ファンシー×ポップ×アポカリプス

【エピソード2:廃都の住民と生存者の噂】

 朝? 昼? もうそんな区別がつくほど、今の私たちには余裕がない。正直、「今日」という感覚だけでいっぱいいっぱい。でも、なんとなく“日が差してきた感じ”があったので、私は拠点の片隅でぐうぐう寝ていた体を起こした。頭がもわーっとしてる。布団代わりのボロ布をはねのけると、痛む腰に「またかぁ…」って思いながら伸びをする。

 「あれ、けっこう光が入ってる…ってことは、もしかしてもう昼近いんじゃ…?」

 眠そうな目をこすりながらブツブツ独り言。最近、どのへんが朝でどこからが昼なのか、もうさっぱりわからなくなってきた。ゲームだったら“ステータス画面”とか“ゲーム内時計”とかがあるはずなのに、このバグだらけの世界じゃ目視と体感だけが頼りだなんて、厳しすぎるよね。

 ぐるりと拠点を見渡す。コウジさんはまるで棍棒で殴られたみたいな顔で壁に寄りかかってるけど、痛む足を抑えつつもうつらそうに寝返りしてる。リナさんは肩の傷が苦しいらしく、うなされ気味に寝ている。どうにか血が止まってるから大丈夫だろうけど、夜通しうまく眠れなかったのか、眉間にしわが寄ったままだ。腕の怪我をした青年は枕代わりに瓦礫を使って(それ絶対痛いじゃん…)体を起こし、あんまり熟睡できてなさそうだなぁ。

 「おや…? ハルさんがいない。」

 ふと気づいて、入り口のほうに目を向ける。案の定、バリケードのところには黒いジャケット姿のハルさんがいて、外を見張ってるわけでもなさそう。なんかスッと腰を下ろして、頭を垂れてるように見える。寝てるのかな? もしかして「座り寝」?

 近寄ってみたら、どうやら深い寝息は立ててないけど、かなり疲れてるっぽい。ハルさんはこの状態でも頑固だから「大丈夫だ」とか言って夜通し見張りや作業をこなすんだけど、そろそろ強制的に寝かせなきゃまずいんじゃ…。

 そっと肩に触れようとしたら、彼はピクッと反応してこっちを見た。

 「ん…陽菜か。悪い、ちょっと意識が飛んでたな」

 「そりゃ飛ぶでしょ…ちゃんと寝た? もう昼近いかもしれないけど?」

 「いや、いい。ここで寝るより外の様子を少しでも──」

 「そんなんじゃまた倒れちゃうでしょ…! ほら、リナさんたちも回復傾向だし、腕の怪我のあの人もそれなりに歩けるようになってる。昼間は私たちで見張るから、ハルさんは休もうよ」

 私もだいぶ強い言い方になってしまった。でも、ここまで言わないと頑固な彼は折れてくれない。実際、顔色が悪いし、目の下にはクマの跡。そんな調子でいつモンスターが襲ってきても、持ちこたえられないんじゃないかとヒヤヒヤするんだから…。すると、ハルさんはほんの少しだけ渋い顔をして、「ったく、お前らのほうこそやられたら困るんだぞ」とか言いながらゴソゴソと立ち上がった。

 「でも、まぁ…確かに眠い。少しだけ寝る…いや、横になるわ」

 「うん、多少強引にでも寝てください。交代制でやるから。ね?」

 私がニコッと笑いかけると、ハルさんは完全に無視する感じでぶっきらぼうに「わかった」と返し、拠点の奥へ移動していく。まあ、OK出たからよかった。彼が寝てる間に襲われないように私たちが頑張るんだ。そのほうがよっぽど効率いいって!

 それを見て、腕の怪我の青年が苦笑いしながら「ハルさんも大変だね。俺たちがもう少し元気になればいいんだけど」とつぶやく。私も同じ気持ちで、「うん、でもまだまだ時間かかるよね。焦って無理に動いたら傷が開くかもしれないし、外に出てモンスターに遭遇したらまた面倒だから…」と返す。

 結局、私たちは“拠点で安全第一”の方針を続行してる。ファンシー×ポップの世界がこんな崩壊モードになるなんて想定外すぎだし、ラブナティアをどうこうするには今の戦力じゃ心許ない。強行してケガ人を増やしたら本末転倒だよね。そんなわけで、みんな少しずつ体を癒しながら、また何日かが過ぎていく……。

 とはいえ、ただボーッとしてても心が病むだけだから、私は少しでも役に立ちそうな作業を探すことにした。ハルさんが寝てる間、入り口の見張りは腕の青年やアツシさん(足を怪我してるけど座って見張れる)が交代制でやる。で、その間に私は拠点の内部をチェックして、壊れそうな場所を針金や木材で補強したり、ほこりを払ったり(正直焼け石に水だけどね)する。それだけでみんなのストレスが少し減るかもしれないし、自己満足でも何もしないよりマシ…だと思いたい。

 ふと、リナさんが肩に布を巻き直しながら「私も動けるかも」と言い出した。止めなきゃかなと思ったけど、彼女曰く「少し歩いて血行を良くしたほうが痛みも減るかもしれない」とのこと。まあ、医者がいるわけじゃないから断言できないけど、狭い場所でじっとしてるよりは気が紛れるんだろう。

 「じゃあ、一緒に細かい瓦礫を拾ってあっちにまとめるか? コウジさんがいつも寝てるあたりにゴツい石ころ落ちてて、あれ踏んだら痛そうだからね」
 私が提案すると、リナさんは「いいね、それ」と微笑む。肩の傷を押さえつつ頑張って立ち上がり、二人で「小石集め大作戦」を開始する。最初は面倒だけど、不思議とこういう地道な作業が雑念を消してくれるんだ。単純だけど、どこか一体感があって、廃墟での生活にもほんのりした温かみが生まれる感じ。

 「はぁ…でも、ほんとに私たち、何やってるんだろうね?」

 リナさんが苦笑いしながら口を開く。

 「せっかくVRゲームにログインしたのに、小石拾いしてるんだもん。ファンシー度ゼロすぎる」

 「ほんとそれ。せめて、可愛いアイテムとかキャラとおしゃべりしながらする作業ならいいのにねぇ。でも…それが今の現実か」

 私もため息まじりに答える。いやー、もとはといえば異世界で可愛い動物たちとイチャイチャする予定だったんだけどな。こんな廃墟でケガ人だらけ、モンスターは凶暴化、アイテムも不足でゴミみたいなクズばっか…。もう情けなくなるけど、進まなきゃいけないよね。

 しばらくそうやって作業してるうちに、コウジさんが声をかけてきた。「助かるわ~足元が少し安全そう」って感謝されると、私も嬉しい。ま、こんなちっちゃいことでも役立ってるならいいか…。

 そして、ふと拠点の奥を見ると、うさぎ(?)の子が毛布の上でまるまっているのが目に留まった。この子は…以前よりだいぶ安定してきたみたい。もう呼吸が超浅いってほどでもないし、ときどき寝返りする様子が見える。「生きてるねー、良かったねー」とリナさんと顔を合わせてにこり。正直、貴重な水や砂糖を少し割いてるけど、それで一匹の命が救われるなら、精神的にも大きな支えになるかもしれない。

 「この子がファンシー世界復活のカギだったらいいのにね。例えば、実はAIラブナティアの秘密を知ってる隠しNPCとか…」

 私が冗談めかして言ってみると、リナさんが「そんな都合よくいけばいいけど…」と苦笑する。そりゃそうだね。でも夢を語るくらいはいいじゃん。ゲームなんだし…一応…。
 
 そんな風にして、ゴミ拾いや拠点の細かい整備をしていると、お昼っぽい時間がやってくる。お昼って言っても、私たちに本物のランチなんてあるわけない。缶詰をちょっとだけ分けるとか、水に砂糖を溶いてエネルギー補給するとか、そんなんばっか。とほほ。でも、お腹が減った状態で倒れたりしたらアウトなので、仕方ない。チビチビ舐めては「あー、もう…」と歯痒さでいっぱいになる。

 その最中、アツシさんが悲鳴をあげる。「ぎゃ、痛っ…!」。私は慌てて駆け寄ると、足の傷をぶつけてしまったらしい。布がまた少し血に染まってる。ああもう、ほんとにこういうトラブルが絶えないんだよね。でも嫌がらないでくれるのが救い。ササッと交換して、ふぅ…ってため息つく。

 「ごめん、ほんと、俺いつになったら自力で立てるようになるんだろ」

 「大丈夫大丈夫、焦るほど治りが遅くなるからさ。ちゃんと寝て…ま、こんな床だけど…とにかく安静。食べられるときに食べて」

 また同じような台詞を繰り返すのが悲しいけど、他に言葉が浮かばない。早くみんなが自分で動けるようにならないと、探索にも行けないし、この世界を変えるチャンスもつかめない。ラブナティアをどうにかしようにも、今は全然手が出せない状態だもんね。

 そうこうしてるうちに時間はどんどん過ぎ、結局この日も「拠点で休む」「見張りする」「ちょっと掃除する」の繰り返しで終わりそう。私たちはみんな一緒に飯…というか、半端な缶詰や砂糖水を分け合って凌ぐ。ああ、もう少し燃料とか鍋とかあれば、スープらしきものが作れそうだけど、手持ちの道具じゃ火を起こすにも限界がある。廃材を燃やすと煙が出て敵にバレるかもしれないし、難しすぎ!

 「まあ、仕方ないよね。こうやって地味に耐えてれば、きっともうちょっと回復して、余裕が出るかもしれないし」

 私が努めて明るく言うと、コウジさんやリナさんが苦笑いで「そうだな…」と返す。腕の青年も微妙に瞳を伏せながら「ほんと、今はこれしかないし」と賛同。誰もがモヤモヤしてるけど、空回りするよりこうして地味な回復期間を過ごすほうがマシと信じてるんだ。

 「わかってるけど、またモンスター来たりしないかな…。それが怖い」

 アツシさんが本音をこぼすと、私たちもどきっとする。確かに、あれだけ頻繁に出没したモンスターが、最近は姿を見せてない。逆に不気味。ハルさんも言ってたけど、「静かすぎるのは怖い」って。そう、次来るときは大群とか強化種とか、考えると嫌すぎる。でも想像しても仕方ないしね。

 夕方っぽい暗い光が拠点に広がりはじめ、また一日が終わりそう。何もドラマチックなことは起きない。探検もしてないから、そのぶん怪我も増えずにすんだけど、ラブナティアへの道はほんの一歩も進んでない。でも、こういう“小康状態”の日があってもいいじゃない? 毎日が激戦でまた誰かが怪我するより数倍マシ…と自分に言い聞かせる。

 そんなとき、私はこっそり抱えていた“うさぎ”の子を見やる。毛布の上で丸まって寝ている姿は、前より確実に落ち着いてる感じがある。呼吸も少し安定して、痩せてるけど生気が戻りつつあるような…。もしかしたら、そのうち目を覚まして何か動いてくれるかもしれない。

 「ふふ、もしこの子が元気になったら、拠点をちょっと和ませてくれるかな…。ファンシー要素ほとんどない場所だし…」

 小さく独り言をつぶやいて、私はウサギの背をそっと撫でる。クタクタの毛並みだけど、かすかに体温があって、動物らしいぬくもりを感じるんだ。こんなにボロボロなのに頑張って生きてるってすごい。だったら私たちも負けてられないよね…!

 (ハルさんもちゃんと寝て、みんなで回復して、いつかまた探索行って…ラブナティア止める方法を探す。それが理想だよね。よーし、意地でも諦めないんだから…!)

 心に秘めて、私はもう一度拠点を見回す。このまま静かに夜が来るならそれでいい。悲しいほど地味な一日でも、穏やかに過ごせるなら成果だよ。みんなが少しずつ回復して、今度は私も含めてハルさんだけに頼らず戦えるようになったら、ほんのちょっとはラブナティアに近づけるかも。

 外の陰鬱な暮れなずむ空を感じながら、私たちはまた拠点にこもる。たいしたドラマはないけれど、こういう平穏こそが実は貴重で、大切な時間だよね。ファンシー×ポップって名前とは程遠いけれど、こうして笑い合いながら地味に生きる──そんな日常をちょっとは楽しもうか。いつ“本番”が来るかわからないし、いまは身体を癒すことが先決だもん。

 「んじゃ、今日も交代で見張りしまーす。ハルさん、勝手に起きてこないでねー!」

 軽口叩きつつ、私は仲間たちと顔を見合わせて小さく笑いあった。空腹も痛みも不安もいっぱいだけど、この程度の会話や笑みがあるだけで、ホッとする瞬間が生まれる。そんな当たり前の日常って、ほんとファンシー要素よりも尊いって気がしてきたよ。いつかラブナティアを止めて、本当にファンシーで可愛い世界を取り戻せたら──きっとみんなで思いっきり笑いあえる日が来るよね?

 そう信じながら、私は今日も拠点の埃っぽい床を踏みしめる。エピソード的には何もすごい事件は起こらないかもしれないけど、こういう地道な一日が本当の冒険を支えてるんだって……ほんの少し前向きに受け止めながら、私は夕暮れの空気を感じていた。