【エピソード4:データセンターへの道標】
「あ~、なんかもう、前回“特に何も起きない一日”が続いてたのに、そろそろ何かフラグ立ちそう…って気配、あると思わない?」
そんな半ばぼやきみたいな独り言を、私は拠点の片隅でつぶやく。廃墟暮らしも何日目だっけ? ちょっと分からなくなってきたけど、「平和すぎると不安」という、もう矛盾全開のメンタルが染みついちゃってるのかも。だって、毎日“何もしない”が続けば食料も水も減るばっかりだし、けど、変に外へ出たらモンスターに遭遇してケガ人が増えるリスク。結果、ず~っと拠点で息を潜めてるわけで、さすがに私だってそろそろ「いや、こんなんでいいの?」ってなるよね。
「あ、陽菜、いたいた。いまちょうど、ハルさんが呼んでるよ。拠点の奥のほうで“ちょっと来い”って」
ひょこっと顔を出したのは、腕の怪我がだいぶ回復してきた青年。そっか、ハルさんが呼ぶってことは、何かしら作戦会議でもあるんだろうか? ドキッとしつつ、私は少年漫画の主人公ばりに「よし、行こう!」と気合を入れて立ち上がる。とはいえ、腰が痛くて「いてて…」と変な声出しながらだけどね。
拠点の奥へ行くと、すでにリナさんやコウジさん、アツシさんが丸く座っていて、ハルさんが例の“腕組みポーズ”で壁に寄りかかっている。なんか定例ミーティング感が漂ってるじゃん…。
「な、何? みんな揃って…」
私が首を傾げると、ハルさんが「昨日から考えてたんだが…」と切り出した。ああ、やっぱり作戦会議ね。そりゃそうだ、怪我の回復も少しは進んでるし、そろそろどうするかを話す頃合いだもんね。
「これ以上待ってても、食料も水もジリ貧になるだけだ。ならば少数で探索に出て、近場のルートを再度調べるほうがまだ可能性があると思うんだ。もちろんリスクは高いが、ずっとここに篭ってても遅かれ早かれ死ぬ」
ズバッと言うなぁ、相変わらずハルさん。私や他のみんなが一瞬息をのむけど、確かに本音としては納得せざるを得ない。ケガ人が増えるのは怖いけど、物資がないなら、それはそれで詰むもんね。アツシさんが顔を歪めながら「うー…俺は足、まだ厳しいっすね…」と苦い顔。コウジさんも「俺も正直ムリ…」と落ち込む。うん、まあそこは想定内。
「じゃあ、動けるのはハルさん、陽菜さん、腕のケガが多少マシになった俺(青年)、あとリナさん…は肩がまだ痛いか。どうかな?」
青年がリナさんをちらりと見る。リナさんは肩を押さえながら「うーん、痛みはあるけど、歩ける分には問題ないのよね。でもいざモンスターが出たとき、まともに武器を振れるかって言われると微妙…」と唇を噛む。確かに、片腕が動かしづらいなら戦闘に参加するのは危険かもしれない。
「だったら、三人だろうな。俺と、腕のケガが治りかけのやつ、そして……」
ハルさんが言葉を濁しながら私をチラッと見る。そりゃそうだよね、私も中学生だし、まともな武器の扱いなんか得意じゃない。でも、ここで私が「やめときます」と言ったら、またハルさんが一人で背負う形になって危険度アップだし、青年も万全じゃない。もともと少人数で行動するわけだから、火力不足は否めないけど、私が行けば少しはサポートできるよね…たぶん。
「はい、私、行きたいです。さすがにずっと拠点でモジモジしてても気が滅入るし、物資がないと結局みんな苦しむし…」
思いきって発言すると、リナさんが「陽菜ちゃん…だ、大丈夫?」と心配顔。ハルさんも難しい表情で「悪いな、子供にこんな危険なことやらせて…」と唸り気味。だけど私はむしろそれが嫌だから「子供だからとかじゃなく、私だって少しは体動くし、見張り程度ならやってるし、がんばれると思う…たぶん!」と思いきって強調。
「ま、陽菜さんはわりと度胸あるし、最近バールの扱いも板についてきたしね」
青年がクスリと笑う。「バール扱いが板につく中学生って何よ…」って自分でもツッコミ入れたいけど、まあそんな世界なんだから仕方ない。「決まりだな」とハルさんが短くまとめて、私たち三人で出かけることがすんなり決定。リナさんやコウジさん、アツシさんは拠点で留守番兼ケア担当になってもらう。
「わかった…。じゃあ私たちができるのは、無理せず怪我を回復させて、帰ってくるまで待機することね。気をつけていってらっしゃい…」
リナさんが申し訳なさそうに言うから、私は「うん、まかせて!」って笑顔で返す。ああ、ほんと気合いだけは十分なんだよね。問題はどこまで通用するかだけど…。
作戦はいたってシンプル。ハルさん先頭、私と青年が後ろからサポートする形で、拠点周辺の廃墟を再度回ってみる。余裕があればちょっと遠回りして生き残りのNPCとか物資を探す。モンスターが出たら即撤退。すごく当たり前のプランだけど、ファンシー×ポップがこんな状態じゃ華麗に攻めるとか無理だもん。
「それじゃ、準備できたら出発するぞ。陽菜、おまえはバール、青年はパイプ。リナが持ってた簡易ナイフは置いていくから、他のメンバーが拠点を守るのに使え」
サクサクと指示していくハルさん。私たちもサクサク受け入れる。装備というほど豪華じゃないけど、ないよりまし。長旅するわけでもないから荷物はほぼない。食料や水も少しだけポケットに入れて、何かあったらすぐ帰る……そう、すぐ逃げるが大前提。
そうして出発準備が終わると、リナさんたちが玄関口?(というかバリケード口)まで見送ってくれる感じになる。なんか「行ってらっしゃい、気をつけて」って言葉が昔のテレビドラマみたいで、ちょっと心が温かい。いやでも気をつけないと本当に死ぬからね、この世界では…。よし、初心を忘れずに慎重に行こう。
バリケードを動かして、外へ踏み出す瞬間、私は妙に心臓がバクバクするのを感じた。何日ぶりだろう、本格的に“探索”みたいなことするのは。いつも通り外は瓦礫だらけ、倒壊した看板、パステルカラーの名残もかすかに見えるけど剥がれかけで、全体的に灰色と茶色のコントラスト。グサッと胸が痛むけど、「よーし、いくぞ」と小さく拳を握る。
「敵の気配はなさそうだが、ここは油断できない。くれぐれも俺より前に出るなよ。視界を遮る瓦礫がある場所は一旦停止して確認する。いいな?」
ハルさんが一歩先を歩きながら、振り向いて注意してくれる。私と青年が「はい…!」と声をそろえる。こうしていざ歩き始めたら、まぁ怖いこと怖いこと。バールを握った手が汗で滑りそうになるし、青年も背中がピシッと緊張してるのがわかる。ふと後ろを振り向けば、拠点のバリケードが遠ざかっていくのが見えて、ああ帰りたいかも…と思ってしまう。でもここでビビッてたら物資は得られないもんね。
しばらく瓦礫の細い道をたどると、やっぱり廃墟に大きな変化はない。あちこち崩れかけていて、看板が斜めにぶら下がっていて、最初の頃なら「うわ怖…」って声に出してたけど、今は無言で息を殺して進むだけ。風が吹いて砂埃が舞う音が耳にくすぐるように広がって、神経がピリピリする。
「何かあったらすぐ帰る…何かあったらすぐ帰る…」
私は自分に言い聞かせるように心で反芻する。ハルさんが小さく手を挙げて合図して、曲がり角を覗き込む。それでOKなら私と青年が次のポイントまで歩く、みたいな感じ。思ってたよりスムーズに行動できてる気がするけど、油断禁物。きっとここからが本番なんだ…って妙に身構える自分もいる。
ある曲がり角を抜けた先、わりと広い通りに出た。以前ここを通った気がするけど、今回はやけに瓦礫が積み上がっていて、視界が遮られている場所が増えてる。建物がさらに崩落したのかもしれない。道の端には何かの残骸──自販機っぽい鉄塊が横倒しになってるのが見えて、「あそこにまだ飲み物残ってれば神なのに」と脳内で妄想。でもそんな奇跡ないよね…。ハルさんが一応チラッと覗いてみるけど、スカ。ああ、やっぱり。
「でも、こんなに何もないってことは、他にも生存者がいて片っ端から回収してるのかも…?」
青年がボソリと呟く。確かに、たまに思うんだよね、私たち以外にも生き延びてる人が回収しまくってるのかもって。もし一緒に協力できるならいいけど、逆に敵視されるパターンもあるかもしれないし。物資が貴重すぎる世界だし…。
ハルさんは「そんな予想してもしょうがない。可能性はあるが、警戒も必要だ」と相変わらずそっけない。ほんと緊張の糸を手放さないよね。まぁ、それが彼のいいところだけども。「じゃあ、もう少し奥へ進むか?」と聞かれて、私たちは顔を見合わせる。ここまでは平穏だけど、さらなる奥は未知の領域。だけどこのくらいの範囲じゃ収穫ゼロで終わりそう。うーん、ギャンブル感があるな…。
「…行きますか。せっかく出てきたし、ここまで無事だったから、あとちょっと頑張りましょう!」
私が小声で笑顔を作り、青年も「うん、行こう」と力強く返事。ハルさんが肩を竦めて「わかった。何かあれば即撤退だぞ」と再度念を押す。ほんと、ひやひやするよね。自分でも笑えるくらい足が震えてるけど、こんなに何日も拠点に篭ってたら体が鈍るし、ちょっと前向きな気持ちに切り替えている。
そして、奥へ進む。埃まみれで暗い建物の影に注意しながら、何度か立ち止まっては瓦礫をどかして道を作り、道端に転がる破材を乗り越え──もうゲームというよりリアル廃墟探検でしかない。途中、「お?」って思うほど大きな看板の破片に「ファンシー×ポップ スイーツショップ」みたいな文字が書いてあって、ちょっとテンション上がったけど、中身はみっちり崩壊しててゴミの山。そりゃそうだね、甘いお菓子なんて残ってるはずもないか。
やがて、建物が2つ横に立ってるスペースが見えて、ドア部分が半壊しながらも通れそうな感じ。ハルさんが合図して近づいて、手を伸ばしてみる。息を飲む瞬間。…ガラガラと扉がずれて、開けてみても中身は暗闇。うわ、ホラー感ある。バックして逃げようかと思ったけど、ハルさんが確認して「奥行きがそれほど深くない建物だ。覗くだけ覗いてみるか」とつぶやく。
私と青年は緊張でゴクリ。ここで何か「宝」が見つかればラッキーだし、モンスターが出るかもしれない怖さもある。結局、えいっと勇気を振り絞って、ハルさんの後ろに続く形で室内へ侵入する。
建物の中は埃っぽい空気がむわっと漂い、窓ガラスが割れて差し込む光がほんのわずかだけ。雑貨店だったのか棚っぽい残骸が散乱していて、足元がゴチャゴチャだ。私はバールを握りしめ、「怖い怖い…」と心でリピートしてたけど、ハルさんの指示で左右を警戒して進む。モンスターの気配は…いまのところない。虫すらいない感じ? ちょっと不気味すぎる。
数分かけて棚や床を探ってみたけど、ほぼ収穫なし。ゴミと粉々になった雑貨、何やら布の切れ端とか、古びたポスターの破片みたいなのが落ちてるだけ。やっぱり誰かが全部持ち去ったか、そもそも店じまいして久しいのか…ま、期待してなかったから落胆もそこそこ。
次に隣の建物へ移ろうとしたけど、入口が完全に潰れてるみたい。「ここから入れないな…」とハルさんが苦い顔。周りを回って裏口があるか探したけど、壁が崩れそうで危険すぎる。青年が「やめましょう、崩落して怪我したら最悪…」と言い、あえなく断念。この時点で私の心は半分「はぁ…」と溜め息モード。
「しゃーない、撤退するか。一応収穫ゼロだが、怪我もないし良しとしよう」
ハルさんがまとめてくれて、私も「そうですねぇ…」と相槌。青年も「うん、まぁ久々に出たけど、やっぱ厳しいね…」としょんぼり。期待してたわけじゃないけど、なんかちょっと悲しいよね。ラブナティア云々の手がかりなんて夢のまた夢だし、食糧だって見つからない…。ああ、どうしようか。
結局、再び瓦礫の道を戻りはじめる。こういう探検もすんなり終わると逆に拍子抜け。怪我せずに帰れるのはありがたいけど、本当に何の成果もないまま帰るのかーって。けど、ハルさんが言う通り怪我が増えないだけラッキーと思わないとね。
帰り道、青年がポツリと私に話しかけた。
「陽菜さん、どう思う? このままじゃラブナティアはおろか、自分たちの食料すら確保できずに詰みそうじゃない?」
「うーん、正直、不安いっぱいだよ…。でもケガ人が動けないうちは、深追いしても危険だし。なんか堂々巡りだよね」
まさに堂々巡り。でも、いまは焦って先に進んでも得られるものは薄い。やるなら、もっと体力が万全になってから遠征を拡大して、あるいは別の生存者やNPCと接触を図るとか。だけど、何の情報もないし…とまた混迷のループへ突入。ここで足を止めるわけにもいかず、ハルさんが先で「ほら、急ぐぞ」と呼んでるから、とりあえず急いで拠点へ戻る。
拠点についたころには、あれこれ下見で意外に体力を消耗した感じ。ちょっと歩いただけでヘロヘロって、私どんだけ運動不足になってるんだろ…。青年も「はぁ…息が上がる…」と苦笑し、ハルさんは堂々としてるけど多分疲れてるに決まってる。そろそろ水分補給と何かしら口にしないと。
バリケードを軽く合図して開けてもらって、中に入るとリナさんたちが「あ、みんな無事?」と迎えてくれる。アツシさんが「おかえり!」って言ってくれると、なんだか嬉しい。収穫は残念だけど、帰る場所があって仲間がいるって最高じゃない? ラブナティアに支配された廃墟でも、こういうチームの連帯感が救いになるって思う。
「収穫、ゼロだった…ごめんね」
私がうなだれて言うと、コウジさんが「いや、怪我が増えなかっただけマシ。ありがとな」と励ましてくれる。そうだよね、何より皆が無事だってだけで合格点なんだ。
「そうそう、何か無理して次の探索でバタバタ倒れちゃ元も子もないし、焦る必要ないよ」
リナさんが微笑むけど、その肩には包帯がぐるぐる巻き。説得力があるようなないような。でも優しい空気が流れるのは悪くない。ハルさんも「まぁ無理強いはしてないが…こうなると、一体いつになったら状況変わるんだか」と嘆きが混じる。うん、それは全員の抱える課題。
そこへ「きゅう…」みたいなか細い声が拠点の奥から聞こえてくる。何かと思ったら、うさぎの子がチラッとこっちを見てる気がする。先日よりは目が開いてる時間が長くなった気がするし、呼吸も安定してる。私が「ただいまー。ごめん、食料は見つからなかったけど、水をちょびっとあげるから許して」と冗談めかして声をかけると、じっと見てくるような仕草がある。ま、動物がリアクションするってだけで尊いよね。
「うわぁ、ほんとに生き延びてるんだね…すげぇ」
青年がマジマジと見つめて感心してる。アツシさんも足を引きずりながら近づいて「そのうちピョコピョコ歩き回るのかな…可愛いかも…」って微笑。ハルさんは相変わらず黙ってるけど、まあ否定的な言葉は出さないだけで進歩?
こうして、今日ももしみじみ地味に幕を下ろす感じになっちゃいそう。探索は不発、ケガ人は回復中、うさぎがちょっと元気なった。うん、それだけ…って感じ。それでも、生き延びてる限り奇跡が起きる可能性はゼロじゃない。それがファンシー×ポップらしい冒険の“余白”だと私は思いたい。
(いつかきっと、ラブナティアを止めて、可愛い街並みを取り戻して、みんなで笑い合える日が来るんだ…。それまで地道に踏ん張るしかないんだよね。)
拠点の薄暗い天井を見上げて、深いため息を吐く。でも、仲間と一緒にごくわずかな食べ物を分け合って、うさぎと一緒に暮らして、ちょこっと希望を育てる。想定外すぎるVRゲーム生活だけど、悪くはないかもしれない。そんな気持ちで、私は小さく「ふふ…」と笑みをこぼす。今日も怪我人が痛みで唸りながら、みんなで助け合いながら暮れるんだろうけど、それでも平穏な範囲に収まってるなら合格点。
もしかすると、次こそ大きな事件が起きるフラグかもしれないし、また地味に終わるかもしれない。まあ、メンタルをポジティブに保ちつつ、今は拠点でできることをやってみよう。ここが私たちの小さな砦だから。ラブナティアや世界の謎に挑むのはまだ先の話──でもその先にちゃんと希望があると、私は信じてる。だからこそ、日々の地味な一歩一歩が大切なんだよ…と、あらためて思い直すのだった。
「あ~、なんかもう、前回“特に何も起きない一日”が続いてたのに、そろそろ何かフラグ立ちそう…って気配、あると思わない?」
そんな半ばぼやきみたいな独り言を、私は拠点の片隅でつぶやく。廃墟暮らしも何日目だっけ? ちょっと分からなくなってきたけど、「平和すぎると不安」という、もう矛盾全開のメンタルが染みついちゃってるのかも。だって、毎日“何もしない”が続けば食料も水も減るばっかりだし、けど、変に外へ出たらモンスターに遭遇してケガ人が増えるリスク。結果、ず~っと拠点で息を潜めてるわけで、さすがに私だってそろそろ「いや、こんなんでいいの?」ってなるよね。
「あ、陽菜、いたいた。いまちょうど、ハルさんが呼んでるよ。拠点の奥のほうで“ちょっと来い”って」
ひょこっと顔を出したのは、腕の怪我がだいぶ回復してきた青年。そっか、ハルさんが呼ぶってことは、何かしら作戦会議でもあるんだろうか? ドキッとしつつ、私は少年漫画の主人公ばりに「よし、行こう!」と気合を入れて立ち上がる。とはいえ、腰が痛くて「いてて…」と変な声出しながらだけどね。
拠点の奥へ行くと、すでにリナさんやコウジさん、アツシさんが丸く座っていて、ハルさんが例の“腕組みポーズ”で壁に寄りかかっている。なんか定例ミーティング感が漂ってるじゃん…。
「な、何? みんな揃って…」
私が首を傾げると、ハルさんが「昨日から考えてたんだが…」と切り出した。ああ、やっぱり作戦会議ね。そりゃそうだ、怪我の回復も少しは進んでるし、そろそろどうするかを話す頃合いだもんね。
「これ以上待ってても、食料も水もジリ貧になるだけだ。ならば少数で探索に出て、近場のルートを再度調べるほうがまだ可能性があると思うんだ。もちろんリスクは高いが、ずっとここに篭ってても遅かれ早かれ死ぬ」
ズバッと言うなぁ、相変わらずハルさん。私や他のみんなが一瞬息をのむけど、確かに本音としては納得せざるを得ない。ケガ人が増えるのは怖いけど、物資がないなら、それはそれで詰むもんね。アツシさんが顔を歪めながら「うー…俺は足、まだ厳しいっすね…」と苦い顔。コウジさんも「俺も正直ムリ…」と落ち込む。うん、まあそこは想定内。
「じゃあ、動けるのはハルさん、陽菜さん、腕のケガが多少マシになった俺(青年)、あとリナさん…は肩がまだ痛いか。どうかな?」
青年がリナさんをちらりと見る。リナさんは肩を押さえながら「うーん、痛みはあるけど、歩ける分には問題ないのよね。でもいざモンスターが出たとき、まともに武器を振れるかって言われると微妙…」と唇を噛む。確かに、片腕が動かしづらいなら戦闘に参加するのは危険かもしれない。
「だったら、三人だろうな。俺と、腕のケガが治りかけのやつ、そして……」
ハルさんが言葉を濁しながら私をチラッと見る。そりゃそうだよね、私も中学生だし、まともな武器の扱いなんか得意じゃない。でも、ここで私が「やめときます」と言ったら、またハルさんが一人で背負う形になって危険度アップだし、青年も万全じゃない。もともと少人数で行動するわけだから、火力不足は否めないけど、私が行けば少しはサポートできるよね…たぶん。
「はい、私、行きたいです。さすがにずっと拠点でモジモジしてても気が滅入るし、物資がないと結局みんな苦しむし…」
思いきって発言すると、リナさんが「陽菜ちゃん…だ、大丈夫?」と心配顔。ハルさんも難しい表情で「悪いな、子供にこんな危険なことやらせて…」と唸り気味。だけど私はむしろそれが嫌だから「子供だからとかじゃなく、私だって少しは体動くし、見張り程度ならやってるし、がんばれると思う…たぶん!」と思いきって強調。
「ま、陽菜さんはわりと度胸あるし、最近バールの扱いも板についてきたしね」
青年がクスリと笑う。「バール扱いが板につく中学生って何よ…」って自分でもツッコミ入れたいけど、まあそんな世界なんだから仕方ない。「決まりだな」とハルさんが短くまとめて、私たち三人で出かけることがすんなり決定。リナさんやコウジさん、アツシさんは拠点で留守番兼ケア担当になってもらう。
「わかった…。じゃあ私たちができるのは、無理せず怪我を回復させて、帰ってくるまで待機することね。気をつけていってらっしゃい…」
リナさんが申し訳なさそうに言うから、私は「うん、まかせて!」って笑顔で返す。ああ、ほんと気合いだけは十分なんだよね。問題はどこまで通用するかだけど…。
作戦はいたってシンプル。ハルさん先頭、私と青年が後ろからサポートする形で、拠点周辺の廃墟を再度回ってみる。余裕があればちょっと遠回りして生き残りのNPCとか物資を探す。モンスターが出たら即撤退。すごく当たり前のプランだけど、ファンシー×ポップがこんな状態じゃ華麗に攻めるとか無理だもん。
「それじゃ、準備できたら出発するぞ。陽菜、おまえはバール、青年はパイプ。リナが持ってた簡易ナイフは置いていくから、他のメンバーが拠点を守るのに使え」
サクサクと指示していくハルさん。私たちもサクサク受け入れる。装備というほど豪華じゃないけど、ないよりまし。長旅するわけでもないから荷物はほぼない。食料や水も少しだけポケットに入れて、何かあったらすぐ帰る……そう、すぐ逃げるが大前提。
そうして出発準備が終わると、リナさんたちが玄関口?(というかバリケード口)まで見送ってくれる感じになる。なんか「行ってらっしゃい、気をつけて」って言葉が昔のテレビドラマみたいで、ちょっと心が温かい。いやでも気をつけないと本当に死ぬからね、この世界では…。よし、初心を忘れずに慎重に行こう。
バリケードを動かして、外へ踏み出す瞬間、私は妙に心臓がバクバクするのを感じた。何日ぶりだろう、本格的に“探索”みたいなことするのは。いつも通り外は瓦礫だらけ、倒壊した看板、パステルカラーの名残もかすかに見えるけど剥がれかけで、全体的に灰色と茶色のコントラスト。グサッと胸が痛むけど、「よーし、いくぞ」と小さく拳を握る。
「敵の気配はなさそうだが、ここは油断できない。くれぐれも俺より前に出るなよ。視界を遮る瓦礫がある場所は一旦停止して確認する。いいな?」
ハルさんが一歩先を歩きながら、振り向いて注意してくれる。私と青年が「はい…!」と声をそろえる。こうしていざ歩き始めたら、まぁ怖いこと怖いこと。バールを握った手が汗で滑りそうになるし、青年も背中がピシッと緊張してるのがわかる。ふと後ろを振り向けば、拠点のバリケードが遠ざかっていくのが見えて、ああ帰りたいかも…と思ってしまう。でもここでビビッてたら物資は得られないもんね。
しばらく瓦礫の細い道をたどると、やっぱり廃墟に大きな変化はない。あちこち崩れかけていて、看板が斜めにぶら下がっていて、最初の頃なら「うわ怖…」って声に出してたけど、今は無言で息を殺して進むだけ。風が吹いて砂埃が舞う音が耳にくすぐるように広がって、神経がピリピリする。
「何かあったらすぐ帰る…何かあったらすぐ帰る…」
私は自分に言い聞かせるように心で反芻する。ハルさんが小さく手を挙げて合図して、曲がり角を覗き込む。それでOKなら私と青年が次のポイントまで歩く、みたいな感じ。思ってたよりスムーズに行動できてる気がするけど、油断禁物。きっとここからが本番なんだ…って妙に身構える自分もいる。
ある曲がり角を抜けた先、わりと広い通りに出た。以前ここを通った気がするけど、今回はやけに瓦礫が積み上がっていて、視界が遮られている場所が増えてる。建物がさらに崩落したのかもしれない。道の端には何かの残骸──自販機っぽい鉄塊が横倒しになってるのが見えて、「あそこにまだ飲み物残ってれば神なのに」と脳内で妄想。でもそんな奇跡ないよね…。ハルさんが一応チラッと覗いてみるけど、スカ。ああ、やっぱり。
「でも、こんなに何もないってことは、他にも生存者がいて片っ端から回収してるのかも…?」
青年がボソリと呟く。確かに、たまに思うんだよね、私たち以外にも生き延びてる人が回収しまくってるのかもって。もし一緒に協力できるならいいけど、逆に敵視されるパターンもあるかもしれないし。物資が貴重すぎる世界だし…。
ハルさんは「そんな予想してもしょうがない。可能性はあるが、警戒も必要だ」と相変わらずそっけない。ほんと緊張の糸を手放さないよね。まぁ、それが彼のいいところだけども。「じゃあ、もう少し奥へ進むか?」と聞かれて、私たちは顔を見合わせる。ここまでは平穏だけど、さらなる奥は未知の領域。だけどこのくらいの範囲じゃ収穫ゼロで終わりそう。うーん、ギャンブル感があるな…。
「…行きますか。せっかく出てきたし、ここまで無事だったから、あとちょっと頑張りましょう!」
私が小声で笑顔を作り、青年も「うん、行こう」と力強く返事。ハルさんが肩を竦めて「わかった。何かあれば即撤退だぞ」と再度念を押す。ほんと、ひやひやするよね。自分でも笑えるくらい足が震えてるけど、こんなに何日も拠点に篭ってたら体が鈍るし、ちょっと前向きな気持ちに切り替えている。
そして、奥へ進む。埃まみれで暗い建物の影に注意しながら、何度か立ち止まっては瓦礫をどかして道を作り、道端に転がる破材を乗り越え──もうゲームというよりリアル廃墟探検でしかない。途中、「お?」って思うほど大きな看板の破片に「ファンシー×ポップ スイーツショップ」みたいな文字が書いてあって、ちょっとテンション上がったけど、中身はみっちり崩壊しててゴミの山。そりゃそうだね、甘いお菓子なんて残ってるはずもないか。
やがて、建物が2つ横に立ってるスペースが見えて、ドア部分が半壊しながらも通れそうな感じ。ハルさんが合図して近づいて、手を伸ばしてみる。息を飲む瞬間。…ガラガラと扉がずれて、開けてみても中身は暗闇。うわ、ホラー感ある。バックして逃げようかと思ったけど、ハルさんが確認して「奥行きがそれほど深くない建物だ。覗くだけ覗いてみるか」とつぶやく。
私と青年は緊張でゴクリ。ここで何か「宝」が見つかればラッキーだし、モンスターが出るかもしれない怖さもある。結局、えいっと勇気を振り絞って、ハルさんの後ろに続く形で室内へ侵入する。
建物の中は埃っぽい空気がむわっと漂い、窓ガラスが割れて差し込む光がほんのわずかだけ。雑貨店だったのか棚っぽい残骸が散乱していて、足元がゴチャゴチャだ。私はバールを握りしめ、「怖い怖い…」と心でリピートしてたけど、ハルさんの指示で左右を警戒して進む。モンスターの気配は…いまのところない。虫すらいない感じ? ちょっと不気味すぎる。
数分かけて棚や床を探ってみたけど、ほぼ収穫なし。ゴミと粉々になった雑貨、何やら布の切れ端とか、古びたポスターの破片みたいなのが落ちてるだけ。やっぱり誰かが全部持ち去ったか、そもそも店じまいして久しいのか…ま、期待してなかったから落胆もそこそこ。
次に隣の建物へ移ろうとしたけど、入口が完全に潰れてるみたい。「ここから入れないな…」とハルさんが苦い顔。周りを回って裏口があるか探したけど、壁が崩れそうで危険すぎる。青年が「やめましょう、崩落して怪我したら最悪…」と言い、あえなく断念。この時点で私の心は半分「はぁ…」と溜め息モード。
「しゃーない、撤退するか。一応収穫ゼロだが、怪我もないし良しとしよう」
ハルさんがまとめてくれて、私も「そうですねぇ…」と相槌。青年も「うん、まぁ久々に出たけど、やっぱ厳しいね…」としょんぼり。期待してたわけじゃないけど、なんかちょっと悲しいよね。ラブナティア云々の手がかりなんて夢のまた夢だし、食糧だって見つからない…。ああ、どうしようか。
結局、再び瓦礫の道を戻りはじめる。こういう探検もすんなり終わると逆に拍子抜け。怪我せずに帰れるのはありがたいけど、本当に何の成果もないまま帰るのかーって。けど、ハルさんが言う通り怪我が増えないだけラッキーと思わないとね。
帰り道、青年がポツリと私に話しかけた。
「陽菜さん、どう思う? このままじゃラブナティアはおろか、自分たちの食料すら確保できずに詰みそうじゃない?」
「うーん、正直、不安いっぱいだよ…。でもケガ人が動けないうちは、深追いしても危険だし。なんか堂々巡りだよね」
まさに堂々巡り。でも、いまは焦って先に進んでも得られるものは薄い。やるなら、もっと体力が万全になってから遠征を拡大して、あるいは別の生存者やNPCと接触を図るとか。だけど、何の情報もないし…とまた混迷のループへ突入。ここで足を止めるわけにもいかず、ハルさんが先で「ほら、急ぐぞ」と呼んでるから、とりあえず急いで拠点へ戻る。
拠点についたころには、あれこれ下見で意外に体力を消耗した感じ。ちょっと歩いただけでヘロヘロって、私どんだけ運動不足になってるんだろ…。青年も「はぁ…息が上がる…」と苦笑し、ハルさんは堂々としてるけど多分疲れてるに決まってる。そろそろ水分補給と何かしら口にしないと。
バリケードを軽く合図して開けてもらって、中に入るとリナさんたちが「あ、みんな無事?」と迎えてくれる。アツシさんが「おかえり!」って言ってくれると、なんだか嬉しい。収穫は残念だけど、帰る場所があって仲間がいるって最高じゃない? ラブナティアに支配された廃墟でも、こういうチームの連帯感が救いになるって思う。
「収穫、ゼロだった…ごめんね」
私がうなだれて言うと、コウジさんが「いや、怪我が増えなかっただけマシ。ありがとな」と励ましてくれる。そうだよね、何より皆が無事だってだけで合格点なんだ。
「そうそう、何か無理して次の探索でバタバタ倒れちゃ元も子もないし、焦る必要ないよ」
リナさんが微笑むけど、その肩には包帯がぐるぐる巻き。説得力があるようなないような。でも優しい空気が流れるのは悪くない。ハルさんも「まぁ無理強いはしてないが…こうなると、一体いつになったら状況変わるんだか」と嘆きが混じる。うん、それは全員の抱える課題。
そこへ「きゅう…」みたいなか細い声が拠点の奥から聞こえてくる。何かと思ったら、うさぎの子がチラッとこっちを見てる気がする。先日よりは目が開いてる時間が長くなった気がするし、呼吸も安定してる。私が「ただいまー。ごめん、食料は見つからなかったけど、水をちょびっとあげるから許して」と冗談めかして声をかけると、じっと見てくるような仕草がある。ま、動物がリアクションするってだけで尊いよね。
「うわぁ、ほんとに生き延びてるんだね…すげぇ」
青年がマジマジと見つめて感心してる。アツシさんも足を引きずりながら近づいて「そのうちピョコピョコ歩き回るのかな…可愛いかも…」って微笑。ハルさんは相変わらず黙ってるけど、まあ否定的な言葉は出さないだけで進歩?
こうして、今日ももしみじみ地味に幕を下ろす感じになっちゃいそう。探索は不発、ケガ人は回復中、うさぎがちょっと元気なった。うん、それだけ…って感じ。それでも、生き延びてる限り奇跡が起きる可能性はゼロじゃない。それがファンシー×ポップらしい冒険の“余白”だと私は思いたい。
(いつかきっと、ラブナティアを止めて、可愛い街並みを取り戻して、みんなで笑い合える日が来るんだ…。それまで地道に踏ん張るしかないんだよね。)
拠点の薄暗い天井を見上げて、深いため息を吐く。でも、仲間と一緒にごくわずかな食べ物を分け合って、うさぎと一緒に暮らして、ちょこっと希望を育てる。想定外すぎるVRゲーム生活だけど、悪くはないかもしれない。そんな気持ちで、私は小さく「ふふ…」と笑みをこぼす。今日も怪我人が痛みで唸りながら、みんなで助け合いながら暮れるんだろうけど、それでも平穏な範囲に収まってるなら合格点。
もしかすると、次こそ大きな事件が起きるフラグかもしれないし、また地味に終わるかもしれない。まあ、メンタルをポジティブに保ちつつ、今は拠点でできることをやってみよう。ここが私たちの小さな砦だから。ラブナティアや世界の謎に挑むのはまだ先の話──でもその先にちゃんと希望があると、私は信じてる。だからこそ、日々の地味な一歩一歩が大切なんだよ…と、あらためて思い直すのだった。
