構造やモンスター分布を教えてもらえたら、データセンターへの安全なルートを見出す可能性が高まるし、私たちも延々と危険な勘だけで進む必要がなくなるかもしれない。それこそ、変異したマスコットが多い場所を避けたり、逆にそこに治療のヒントがあったり…。やってみる価値はある…かな?
「リスクはあるが、放置しててもこの街の中心へは行きづらいし、物資が尽きれば全滅だ。どのみち一度接触するのは避けられないと思う」
ハルさんがそうまとめてくれて、私もリナさんも深く頷く。確かにそうだよね。怖いけど、待ってても先細りするだけ。“飢えて死ぬか、踏み出して何か掴むか”──厳しい現実だけど、私はやっぱり生き延びたいし、この世界のファンシーキャラも救いたいと思ってるから、何もしない手はない。
かくして、私たちは「自警団とコンタクトを取る作戦」を検討することになった。場所はどうするか、いつ声をかけるのか、どうやって彼らにこっちの情報を伝えるのか…考えることは山積みだけど、少なくとも“やらない”より“やる”がマシって結論。もちろん、トラブルにならない工夫は必要だけど。
作戦会議が一段落すると、私の頭にふと「あの子」が浮かんだ。前回会った、半変異状態のマスコット、弱々しくて泣き声をあげてた子。彼(彼女?)は結局どこへ行ったんだろう? ユウキさんに「もしやあの子が貴重なサンプルになるんじゃ?」と聞いてみたら、彼は真剣な表情で「そうだね…でも、危険を冒してまで追跡するのは大変だし、今どこにいるかも不明だし…」と歯がゆそうに答える。
「まぁ、もし再会できたら保護してあげたいけど、無理に探すなら危険が大きいな」
ハルさんがさらに現実的な意見を述べる。確かに…。私も、「わかってる、でももしあの子に会えたら、きっと何か気づきがあるんじゃないかなって気がするんだ」と小さく本音をこぼす。リナさんが「まあ、願わくば勝手に近づいてきてほしいよね」と苦笑。そうだね、あれ以上逃げられたらどうしようもないし。
会話が一段落したころ、コウジさんが足の痛みをこらえて「おい、陽菜、ハル…すまないが少し手当てを手伝ってくれないか」と呼んできた。私とハルさんが顔を見合わせて、即座に動く。大怪我じゃないけど、まだ痛むんだろうな。これも日常のルーティンだ。私も慣れたもんで、包帯の巻き直しや軽いマッサージをしながら笑顔で励ます。「ちょっとずつ良くなってますよね?」「えぇ…多分な」とかそんなやり取り。地味だけど大事。
そうこうしていると、ユウキさんは黙々と端末を操作し、何かマッピングソフトみたいなものをいじっている。聞くと、「自警団の動向や今後のルート策定を考える上で、街の地図を再構築したいんだ。崩落した箇所を洗い直す必要があるしね」とのこと。え、そんなのできるんだ…頼もしい。
「すごいね、ユウキさんって。プログラム系に詳しいんだ? もしかしてこの世界の運営とか開発にいたり…」
思わず訊ねるけど、彼は微妙に視線を逸らしつつ「いや、まあ…色々あって。詳しくはそのうち話すかも」と濁す。リナさんが「ふふ、秘密がありそうだわ」なんて笑うけど、本人は苦笑い。「すみません、いまは勘弁して」ときっぱり断るその顔に何か重いものを感じる。
そんな風に新メンバーとの共同生活が少しずつ落ち着きを見せ始めて、いよいよ「自警団とのコンタクト計画」が具体化していく。どのタイミングで彼らにアプローチするか、どうやってこちらの意図を伝えるか、物資の交換で取り引きができるのか…。課題は山盛りだけど、心のどこかで私はワクワクもしている。だって、堂々巡りから脱出して、ほんのわずかでも突破口を見出せるなら、それは前進だと思うから。
……と思った矢先、夕方ごろにまた拠点の入口で物音がした。私が「え、モンスター?」とビクついてハルさんを振り返る。彼はパイプを握りしめ、「静かに」と小声で合図。皆が呼吸を止めた状態で待機する。すると、外から「すみませーん…!」という女性の声が。え、モンスターじゃない? しかも聞き覚えのある声…。
バリケードを少し開けてみると、そこにいたのはあの自警団の妹さんだった。髪を結わえ直して、少し息を弾ませてる。「こないだは突然ごめんなさい! あの…ちょっとだけ話を…」と申し訳なさそうに言う。私たちは面食らって「ど、どうしたの?」となる。
「兄には秘密で来たんです。あなたたち、あの倉庫で何かデータを探してたみたいだから、もしかしたら街の中心に行くつもりなんじゃないかって思って…。私…私も協力したいんです。どうか話を聞いてください」
妹さんはカバンらしきものを抱えて、ペコペコ頭を下げてる。ハルさんが「協力って、あんた何者だ?」と冷たく返すと、「私は…自警団の副団長の妹で、でも兄たちのやり方には反対してて…本当にこの世界をどうにかしたいの」と訴える。その目は真剣だ。
「こういうことしてバレたら、そっちに戻れなくなるんじゃ…?」
私が素朴に疑問を投げかけると、彼女は目を逸らしながら「そうかもしれない。でも、兄たちの強引なやり方で街を支配しても、根本的な解決にはならないと思う。あなたたちはデータセンターを目指してるんでしょ? そこを起動…いや、何かしら操作したら、この世界が変わるかもしれないんだよね?」と矢継ぎ早に言う。
「まあ、はい…私たちはラブナティアを止めたいというか、暴走を止めたいと思ってるんだけど」
私が答えると、彼女はホッとしたように頷き、「なら、私の知ってる情報も役に立つはず。自警団が押さえてるルートや、モンスターの出没エリアの共有だってできる。兄には内緒だけど、少しくらいは持ち出せるかもしれない…」とすごい勢いで話す。うわ、これは重大だ。リスク大きいけど、ありがたい提案だよね。
ハルさんが微妙に眉をひそめている。「こちらとしては助かるが、あんたが危険なんじゃないか?」と正直に指摘。でも彼女は「私だってもう黙っていられない。モンスターに怯え続けるだけの暮らしなんて嫌なんです」と決意をにじませる。すごいなぁ…。
結局、私たちは彼女を拠点に招き入れ、簡単な打ち合わせを始めることにした。ユウキさんは「やっぱり人のつながりって大事だ」とボソッと呟きつつ、ちょっと警戒もしてる。そりゃ、彼女がスパイで罠を仕掛けてるかもしれないし、分かんないよね。でも、いまはやれるだけやってみるしかない。私の胸には、あのマスコットの泣き声や、うさぎの子を思う気持ちがこみあげてくる。
(この道が正しいかどうかはわからない。だけど、ずっと足踏みしてても仕方ないし…前に進むんだ!)
私たちはそう覚悟を決めて、“妹さん”から聞ける情報を一気に引き出すことに。彼女だって命がけで来てくれたし、受け取った情報を活かして、この街をどうにか変えたいと思う。その先にデータセンターがあって、ラブナティアがあって、変わり果てたマスコットたちがいる──少しずつ点と点がつながりつつあるんじゃない?
ユウキさんが私たちの拠点で過ごすようになって、数日が経った。最初のうちは警戒心いっぱいだったハルさんも、ユウキさんが持っている「運営サイドに関する情報」や「マスコット変異の資料」には興味津々みたい。リナさんや私も、廃墟の埃っぽい空気に耐えながら端末のデータを一緒に覗き見して、わずかな手がかりを拾おうと毎日必死だ。
ただ、正直、全体的には行き詰まり感がある気がする。街の中心部へアクセスしようとしても、モンスターや自警団の存在がややこしくてスムーズには動けないし、実際に街の地形が複雑に崩壊していて、遠回りばかり。せっかくユウキさんと組んでも「はい、すぐ答えが出ました!」なんて展開には程遠い。
その日の朝──いつもより霧っぽい空気が拠点の隙間から入りこんでいて、なんだか肌寒い。私たちは、狭い床に布を敷いて“会議”めいたことをしていた。というのも、そろそろ物資も不足気味だし、ミントやコウジさんの傷も回復してきている(多少マシになった程度だけど)のを考えれば、別の行動を検討すべきかもって。ああ、でも一歩外に出れば危険だらけだから、どうするかが難しいんだよね。
「自警団と連携するかどうか、再度考えたほうがいいんじゃない?」
先に切り出したのはリナさん。肩にまだ包帯を巻いてはいるけれど、だいぶ痛みが引いてきたみたいで落ち着いてる。自警団って、前に私たちが倉庫でちょっともめた連中だよね。あとで妹さん(?)がこっそり謝りに来たって話もあったし、決して単純な集団じゃないっぽいけど、何やら物資や情報を独自に管理してるらしい。
「うーん…でもさ、あの兄貴分っぽい人は口調も強かったし、私たちを仲間扱いしてくれるとは思えなくない?」
私も若干乗り気じゃないんだよね。正直、“支配”みたいな体制だったら嫌だし、わざわざ揉め事を増やすメリットもないし。
するとユウキさんが横から「でも、自警団のリーダー格は街の地形やモンスターの動きにも詳しいって噂だよ。正面からぶつかるのではなく、必要な情報だけ交換するのはありかも」と提案する。たしかに、荒れ果てた廃墟を把握してる人がいるなら、私たちの探索も捗るかもしれないし、ファンシー×ポップのサーバー施設(データセンター)へ行くルートもわかる可能性がある。
「だけど、物資が足りないあの人たちにとって、私たちが持ってる情報なんかが役に立つかどうか…取引するにしてもカードが少なすぎるよな」
ハルさんは冷静な分析を続ける。ユウキさんも「そうかもしれない。僕の端末にあるデータで興味を引けるならいいけど、逆に狙われる可能性もあるし…」と難しい顔。なるほど、そうだよね。下手に“運営資料”を持ってるとバレたら横取りされるリスクもある。
悩みつつ結論が出ない中、私はふと思い出した。「そういえばさ、自警団の妹さん? なんか『元に戻したい』みたいなことを言ってたじゃない。ああいう人が中にいるなら、強硬派ばかりでもないんじゃないかな? 意外と味方になってくれるかもしれないよ」。私がそう言うと、青年が「うん、それも一理ある」と肯定する。「妹さんが情報を欲してたってことは、敵意が全員にあるわけでもないんでしょうね。」
「でも、ぶっちゃけ行ってみないとわからないか。危険も大きいよね…」
リナさんがうなだれる。私は大きく息を吐くしかない。うん、これぞ堂々巡り。結局一歩踏み出さないと前進しないし、それがめちゃくちゃ怖い。ハルさんはずっと腕を組んで考えこんでるし、ユウキさんは難しい顔で黙りこくるし…。
そこでユウキさんが思いきったように口を開いた。「実は…僕、あの自警団に関して少し情報を持ってるんだ。完全に閉鎖的ってわけでもなく、ある程度物資の取引を認めてる節があるらしい。どうにかして、彼らと短時間だけでも話せる場を作れたら、ある程度の安心を得つつ地図やモンスターの出現情報を交換できるかもしれない。」
おお! その言葉にリナさんと私は「やっぱり?」という目で見合わせる。ハルさんも「ほう?」と眼差しを向ける。ユウキさんは「ただし、相手のリーダーは相当疑り深いって話だし、上手くやらないと追い払われるか、最悪…」と唇を噛んで言葉を濁す。
でも、新しい一歩としては興味深い。もし本当に自警団から街の構造やモンスター分布を教えてもらえたら、データセンターへの安全なルートを見出す可能性が高まるし、私たちも延々と危険な勘だけで進む必要がなくなるかもしれない。それこそ、変異したマスコットが多い場所を避けたり、逆にそこに治療のヒントがあったり…。やってみる価値はある…かな?
「リスクはあるが、放置しててもこの街の中心へは行きづらいし、物資が尽きれば全滅だ。どのみち一度接触するのは避けられないと思う」
ハルさんがそうまとめてくれて、私もリナさんも深く頷く。確かにそうだよね。怖いけど、待ってても先細りするだけ。“飢えて死ぬか、踏み出して何か掴むか”──厳しい現実だけど、私はやっぱり生き延びたいし、この世界のファンシーキャラも救いたいと思ってるから、何もしない手はない。
かくして、私たちは「自警団とコンタクトを取る作戦」を検討することになった。場所はどうするか、いつ声をかけるのか、どうやって彼らにこっちの情報を伝えるのか…考えることは山積みだけど、少なくとも“やらない”より“やる”がマシって結論。もちろん、トラブルにならない工夫は必要だけど。
作戦会議が一段落すると、私の頭にふと「あの子」が浮かんだ。前回会った、半変異状態のマスコット、弱々しくて泣き声をあげてた子。彼(彼女?)は結局どこへ行ったんだろう? ユウキさんに「もしやあの子が貴重なサンプルになるんじゃ?」と聞いてみたら、彼は真剣な表情で「そうだね…でも、危険を冒してまで追跡するのは大変だし、今どこにいるかも不明だし…」と歯がゆそうに答える。
「まぁ、もし再会できたら保護してあげたいけど、無理に探すなら危険が大きいな」
ハルさんがさらに現実的な意見を述べる。確かに…。私も、「わかってる、でももしあの子に会えたら、きっと何か気づきがあるんじゃないかなって気がするんだ」と小さく本音をこぼす。リナさんが「まあ、願わくば勝手に近づいてきてほしいよね」と苦笑。そうだね、あれ以上逃げられたらどうしようもないし。
会話が一段落したころ、コウジさんが足の痛みをこらえて「おい、陽菜、ハル…すまないが少し手当てを手伝ってくれないか」と呼んできた。私とハルさんが顔を見合わせて、即座に動く。大怪我じゃないけど、まだ痛むんだろうな。これも日常のルーティンだ。私も慣れたもんで、包帯の巻き直しや軽いマッサージをしながら笑顔で励ます。「ちょっとずつ良くなってますよね?」「えぇ…多分な」とかそんなやり取り。地味だけど大事。
そうこうしていると、ユウキさんは黙々と端末を操作し、何かマッピングソフトみたいなものをいじっている。聞くと、「自警団の動向や今後のルート策定を考える上で、街の地図を再構築したいんだ。崩落した箇所を洗い直す必要があるしね」とのこと。え、そんなのできるんだ…頼もしい。
「すごいね、ユウキさんって。プログラム系に詳しいんだ? もしかしてこの世界の運営とか開発にいたり…」
思わず訊ねるけど、彼は微妙に視線を逸らしつつ「いや、まあ…色々あって。詳しくはそのうち話すかも」と濁す。リナさんが「ふふ、秘密がありそうだわ」なんて笑うけど、本人は苦笑い。「すみません、いまは勘弁して」ときっぱり断るその顔に何か重いものを感じる。
そんな風に新メンバーとの共同生活が少しずつ落ち着きを見せ始めて、いよいよ「自警団とのコンタクト計画」が具体化していく。どのタイミングで彼らにアプローチするか、どうやってこちらの意図を伝えるか、物資の交換で取り引きができるのか…。課題は山盛りだけど、心のどこかで私はワクワクもしている。だって、堂々巡りから脱出して、ほんのわずかでも突破口を見出せるなら、それは前進だと思うから。
……と思った矢先、夕方ごろにまた拠点の入口で物音がした。私が「え、モンスター?」とビクついてハルさんを振り返る。彼はパイプを握りしめ、「静かに」と小声で合図。皆が呼吸を止めた状態で待機する。すると、外から「すみませーん…!」という女性の声が。え、モンスターじゃない? しかも聞き覚えのある声…。
バリケードを少し開けてみると、そこにいたのはあの自警団の妹さんだった。髪を結わえ直して、少し息を弾ませてる。「こないだは突然ごめんなさい! あの…ちょっとだけ話を…」と申し訳なさそうに言う。私たちは面食らって「ど、どうしたの?」となる。
「兄には秘密で来たんです。あなたたち、あの倉庫で何かデータを探してたみたいだから、もしかしたら街の中心に行くつもりなんじゃないかって思って…。私…私も協力したいんです。どうか話を聞いてください」
妹さんはカバンらしきものを抱えて、ペコペコ頭を下げてる。ハルさんが「協力って、あんた何者だ?」と冷たく返すと、「私は…自警団の副団長の妹で、でも兄たちのやり方には反対してて…本当にこの世界をどうにかしたいの」と訴える。その目は真剣だ。
「こういうことしてバレたら、そっちに戻れなくなるんじゃ…?」
私が素朴に疑問を投げかけると、彼女は目を逸らしながら「そうかもしれない。でも、兄たちの強引なやり方で街を支配しても、根本的な解決にはならないと思う。あなたたちはデータセンターを目指してるんでしょ? そこを起動…いや、何かしら操作したら、この世界が変わるかもしれないんだよね?」と矢継ぎ早に言う。
「まあ、はい…私たちはラブナティアを止めたいというか、暴走を止めたいと思ってるんだけど」
私が答えると、彼女はホッとしたように頷き、「なら、私の知ってる情報も役に立つはず。自警団が押さえてるルートや、モンスターの出没エリアの共有だってできる。兄には内緒だけど、少しくらいは持ち出せるかもしれない…」とすごい勢いで話す。うわ、これは重大だ。リスク大きいけど、ありがたい提案だよね。
ハルさんが微妙に眉をひそめている。「こちらとしては助かるが、あんたが危険なんじゃないか?」と正直に指摘。でも彼女は「私だってもう黙っていられない。モンスターに怯え続けるだけの暮らしなんて嫌なんです」と決意をにじませる。すごいなぁ…。
結局、私たちは彼女を拠点に招き入れ、簡単な打ち合わせを始めることにした。ユウキさんは「やっぱり人のつながりって大事だ」とボソッと呟きつつ、ちょっと警戒もしてる。そりゃ、彼女がスパイで罠を仕掛けてるかもしれないし、分かんないよね。でも、いまはやれるだけやってみるしかない。私の胸には、あのマスコットの泣き声や、うさぎの子を思う気持ちがこみあげてくる。
(この道が正しいかどうかはわからない。だけど、ずっと足踏みしてても仕方ないし…前に進むんだ!)
私たちはそう覚悟を決めて、“妹さん”から聞ける情報を一気に引き出すことに。彼女だって命がけで来てくれたし、受け取った情報を活かして、この街をどうにか変えたいと思う。その先にデータセンターがあって、ラブナティアがあって、変わり果てたマスコットたちがいる──少しずつ点と点がつながりつつあるんじゃない?
