***

 二学期になった。久しぶりの制服はどこかよそよそしい感じもするが、そうだこうだったとすぐ慣れた。
「おっはよー!」
夏休み中もたまにやまとやウッチーとは会っていたから、久しぶりな感じはしなかったが、教室で会うのと外で会うのは少し違う気がする。
「まずいぞーまずい。宿題終わってない」
元気なあいさつと共に教室に明るく入ってきたと思ったウッチーが、早々に頭を抱えている。
「え?!めっちゃ勉強がんばってたじゃん!宿題してなかったんだ!」
「全部じゃないぞ。読書感想文だけだ。あれ苦手で後回しにしてたの忘れてた。ヤバい!」
「感想文かー。微妙に時間かかりそうだけど、現文明日だし、なんとか今日やれば書けるかもよ?昔読んだ本とか思い出してさ!なんかできることあったら手伝おうか?」
友哉(ゆうや)ーーー、お前はなんでそんないいやつなんだ。ありがとう。今日一日中、感想文のこと考えて、夜で仕上げてやるぜ!オレならできる!」
そうと決まれば本見てくると、慌てて図書室へ消えていった。
「やまとは宿題終わったのか?」
「ん?オレは、まあまあ終わったから大丈夫」
やまとのヘラッとした笑顔につられる。
「なんだよまあまあって。いいけどさ」
学校が始まったなーと2人で言い合った。

 二学期といえば、今年は体育祭がある。体育祭は3年に一度なので、大体どのクラスもはりきっていて、うちのクラスも例外ではない。2年の種目は、代表リレーと障害物競走と玉入れだ。足が速いやつがリレー、運動苦手なやつが玉入れに大体分けられ、オレは運動が得意でもなければ苦手でもない立ち位置なので障害物競走になった。ちなみにウッチーは足が速いのでリレー。女子にいいとこ見せたい!と張り切っていた。やまとはオレと一緒で障害物競走だ。
「じゃあ、障害物競走の人、どれがいいか決めるから、集まってー」
体育委員の安西さんが集合をかけた。
「ラケットボール運びと、フラフープ、縄跳びに二人三脚、デカパンと大玉があるんだけど、みんなどれがいい?」
どれでも良かったので、みんなが先に選ぶのを待った。そしたら、二人三脚か大玉の2択になった。
「じゃあ、渡里くんと柴田くんが二人三脚で、若月くんが大玉でいい?」
なんでもいいと言った3人を安西さんが適当に分けてくれた。それでいいよと言いかけたとき、やまとが
「オレ二人三脚がいい。若月と渡里でごぼう抜きしてやっから、やらせてくれ」
と言い出した。そんなこと聞いていなかったオレはビックリしたが、みんなはどっちでも構わない様子で、じゃあそれで、とすんなり決まった。
「やまとそんなに二人三脚がしたかったのかよ。最初から言えば良かったのに」
「いや、なんか途中から二人三脚もいいかもなーって思っただけ。オレら今年よく一緒にいるし、まぢで息合いそうじゃね?友哉となら練習しなくても大丈夫そうだしよ」
なんて言って、くしゃくしゃと頭をかいた。
「なんだよー!練習しなくてもいいのが目的だったんじゃん!まあ、オレもそう思うからいいけど。体育祭って一回しかないし、がんばろうな」
やまととなら気遣いも練習もいらなさそうだと気が楽になった。

 初めての放課後練習の日、やまとの左足とオレの右足を踵の方で固定し、肩を組んで走った。いつも一緒にいるけど、こんなに近い距離にいることなんてないから、少し緊張してしまった。オレの緊張など微塵も感じていないようで、やまとはいつも通りのやまとだった。しかし、練習が始まると、その緊張はすぐに飛んでいった。簡単だと思っていたのだが、案外難しく、転んだりつまづいたりしながら、あっという間に必死になっていた。
 休憩しようとしゃがんで座り、隣にいるやまとの横顔を見たとき、また胃の辺りがキュウっと痛んだ。そんなとき、なあ、と言ってやまとがこちらを向いたから、無意識にバッと顔を逸らしてしまった。え?なんで?自分で自分が分からない。すぐにやまとの方へ顔を向き直したので、あまり気づかれていないようだったのでホッとした。
「リレーで地球一周した人たちの話があるんだよね」
やまとの小話だと心を踊らせる。
「というのも、大昔なんだけど、まだ地球がどのくらい大きいのかとかどんな形かなんて分かんなかった頃に、どのくらい広いか調べようとした人たちがいたんだって。そこで、活躍したのが棒でさ。リレーのバトンみたいに短いのじゃなくて、もっと長くて軽いやつを準備して、この何本分かっていうので測ろうとしたんだよ。それで、スタート地点から、東と西か北と南かは分かんないんだけど、二手に分かれて、どっちが先に端まで辿り着くかを競争したんだ。おんなじ棒を何本も用意して、みんなで交互に測っていったら、当たり前だけど、すごく長い時間かかるだろ?もうどこにいるのかも分からないくらいどんどん進んで。海の上でも船と棒を使って何本分って測りながら進んだりしてさ。何十年経ったかわからないくらい経ったところで、向かいから棒を持って進んでる人たちを見つけたんだ。もしかして〜ってお互い近づいてみると、あの日反対に向かっていった人たちで、二つの棒がくっついたときにこの勝負は引き分けーって終わったんだってさ。初めてのリレー競走の話でした」
おー!と言って、胸の前で小さく拍手をした。
「さすが、やまと!その話聞いてて思ったんだけど、それさ、今この運動場でやってみようぜ!」
2人で適当な枝を拾い、グラウンドのスタート地点から、背中合わせにぐるっと半周ずつ回った。200メートルくらいなので、あっという間にゴールに辿り着いてしまい、すぐ終わっちゃったなーあの人たちはこんな気持ちじゃないだろうなーなんて言いながら、記念に棒の写真を撮った。
「でもさ、始まりは背中合わせだったけど、ゴールでは向かい合わせになっているのって、なんだか素敵だな」
「確かに!そこまでは考えてなかったや。次この話するとき、今の友哉の言葉もらってもいい?」
「え?!まぢで?オレの言葉をやまとの小話に加えてくれるなんて光栄だよ!」
喜んで言うと、やまとが目をパチクリしている。
「冗談のつもりだったんだけど。いや、友哉の感想はいいなと思ったけど、人の言葉もらっちゃダメだと思ってた。でも友哉がそんなに喜んでくれたなら、友だちが言ってたんだけど〜って付け足そうかな!」
「嬉しいに決まってるだろ。友だちが言ってたとか言わなくていいから、自然にやまとの小話に入れてくれよ。はー嬉しいな〜」
「そう言ってくれてありがとう。じゃあ、そうさせてもらう!あ、この友哉の言葉、多分オレがあげたプペトロのタオルくらい嬉しいプレゼントだよ!ほんとにありがとう」
今度はオレが目をパチクリさせる番だった。
「まさか〜!そんなにか?でもよかった!こちらこそありがとう。プペトロのタオルは、オレ周辺の衛生管理で大活躍してくれています」
なんだそれとやまとが笑い、もう今日は疲れたし終わろうと、そのまま家に帰った。
 やまとといつもの場所で別れ、1人家へと向かう。背中に感じる秋の柔らかい夕日が、オレの影を進んでいる先へ細く長く伸ばす。このまま進んで行ったら、いつか向かいからやまとがやってくるのかな〜なんて考えながら、歩いた。

 「簡単だと思ってたら、思ってたより難しいな。なんかコツとかないんかな?」
2回目の練習日。思ったより上達しないので2人で検索をしてみた。そこには、歩幅を合わせる、足の出し方を決める、手を回す位置を低くする、掛け声をかけるなど色々見つかった。一つ一つ試してみようということになり、早速練習再開。調べたコツを全部実践してやってみると、とても上手くいった。初めて転んだりつまづくことなくゴールまで走り切ることができた。思わず2人でやったーとハイタッチをし、この感覚を忘れないようにとあと数回練習を繰り返した。こんな感じじゃあ本当にごぼう抜きできるかもなーなんて言いながら、その後の体育の時間でも練習を繰り返し、本番を迎えた。

 体育祭当日は、天気にも恵まれ格好の体育祭日和だった。オレらは少し浮かれ、クラスの応援にも熱が入った。開会式と閉会式を除くと、出番は障害物競走とクラスの応援しかないため、わりと自由時間が多い。そのため、みんなクラスを越えて友だちと話したり、家族に会いに行ったりしていた。
 そんな中、他学年のプログラム中、やまとが中村さんと楽しそうに話している姿が目に入った。そういえば、体育祭フィーバーでカップルがどんどん誕生してるってウッチーが言っていたことを思い出す。もしや、やまとと中村さんも?そういえば中村さんは、やまとの小話をいいと言っていたし、もしかしてそういうことなのか?でもそうなったら、やまとはオレに教えてくれるんじゃないか?まだそうなってないだけで、いい感じってことか?なんて、いつもなら気にならないようなことをぐるぐる考えてたら、また胃の辺りが痛くなってきた。なんでそうなってるのか分からないモヤモヤを抱えたまま障害物競走の番が来た。練習のときはうまくいったから、きっと大丈夫だろうと本番に臨んだ。
「オレらあんだけ練習したし、大丈夫だろ。頑張ろうな」
やまとからの声かけも、モヤモヤが邪魔をしてスッと入ってこない。ああと曖昧な返事をしてしまった。そんなに緊張すんなってと、やまとはオレのいつも違う態度を本番で上がっていると捉えたようだった。結果から言うと本番は全くダメだった。というのも、練習ではあんなに息があっていたのに今日は全然合わせられなくて、終いには転んでしまい、そのせいで、クラスは最下位になってしまった。オレがモヤモヤを抱えたまま走ってしまったから、それで走るのに集中できなくてあんな結果になってしまったのだろう。やまとにもみんなに謝ったが、そこまで気にしてないから、それより楽しもうと慰めてくれた。

 「友哉ケガ大丈夫か?」
落ち込むオレのところへやまとがやってきた。
「大丈夫。やまとは大丈夫?たぶん、オレのせいでコケたと思う。ごめんな」
「なんで友哉のせいなんだよ。オレも一緒に走っただろ。こっちも合わせられなかったから、お互い様だよ。それより、ウッチーのリレー応援に行こうぜ!」
優しくされると益々落ち込む。でも、分かんないモヤモヤの話をやまとにするわけにも行かず、そうだなと言って、リレーの応援に行った。
「へーい!オレのこと見てたかー?!」
競技が終わり、ウッチーが大げさに登場した。ウッチーが最後の1人を抜いて、一位になったのだから、その登場でもみんなに拍手されて受け入れられたのがおもしろくて、思わず笑った。
「あ、友哉笑った良かったー」
隣でやまとがホッとした顔で言うので、嬉しいのと情けないので居た堪れなくなってしまった。それを誤魔化すため、
「内田様、今日のご活躍お見事でした」
なんて普段やらない茶番をやってしまったくらいだ。そのあと、みんなとワイワイやっていたら、さっきまであったモヤモヤも、いつの間にか薄くなってる気がした。
 その後、体育祭が終わっても、やまとから中村さんと付き合うことになったなんて報告はなく、なんなら中村さんは佐藤と付き合うことになったとウッチーから聞いた。それを知ったとき、何でか分かんないけどモヤモヤが晴れた気がした。最近は、出所の分からない気持ちが多くて驚く。テストで出てきたら絶対答えられないなんて想像するくらいだ。

***

 もう12月。今年のクリスマスは男だけのクリスマスパーティーだー!と数週間前まで意気込んでいたウッチーになんと彼女ができた。
「クリスマスどうすんだよ。オレらと遊ぶんだよな?」
少しイジワル気味にやまとがいう。
「え?あ、まー、さきちゃんはそれでもいいって言ってくれそうだけどー、やっぱりなんていうかー」
ウッチーがしどろもどろになる。
「やまとの冗談だよ。もちろん彼女と楽しいクリスマス過ごせよ」
オレの助け舟に、ウッチーは、周りが明るくなったのが可視化できるくらいホッとしていた。
「ごめんな!別で冬休みは遊ぼうな!ってかさ、お前ら恋人ほしーとか好きな人できたーとか言わないよな?ほしくないの?クリスマスとかまさしくなイベントじゃん!」
急に聞かれて、今まで考えもしなかったから、思わず驚いた。
「んー、オレはまだこんな感じでいいなー。好きな人とかも、そのうちできたらいいかなーくらいで」
やまとがペンを回しながら、興味なさげに答える。オレも考えてみた。
「そういやオレ、人を好きになったことないかも…」
「まぢで!友哉、まぢで?!」
ウッチーが心底驚いた表情で詰め寄ってきた。
「記憶にないな。実はあったのかな。なあ、好きになるってどういう感じなんだ?」
「そんな真剣に聞かれると困るけど〜、その人と話したり、その人のこと考えたりすると、胸がキュウとして、小さなことで一喜一憂したり、嬉しいことがあったら自然と伝えたくなって、会いたいなーって思ったりするとかかな?って、恥ずかし!」
ウッチーが両手で顔を隠して、大げさに恥ずかしがった。
「なるほどなー。いや、ありがとう。今後の参考にする」
「好きなやつできたら教えてくれよ。オレ、相談乗るからさ!」
ウッチーは照れながらも、頼もしいことを言ってくれた。
「そいで?クリスマスどうすんの?2人で遊ぶの?」
「あー、オレはどっちでもいいけど、やまとどうする?」
「せっかく予定空けてたしさ、遊ぼうよ」
「そうだな!じゃあ、後で計画立てようか」
お互い楽しいクリスマス過ごそうぜと言ったウッチーの胸に、ヤマトが、軽くグーパンチをしたので、3人で笑った。

 帰り道、やまととクリスマスに何して遊ぶかを相談した。
「そういやさ、やまとの小話にクリスマスの話ってあるの?」
「いや、クリスマスはさ、もう素敵な話あるじゃん?それに、クリスマスは家族みんなで過ごせてたから、そういう話考えなかったんだよなー。逆に、友哉のクリスマスエピソードある?」
言われて昔を思い出してみた。
「あ、そういやさ。オレんとこ、小5のときに、親から告げられたんだよ。『プレゼントを渡してるのはお母さんとお父さんです。でも、サンタがいるとかいないとか信じるのは友哉次第だから、そこは別で考えてね。それだから、もう今年からはプレゼントも一緒に買いに行きましょう』って!クラスでもそういう話あったから、なんとなーくは知ってたけど、いざ目の前で親に言われると驚いたってか、悲しくなったってか、複雑な気持ちになったよ。でもまあ、その場でほしいのくれるし、いいかってなったけど。しかも高校生なってからは、『もう高校生だから。クリスマスプレゼントもらうのと、お年玉もらうのどっちがいい』とか言い出してさ、お年玉って答えたから、もうプレゼントもなくなったなー。ケーキは、食うけど」
やまとが、腹を抱えて笑っている。
「思わぬ話で、ウケるな!友哉んちナイスだな」
「薄情もんだよなー我が親ながらさ」
「いや、おもしろいしいいよ!あ!そうだ!じゃあさ、今年のクリスマス、プレゼント交換しないか?」
「プレゼント交換?!えー、めんどくさそうだなー」
「いいじゃん!2000円くらいでさ、お互いに準備しようよ!やってみたい!」
やまとがお願い!と手を合わせて頼み込むので、渋々了承した。
「やったー!楽しみだな。当日まで、内緒だからな!マジメに準備しろよ」
浮かれるやまとを横目に、オレはこれから始まるプレゼント選びに不安を感じていた。

 やまとにクリスマスプレゼントなんて、何あげればいいんだよと、その日からスマホで探したり、店に行って考えたり、プレゼント探しに時間を充てた。当のやまとは、もう決めてるのか、いつもと変わらない様子で過ごしている。オレが、プと言っただけで、手で制し、首を横に振るもんだから、少し腹が立ったりもした。

 あっという間に日は流れて、クリスマス当日が来た。学校は前日が終業式だったから、今日からもう冬休みだ。用意したプレゼントを手に持ち、待ち合わせの場所へ向かう。なんだか、今までとは違う緊張感があるのは、プレゼントのせいだろうか。やまとのことを考えて買ったつもりだが、気に入ってもらえるだろうかと不安だった。昼過ぎ、待ち合わせの駅前にやまとはもう着いていた。オレも10分前に着いたから、もっと早く着いてることになる。
「お待たせー!って、10分前だぞ。やまとも早く着いてんな!なんだ、そんなに楽しみだったのか〜?」
「めっちゃ楽しみだった!」
冗談めいて言ったが、笑顔でそう言われ、なんだかこちらが照れてしまった。じゃあ行こう!と、予定していたカラオケへ向かった。今日は、カラオケへ行って、商店街で食べ歩きをするという予定を組んでいた。
「すみません、予約してなかったら今3時間待ちです」
予約を忘れていたオレらは出鼻で挫かれてしまった。さすがに3時間は待てないと、カラオケを後にし、先に商店街の食べ歩きをすることになった。
「いつもウッチーがやってくれるからなー、忘れてたな。ウッチーの 不在を感じた クリスマス」
「なんの俳句だよ。いや、うまいけども。ウッチーは今ごろ彼女と楽しんでるんだろうなー。ずっと彼女ほしがってたし、良かったよな」「あいつすげー幸せそうだったよな。フラれたら、慰めてやろう」
「なんでフラれる話してんだよ。ってか、商店街、久しぶりに来たけど、クリスマス感すげーな!こんなにすごいってやまと知ってた?」
商店街の至るところに『クリスマスフェア』と飾られていて、お店の人も赤い帽子をかぶったり、売られてる商品もクリスマス仕様のものがたくさんある。
「結構みてて楽しいから、カラオケの時間こっちにあてても十分だな」
思わぬクリスマスの雰囲気に心が躍る。
「いやー、友哉のそういうところ素晴らしいよな。まあ、オレもそう思ってたけど!」
「なんだよそれ!あ、おいしそうなのみつけたら言えよなー」
それから、商店街の中を歩きながら、コロッケを食べたり、たい焼きを食べたり、珍しいクリスマスの置き物や雑貨なんかもみた。こんなに楽しいクリスマスを過ごすのは幼いとき以来な気がする。
 商店街の食べ歩きが終わり、そこのファミレスでプレゼント交換の時間になった。お互いのプレゼントをはいっと渡す。緊張してやまとのほうがみれない。
「うわー!なんだよこれー」
やまとが大笑いしている。
「花火じゃん!クリスマスなのに!」
オレは恥ずかしくなり取り上げようとした。
「いいよ、いらないなら持って帰るよ」
「ごめんごめん。そんなつもりじゃないよ。嬉しいよ。夏のバーベキューの帰りに花火しようって話してたもんな!冬なのによく見つけてきたな。探すの大変だったんじゃないか。ありがとう。今度一緒にやろうぜ!」
「あのときの話、覚えてたんだ!色々店回ってたら、夏のあまりものみたいな感じで、ドラッグストアに売ってた。それで思い出して思わず買ったんだよ。いや、プレゼント探すのってめっちゃ大変なのな。ここんところ、ずっとやまとのこと考えてたからな」
え?っと一瞬やまとの顔が赤くなった気がしたが、すぐに戻り、オレのも開けてよと促した。やまとからのプレゼントはきれいな水色のマフラーだった。
「えー!すごくいい色!え?これ2000円で買えたの?ありがとうー!さっそく使うよ」
「それオレが作ったんだよね」
ニコニコしながら、やまとが言った。オレはものすごく驚いて、色んな角度からマフラーを見返した。
「えーーー!まぢか!すごい!え!すごい!こんなの作れるんだ!」
「プレゼント何にしようかなーって考えたときに、お店で水色のマフラーみつけたんだ。これ友哉に似合いそう!って思って値札見たら、到底買える値段じゃなくて。そしたら、昔ばあちゃんに編み物習ったの思い出して、編めばいいじゃん!って、作ってみた。よーくみたら、粗ばっかだけど、遠くからみたら大丈夫だと思うよ」
オレはなんだか胸がいっぱいになって、少しの間言葉がでなくなった。
「本当にありがとう。めっちゃ使う!そして、めっちゃ大事にするよ」
「そう言ってもらうと、夜なべして作った甲斐があるぜ。やーまとがーよなべーをしてーマフラーあんでくれたーからなー」
「なんだよそれ。ってか、なんか、オレのプレゼントが益々申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。やり直させてほしいくらいだよ」
「何言ってんだよ!オレのこと考えて買ってくれたんだって分かるから、いいんだって!マフラーくらい嬉しいよオレは」
「それならー、じゃあいいか!プレゼント交換大成功ってことで」
クリスマスの雰囲気に包まれて、やまとの言葉を素直に受け取る。ドリンクバーで違う飲み物を変わるがわる飲みながら話していたら、もう帰る時間になったので、ファミレスから出た。今年はいいクリスマスだったなーと言いながら、2人並んで歩き、別れ道に来たので、良いお年をーまた来年なと言ってそれぞれの道へ向かった。
 今日を思い出しながら歩く。すると歩いて少ししたところでスマホが鳴り、見るとやまとからだった。やまとは慌てた様子で、そこで待っててと言って切られたので、何かあったかとドキドキしながら、とりあえず待っていたら、すぐにやってきた。
「友哉急にごめん!もう少し時間大丈夫だよな?ちょっとちょっと」
やまとがオレの手を掴んで、来た道を戻っていく。別れた場所から、やまとが帰る方向へ更に歩いていくと、駅前のデパートにすごい大きいクリスマスツリーが飾られてあった。ここ!と言って、やまとがオレの手をサッと放した。
「歩いてたらこのツリー見つけてさ。これは、今日の締めに友哉に絶対見せないといかんって、急いで電話したんだよ。今日の終わりにふさわしいだろ?」
「おー!!これは確かにすごい。デカいしキレー!見せてくれてありがてー!」
やまとは隣で満足気に立っていたかと思うと、あ!と言って、写真を撮ろうと提案するが早いか、あっという間に通行人にカメラを頼んで、写真を撮ってもらった。それから少しの間、並んでクリスマスツリーを眺めたあと、今度こそそれぞれの自宅へ帰った。

その日の夜、やまとからメッセージと写真が送られてきた。
『今年のクリスマス、まぢめっちゃ楽しかった!また来年会おうなー』
デカいクリスマスツリーの前で、小さいオレとやまとがピースして写ってる写真だった。
「何ニヤニヤしてんの?」
母に言われ、自分がニヤニヤしていたのを知る。なんでもないよと言って、いそいそと自分の部屋へ戻った。別に見せてもいい写真だったのに、なんか小っ恥ずかしい気がしてしまった。
『オレもめっちゃ楽しかった!マフラーまぢでありがとう!また来年なー』
返信をして、もう一度写真を見返した。やまとに手を引かれ、たどり着いたクリスマスツリーは、今まで見たどんなツリーよりもキレイだった。

 冬休み、元旦の午後、自分の部屋にいると
「友哉ー!おいでー!いいもん見れるよー!」
母さんが声をかけてきたので、なんだろうと部屋をでた。こっちこっち!と言われ、外へ出ると、空に大きい見事な虹がかかっていた。
「縁起がいいでしょ!合格しますようにーって願っといたから、あんたも手ェ合わせときなさい」
「確かにこれはすごいな!母さんありがとう!来年だけど、まぢで合格しますようにー!」
手を合わせてお願いしたあと、スマホを部屋から取ってきて、写真を撮った。そしたら急にやまとが浮かび、アイツにも見せてあげたいと思った。やまとがクリスマスツリーを見つけたときも、こんな気持ちだったんだろうか。あけおめの言葉と一緒に、虹の写真を送った。すると、すぐにやまとから返事が来た。
『この虹すげー!外出てみたけど、オレんとこにもおんなじの出てた!新年早々縁起がいいな。』
『オレも母さんに教えてもらった。すごいよな』
やまととやりとりをすると、やまとに会いたくなった。学校が始まるのは待ち遠しいなと、珍しくそんなことを思った。