***
「なーなー!夏休みのバーベキュー、いくだろ?もちろん行くよな?だって、テスト頑張ったし、みんなと思い出作りたいもんな?」
もうそろそろ夏休み。さっきのHRで決まったクラス会のことを、ウッチーが話してきた。
「みんなが行くなら、行くよ!せっかくだしな」
「さすが友哉!やまとも行くよな?な!?」
やまとは少し考えて、ニヤッと笑いながら言った。
「なあ、どうしてバーベキューっていうか知ってるか?」
「あーもうそれいいから!オレら3人参加って言っとくな。良かったー!オレ、こういう機会に女子と仲良くなりたかったんだよ!よろしくな!」
足取りの軽いウッチーが実行委員の元へ向かった。その後ろ姿は、背中に羽が生えたようだった。
「なんだ、ウッチーは女子と仲良くなりたかったのか。よろしくって言ってたけど、オレ協力とかできないな、極度の人見知りだし」
申し訳ない気持ちがもくもくと湧き上がり、まだ仲良くなれてない人とも関わらないといけないのかと気持ちが憂鬱になってきた。
「行く口実が付いただけで、オレらの役目は終わったようなもんだよ。ほら、ウッチーもう女子と共通の話題ができてしゃべってるだろ?大丈夫だ。ってかさ、友哉自分のことよく極度の人見知りっていうけど、たぶんそんなことないと思うよ」
やまとがスマホのゲームをしながら何の気もなしに言った。
「え?!いや、どうみても人見知りだろ!この前のテスト勉強だって、沢田たちに見知ってたし」
今まで人見知りだと思って生きてきたから、それを違うと言われ動揺に近い驚きを感じ、強めに否定してしまった。オレの慌てた物言いにやまとがキョトンとした顔を上げた。
「そうか?オレ、初対面でもすぐに話せた記憶があるけど。ウッチーに聞いてもそういうと思う。極度の人見知りだったら、たぶんまだ仲良くなれてないんじゃないかな?クラスの人とも喋れてるだろ?沢田たちとも確かに友哉緊張してたけど、一週間くらいで割と仲良くなってたし」
「あれはやまとが」
そこまで言って口を噤む。気にかけてくれたのが嬉しくてがんばったなんて言えずに、目が泳ぐ。途中で言葉を止めたオレを不思議そうな顔で見つめる。
「あれは、たまたまっていうか」
素直に言えず、そういってごまかした。たまたまか?と言ってやまとが話し続ける。
「今まで、友だちになるまでに相当時間かかってたの?」
重ねてやってくるやまとの質問に、どうだったかと今までを思い返してみた。去年仲良かった新太とは、まあ4月で仲良くなってたし、クラスメイトとも会話はできてた気がする。中学のときも、仲のいい友だちはすぐできてたし、話せなくて困ったこともすぐに浮かぶくらいはない。
「いや、確かに思ったより4月の時点では仲良いやついた……クラスメイトとも喋れてる……でもさ!オレ、知らないやつと話すとき緊張するんだよ!」
必死なオレの顔をみて、やまとは息を吹き出して笑った。
「それは!オレもだよ。オレだって、初めて友哉に話しかけたとき緊張したよ」
「うそだー!緊張してるやつがすぐに、『なんで時計って右回りか分かる?』なんて聞けないよー!」
「だーかーら!それがオレの緊張隠し。そういう話したら、なんか和むだろ?」
「いや、逆に警戒されると思う」
「うそーん!まぢで!?今までずっとそう思ってやってきたのに!まぢかよ!」
顔を見合わせて、2人で笑った。
「ん?友哉は人見知りが良かったのか?」
やまとが不思議そうな顔をして聞いてきた。オレはその言葉にハッとした。
「いや、人見知りじゃなくていいんだけど、今までずっと人見知りだと思って生きてきたから、急にそうじゃないよって言われて少し動揺したのかもしれない。今まで、別の星から来た宇宙人だと思っていたのに、いやあなた地球人ですよなんて言われたら驚くだろう、そういう感覚かもしれない」
真面目な表情で話すオレに、優しい笑みを浮かべやまとが言った。
「なんか知んないけど、多分友哉は人見知りじゃないと思う。別の星とか言ってるけど、そのままの友哉で今までどうにかやってきたことだから、急に言われて驚いてるけど、今まで通りで大丈夫だって思うよ」
「……いまいちピンとこないけど、ありがとう。今日から人見知りじゃなかったオレになるよ。社交的にはなれないだろうけど」
「なんだそれ!まあ、別にそのまんまの友哉でいいってことだよ!あんま考えこまなくてもいいと思う。オレは最初っから友哉すげー話しやすい!これほんと!」
「あ、ありがとう」
やまとにそう言われて、さっきまで慌ただしかった心がサーっと落ち着いたのが分かった。そしてなんだか、こそばゆい気持ちになって、少し下を向いてしまった。やまとはうんうんと微笑んだあと、すぐにスマホゲームに戻ったから、そんなオレに気づいてなかったけど。
「3人参加って言ってきたぜー!ついでに女子のみなさんとも話せた!おれら、青春謳歌しような!な!」
羽の生えたすでに浮かれ気分のウッチーが戻ってきた。そうだ、オレもしっかり楽しもうと思った。
あっという間に夏休みになり、バーベキューの日を迎えた。日が傾いてきたくらいに、やまととウッチーと待ち合わせをして、会場である中島川沿いへ向かう。大体みんな来ていて、さっそくバーベキューが始まった。実行委員の計画通り、交代で焼く人食べる人を回した。オレたちは先に焼く係だったから、早速肉や焼きそばなんかを鉄板で焼いて、みんなに配った。そして滞りなく役目を終え、食べる番になった。
「せっかくだし、みんなで食べようぜー!」
ウッチーが佐藤と、中村さん、田中さん、遠藤さんを連れてやってきた。そこから、みんなで並んで食べ始めた。人見知りではないと分かっても、あんまり話したことのない人と一緒になるのは、やはり緊張する。ウッチーなんて、嬉しそうにみんなと話していて、その姿が少し羨ましい。
「私、渡里くんと話したことってないな。誰だかわかる?」
急に話しかけられたもんだから、ビクッとしてしまった。
「分かるよ、田中さんでしょ?席も近くないし、あんまり接点ないよね。でもちゃんと知ってたよ」
「それならいいんだけど!私、みんなと仲良くなりたいタイプだから、もう夏休みだけど、今年よろしくね」
「うん、よろしく」
沈黙になると気まずいなと思っていたら、
「なあ、初めて水切りしたやつって誰か知ってる?」
と、やまとが言い出した。みんながやまとの方へ顔を向ける。
「え?水切りって、あの川とかに石投げて、石がぴょんぴょん跳ねて遠くに行くみたいな遊びだよね?知らなーい!誰なの?」
田中さんが割り箸を紙皿に置き、やまとに聞いた。やまとは一つ咳払いをしてから話し始めた。
「みんなもよく知ってる人。七夕の彦星なんだよねー。ほら、彦星と織姫って会えるの一年に一回だろ?せめて手紙渡したいなーって、考えた苦肉の策が、水切りだったってわけ。石に手紙を書いて、織姫のところまで届けーって、天の川を水切りがんばったらしい。でもさ、なかなか届かないくて、すんげー練習が必要だったから、また仕事が手につかなくなってさ。それを見かねた父親が、隔週で白鳥に持ってってもらうから、仕事してくれっていって、仕事に戻ったんだって。天の川のキラキラの中には、星もあるけど、彦星が織姫に届けーって投げた石もたくさん含まれてるらしいよ」
「知らなかったー」
みんなが口々に言った途端、すかさずウッチーが
「これ、やまとの作り話だからな!みんな信じて他の人に言いふらすなよ!」
いつものセリフを言ったので、まぢかよーとか信じちゃったーと言い合いみんなで笑った。
「若月くんの話すごいね。他の話とか渡里くんも聞いたことあるの?」
田中さんがオレのほうを向いた。
「あるよ!やまとの話すごくおもしろいよ。そして、優しい話ばっかりなんだ。そのうち聞かせてもらうといいよ」
田中さんが目を丸くしている。
「渡里くん、若月くんの話好きなんだね。そんなに言うなら他の話も聞いてみたいなー。頼んだら聞かせてくれるかな?」
そう言って微笑んだので、なんだか恥ずかしくなった。そして、思ったより勢いつけて話してしまっただろうか変じゃなかったかと気になってしまう。
「作り話だとしても、すごく素敵な話だった。聞かせてくれてありがとう、若月くん。他にもあったら聞かせて欲しいな」
中村さんがやまとのほうを向きながら、嬉しそうに言っていた。
「今日はここまでだなー。リクエストがあったらさ、またそのうち話すよ」
もったいぶんなよーとウッチーが囃し立てている。
その言葉をやまとがどんな表情で言ったのか、オレには確認する余裕がなかった。なぜだか知らないけど、やまとの方が見れなかった。落ち込んだ気持ちがさらに深く潜り込んだような気がした。その上、胃の辺りがキュウっと痛くなったので、食べ過ぎたのだろうかと更に気持ちは沈んでいった。みんなで食べながら進路のことや趣味の話などしていたけど、時折その痛みがやってきたので、申し訳ないけど先に帰ると言って、バーベキューを後にした。胃が痛むなんて、食あたりにでもあったんだろうか。自分の手で、その辺りをさすりながら、帰り道を歩く。空を見上げると月が出ていた。雲ひとつなくよく輝いているはずの月明かりが、なんだかオレの寂しさを紛らわせるために輝いているんじゃないかという気がした。
「友哉ー!」
後ろから名前を呼ばれ振り向くと、やまとがこちらに向かって走ってくる。
「やまと!どうしたんだよ。今から花火って言ってなかったか?何か買い出し?」
「いや、友哉がお腹痛いって言うから、心配でついてきたんだよ!」
また胃の辺りがキュウとなった。
「来てくれてありがたいけど、そんな1人で帰っても大丈夫なくらいだぜ?ウッチーのが心許ないかもしれないし、気にしないで戻っていいよ」
「気にすんなって!オレが気になるから、家まで送るよ。それにウッチーはもう余裕で大丈夫そう、だっただろ?」
ウッチーが楽しそうにみんなと話していたのを思い出した。
「そうだな、ありがとう。でも家までじゃなくて、いつもの別れ道のところまでで大丈夫だよ。じゃあ帰ろうか」
月明かりの下、2人並んで歩く。
「急に腹が痛いなんて、友哉意外と食べすぎてたのか?そんな食べてるようには見えなかったけど」
「そうなんだよ。そんなに食べてはない。オレも心当たりがないんだけど、なんかこう胃の辺りがキュウっと痛くなってさ。でも今は痛くないな。もう治ったかな?」
「なんだよー!もう治ったのかよー!心配して追いかけてきて損したー」
「なんか、ごめん……」
そうだった。やまともみんなと仲良くなってきてたのに、オレのせいでそのチャンスを奪ってしまったのかと、また落ち込みそうになった。
「ウソウソ!気にすんなって!治って良かったじゃん!オレも友哉いないとつまんないからさ、花火するより、こうやって話してるほうが楽しいからいいよ」
そう笑って話すやまとは心からそう思っているようで、落ち込みそうになった気持ちがフッと上昇した。
「今度、どっかで花火しようぜ!心配かけたお礼にオレが花火用意しとく!」
「お!言ったなー!やろうやろう!楽しみだなー」
「そういやさ、今日の水切りの話、あれめっちゃいい話だった。次から天の川みる目が変わる!やまとの話を聞いたばっかのときは、どんな話なんだろーおもしろいなーって感じで聞いてたんだけどさ、何個も聞いてたら、どの話も優しくてあったかい感じがして、もうすっかりやまと小話のファンになってしまった」
やまとの小話を聞いていつも思っていたことを、今なら言えそうだと思って口にする。
「田中さんも、中村さんもいい話だって言ってたし」
やまとの話をみんなが素敵だと言ってくれて嬉しいはずなのに、そうじゃない気持ちがチラチラ顔を出す。オレはそこを見ないようにして、やまとに伝えた。
「そうかあ?まあ、オレが好きな話しかしてないからな。そういってもらえて光栄でござります」
照れたのかやまとはやや下を向いて、髪をくしゃくしゃっと触った。
「でもさ、こんなにオレの話を楽しんでくれてるのは、友哉くらいだなー」
思わぬ言葉に驚く。
「え?あんなにおもしろいのに?」
「おい!その言い方なんか失礼じゃないか?でもまあウッチーとかみてみろよ。気づいたら、みんなまたかよーってなってる気がする」
そういえば、ウッチーも沢田たちもそんなに聞きたがらなかったことを思い出す。
「そうなのかー。まあオレもまだ4ヶ月くらいしか付き合いないけど、これから先そうなるのかな?」
少し考えてみた。でも飽きる未来など全く見えなかった。
「……いや、たぶんそうならないな。ずっと聞きたがってそう!」
そう言って、勢いよくやまとの方を向いた。やまとが、目を大きく見開いたと思ったらバッとオレから目を逸らした。
「そ、そんな風に言われたら、今後期待に応えられるか、し心配になってくるじゃんか」
やまとがしどろもどろになっている。困らせたかもと慌てて付け加えた。
「今までの話最高だったから、これからの話も大丈夫だよ!だから、心配しないで話してくれると嬉しい。あ!オレもリアクションの練習しとくし」
「リアクションの練習〜?!なんだよそれー」
と言ったやまとはもういつも通りだった。そんなこんなで話をしてたら、もう別れ道だった。
「やまと、ついてきてくれて本当にありがとうな。リベンジ花火やろうぜ」
「おう!夏休みメッセージ送るよなー!一応、お大事にー!」
やまとの後ろ姿を見送り、家に向かった。
さっきと同じ月明かりのはずなのに、今の輝きは、今日を楽しんだあなたへのハイライトですよという感じがして、ウッチーじゃないけど少し背中に羽が生えたようだった。見ないふりをした色んな気持ちが月の輝きの後ろの影になって、そうっとオレの傍らにやってきているのも忘れるくらいに。
***
「やまとおはよー!ウッチーはまだかな?」
「そろそろ着くって連絡入ってたよ」
今日は、ウッチーの洋服を買いに行く。というのも、あのクラスでのバーベキュー会のときに、ウッチーが自分の私服がダサいと感じたようで、来年は服飾の専門学校に行くやまとのセンスで服を選んで欲しいと頼み込んできたからだ。ウッチーの私服はとりわけセンスが良いと目立つこともなかったが、決してダサい感じでもなく、いわゆる高校生男子が着ていそうなTシャツとパンツという組み合わせだった。ウッチーにそう言っても、このままじゃダメだ、新しいスパイス的な服を手に入れたいと言って聞かなかったもんだから、今日買いに行くことになった。そして、1人よりも2人の意見がいいのではと、オレの同行も決まった。
「お待たせー!」
そのあとすぐに、向こうのほうからウッチーがやってきた。
今日は、高校生でも買えて、おしゃれアイテムも豊富そうなルリシロへ行く。ルリシロへ向かう途中、やまとの私服を見てみた。確かに、服飾の専門学校へ行きたいだけあって、オレやウッチーとは違う印象を受けた。帽子やサイズ感というのだろうか、そういうのが雑誌にでてきそうなオシャレな感じがした。
「なんか付いてる?こっち見てるけど」
見ているのがバレてやまとが怪訝そうな顔で聞いてきた。
「違う違う!確かにやまとってオシャレだなーって見てた。ウッチーよく気づいたな」
「そうだろ?やまとオシャレなんだよ。バーベキューの日、女子も言ってたぜ。若月くんオシャレなんだねって。それでこうやって、お頼み申しました」
ウッチーの言葉を聞いたあと、また胃の辺りが痛んだ。最近よく痛くなるけど、少ししたら治るし何だろうと思っているところだ。
「そんな風に言われると恥ずかしいし、これから選ぶ服のハードルが上がるだろ!なんか緊張してきたよ。ウッチーに似合う服見つけられるかな」
やまとが、見た目のオシャレさとは裏腹に自信なさそうに言うのが面白かった。
「大丈夫!オレやまと信じてるから!今日はトータルコーディネート、よろしくお願いします!」
ウッチーがキラキラした目をやまとに向ける。オレもやまとが選ぶ服見るの楽しみだな〜なんて話していたら、ルリシロに着いた。
「じゃあ、まずパンツから見てくるか!デニムとか綿とか色々あるから、たくさん試着もしよう!」
おー!と言って、パンツ売り場へ移動し、ウッチーの好みとやまとのセンスを合わせながら、色んなタイプのパンツを試着していった。試着室から出てくるウッチーのワクワクした表情を見ると、こうやって選ばれた服は服冥利に尽きるなと思いながら、選ぶウッチーを眺めていた。パンツを決めた後は、それに合うTシャツを選びに行った。そして、その並んだ棚を見て、一口にTシャツと言っても、色や形やデザインがたくさんあることを知った。これは探すのが大変そうだと思っていたら、ウッチーも、これか?いやこっちか?と手にとり悩んでいたので、そうなるよなあと心の中で頷き、オレもオレで見て回った。すると、このTシャツ!と1つのTシャツに目がいった。そのTシャツを手に取って見ていると、気に入ったの?と後ろを通ったやまとが声をかけてきた。
「このTシャツ?これはオレにじゃなくて、なんかやまとっぽいなーと思ってさ。手にとってみてたんだよね」
やまとがジッとそのTシャツを見つめている。
「ご、ごめん!やっぱオレのセンスじゃダメだなー!」
そう言って棚に戻そうとしたところを、やまとがオレの手からTシャツを取り上げた。
「いいじゃん!なんか買おうと思ってたから、これ買っちゃお!選んでくれてありがとな」
歯を見せニッカリ笑うやまとを見て、オレが選んだ服でいいのかと不安に思ったが、それ以上に嬉しくなってしまった。
「おーい!これなんてどうかな〜?」
ウッチーがTシャツを両手いっぱいに抱えた姿を見て、やまとと顔を合わせて笑った。よし、ウッチーに1番似合ってるの選ぼうぜーと3人で一枚ずつ見て、やいやい言いながら取って戻してを繰り返した。
「はー!2人ともありがとうな!これでイケてる夏が過ごせそうだぜ!部活の集まりとか遊びに行くときは、今日買った服でいく!今日のお礼に2人にジュースおごるから、トリーズ行こう!」
買い物を終えたウッチーが少し跳ねながら歩く。この荷物の重さすら、今は嬉しいなんて言うくらいだった。今日はこのウッチーを見るために着いてきたんだなと思ったくらいの輝きを見せてくれた。トリーズでジュースを奢ってもらった後は、そのまま解散した。次遊ぶときは着てくるよなーと大手を振って、ウッチーは帰って行った。
「ウッチーすげー喜んでたな。本当によかったなー!やまとのアドバイスとか選んだ服もウッチーに似合ってたし、それもすごいよ。オレもなんか服で悩んだら、やまとに聞くことにする!」
「そんなことないけど、まあウッチー喜んでたし、友哉が似合ってたというなら大丈夫でしょう!あ、そういえば、これ友哉に」
そう言ってやまとがルリシロの袋をオレに手渡してきた。袋を開けると、そこにはキレイな青いミニタオルが入っていて、その角にはオレの好きなプペトロの刺繍が施されていた。
「え?!いつの間に!ってか、え!これオレに?もらっていいのか?」
まさかやまとからこんなものがもらえるなんて予想外で驚いて立ち止まってしまった。
「そんなに喜ぶか?オレにTシャツ選んでくれたから、そのお礼だよ〜」
「え!選んだっていうか、やまとっぽいな〜って見てただけだから、こんな素敵なものもらうほどのことなんてしてない……のに」
嬉しいよりも申し訳ないの方が上回って、そのことすら申し訳なくなる。
「そんなに気にしないでよ!オレが嬉しかったからやっただけだよ。なんなら誕生日プレゼントってことにしてよ!友哉誕生日いつだっけ?」
「半年後…」
やまとが大声で笑う。
「まだまだじゃん!いいからさ、せっかくだからたくさん使ってよ。好きでしょう?プペトロもさ」
「うん、好き。そうだな、ありがたくもらって、たくさん使う!ありがとう!そしてオレもいつか何かお礼するから!」
気にしなくていいのにと笑うやまとの側で、ミニタオルを大事にカバンにしまって、再び歩き出す。ウッチーが言っていた、荷物の重さが嬉しいといった意味がとてもよく分かった。
「なーなー!夏休みのバーベキュー、いくだろ?もちろん行くよな?だって、テスト頑張ったし、みんなと思い出作りたいもんな?」
もうそろそろ夏休み。さっきのHRで決まったクラス会のことを、ウッチーが話してきた。
「みんなが行くなら、行くよ!せっかくだしな」
「さすが友哉!やまとも行くよな?な!?」
やまとは少し考えて、ニヤッと笑いながら言った。
「なあ、どうしてバーベキューっていうか知ってるか?」
「あーもうそれいいから!オレら3人参加って言っとくな。良かったー!オレ、こういう機会に女子と仲良くなりたかったんだよ!よろしくな!」
足取りの軽いウッチーが実行委員の元へ向かった。その後ろ姿は、背中に羽が生えたようだった。
「なんだ、ウッチーは女子と仲良くなりたかったのか。よろしくって言ってたけど、オレ協力とかできないな、極度の人見知りだし」
申し訳ない気持ちがもくもくと湧き上がり、まだ仲良くなれてない人とも関わらないといけないのかと気持ちが憂鬱になってきた。
「行く口実が付いただけで、オレらの役目は終わったようなもんだよ。ほら、ウッチーもう女子と共通の話題ができてしゃべってるだろ?大丈夫だ。ってかさ、友哉自分のことよく極度の人見知りっていうけど、たぶんそんなことないと思うよ」
やまとがスマホのゲームをしながら何の気もなしに言った。
「え?!いや、どうみても人見知りだろ!この前のテスト勉強だって、沢田たちに見知ってたし」
今まで人見知りだと思って生きてきたから、それを違うと言われ動揺に近い驚きを感じ、強めに否定してしまった。オレの慌てた物言いにやまとがキョトンとした顔を上げた。
「そうか?オレ、初対面でもすぐに話せた記憶があるけど。ウッチーに聞いてもそういうと思う。極度の人見知りだったら、たぶんまだ仲良くなれてないんじゃないかな?クラスの人とも喋れてるだろ?沢田たちとも確かに友哉緊張してたけど、一週間くらいで割と仲良くなってたし」
「あれはやまとが」
そこまで言って口を噤む。気にかけてくれたのが嬉しくてがんばったなんて言えずに、目が泳ぐ。途中で言葉を止めたオレを不思議そうな顔で見つめる。
「あれは、たまたまっていうか」
素直に言えず、そういってごまかした。たまたまか?と言ってやまとが話し続ける。
「今まで、友だちになるまでに相当時間かかってたの?」
重ねてやってくるやまとの質問に、どうだったかと今までを思い返してみた。去年仲良かった新太とは、まあ4月で仲良くなってたし、クラスメイトとも会話はできてた気がする。中学のときも、仲のいい友だちはすぐできてたし、話せなくて困ったこともすぐに浮かぶくらいはない。
「いや、確かに思ったより4月の時点では仲良いやついた……クラスメイトとも喋れてる……でもさ!オレ、知らないやつと話すとき緊張するんだよ!」
必死なオレの顔をみて、やまとは息を吹き出して笑った。
「それは!オレもだよ。オレだって、初めて友哉に話しかけたとき緊張したよ」
「うそだー!緊張してるやつがすぐに、『なんで時計って右回りか分かる?』なんて聞けないよー!」
「だーかーら!それがオレの緊張隠し。そういう話したら、なんか和むだろ?」
「いや、逆に警戒されると思う」
「うそーん!まぢで!?今までずっとそう思ってやってきたのに!まぢかよ!」
顔を見合わせて、2人で笑った。
「ん?友哉は人見知りが良かったのか?」
やまとが不思議そうな顔をして聞いてきた。オレはその言葉にハッとした。
「いや、人見知りじゃなくていいんだけど、今までずっと人見知りだと思って生きてきたから、急にそうじゃないよって言われて少し動揺したのかもしれない。今まで、別の星から来た宇宙人だと思っていたのに、いやあなた地球人ですよなんて言われたら驚くだろう、そういう感覚かもしれない」
真面目な表情で話すオレに、優しい笑みを浮かべやまとが言った。
「なんか知んないけど、多分友哉は人見知りじゃないと思う。別の星とか言ってるけど、そのままの友哉で今までどうにかやってきたことだから、急に言われて驚いてるけど、今まで通りで大丈夫だって思うよ」
「……いまいちピンとこないけど、ありがとう。今日から人見知りじゃなかったオレになるよ。社交的にはなれないだろうけど」
「なんだそれ!まあ、別にそのまんまの友哉でいいってことだよ!あんま考えこまなくてもいいと思う。オレは最初っから友哉すげー話しやすい!これほんと!」
「あ、ありがとう」
やまとにそう言われて、さっきまで慌ただしかった心がサーっと落ち着いたのが分かった。そしてなんだか、こそばゆい気持ちになって、少し下を向いてしまった。やまとはうんうんと微笑んだあと、すぐにスマホゲームに戻ったから、そんなオレに気づいてなかったけど。
「3人参加って言ってきたぜー!ついでに女子のみなさんとも話せた!おれら、青春謳歌しような!な!」
羽の生えたすでに浮かれ気分のウッチーが戻ってきた。そうだ、オレもしっかり楽しもうと思った。
あっという間に夏休みになり、バーベキューの日を迎えた。日が傾いてきたくらいに、やまととウッチーと待ち合わせをして、会場である中島川沿いへ向かう。大体みんな来ていて、さっそくバーベキューが始まった。実行委員の計画通り、交代で焼く人食べる人を回した。オレたちは先に焼く係だったから、早速肉や焼きそばなんかを鉄板で焼いて、みんなに配った。そして滞りなく役目を終え、食べる番になった。
「せっかくだし、みんなで食べようぜー!」
ウッチーが佐藤と、中村さん、田中さん、遠藤さんを連れてやってきた。そこから、みんなで並んで食べ始めた。人見知りではないと分かっても、あんまり話したことのない人と一緒になるのは、やはり緊張する。ウッチーなんて、嬉しそうにみんなと話していて、その姿が少し羨ましい。
「私、渡里くんと話したことってないな。誰だかわかる?」
急に話しかけられたもんだから、ビクッとしてしまった。
「分かるよ、田中さんでしょ?席も近くないし、あんまり接点ないよね。でもちゃんと知ってたよ」
「それならいいんだけど!私、みんなと仲良くなりたいタイプだから、もう夏休みだけど、今年よろしくね」
「うん、よろしく」
沈黙になると気まずいなと思っていたら、
「なあ、初めて水切りしたやつって誰か知ってる?」
と、やまとが言い出した。みんながやまとの方へ顔を向ける。
「え?水切りって、あの川とかに石投げて、石がぴょんぴょん跳ねて遠くに行くみたいな遊びだよね?知らなーい!誰なの?」
田中さんが割り箸を紙皿に置き、やまとに聞いた。やまとは一つ咳払いをしてから話し始めた。
「みんなもよく知ってる人。七夕の彦星なんだよねー。ほら、彦星と織姫って会えるの一年に一回だろ?せめて手紙渡したいなーって、考えた苦肉の策が、水切りだったってわけ。石に手紙を書いて、織姫のところまで届けーって、天の川を水切りがんばったらしい。でもさ、なかなか届かないくて、すんげー練習が必要だったから、また仕事が手につかなくなってさ。それを見かねた父親が、隔週で白鳥に持ってってもらうから、仕事してくれっていって、仕事に戻ったんだって。天の川のキラキラの中には、星もあるけど、彦星が織姫に届けーって投げた石もたくさん含まれてるらしいよ」
「知らなかったー」
みんなが口々に言った途端、すかさずウッチーが
「これ、やまとの作り話だからな!みんな信じて他の人に言いふらすなよ!」
いつものセリフを言ったので、まぢかよーとか信じちゃったーと言い合いみんなで笑った。
「若月くんの話すごいね。他の話とか渡里くんも聞いたことあるの?」
田中さんがオレのほうを向いた。
「あるよ!やまとの話すごくおもしろいよ。そして、優しい話ばっかりなんだ。そのうち聞かせてもらうといいよ」
田中さんが目を丸くしている。
「渡里くん、若月くんの話好きなんだね。そんなに言うなら他の話も聞いてみたいなー。頼んだら聞かせてくれるかな?」
そう言って微笑んだので、なんだか恥ずかしくなった。そして、思ったより勢いつけて話してしまっただろうか変じゃなかったかと気になってしまう。
「作り話だとしても、すごく素敵な話だった。聞かせてくれてありがとう、若月くん。他にもあったら聞かせて欲しいな」
中村さんがやまとのほうを向きながら、嬉しそうに言っていた。
「今日はここまでだなー。リクエストがあったらさ、またそのうち話すよ」
もったいぶんなよーとウッチーが囃し立てている。
その言葉をやまとがどんな表情で言ったのか、オレには確認する余裕がなかった。なぜだか知らないけど、やまとの方が見れなかった。落ち込んだ気持ちがさらに深く潜り込んだような気がした。その上、胃の辺りがキュウっと痛くなったので、食べ過ぎたのだろうかと更に気持ちは沈んでいった。みんなで食べながら進路のことや趣味の話などしていたけど、時折その痛みがやってきたので、申し訳ないけど先に帰ると言って、バーベキューを後にした。胃が痛むなんて、食あたりにでもあったんだろうか。自分の手で、その辺りをさすりながら、帰り道を歩く。空を見上げると月が出ていた。雲ひとつなくよく輝いているはずの月明かりが、なんだかオレの寂しさを紛らわせるために輝いているんじゃないかという気がした。
「友哉ー!」
後ろから名前を呼ばれ振り向くと、やまとがこちらに向かって走ってくる。
「やまと!どうしたんだよ。今から花火って言ってなかったか?何か買い出し?」
「いや、友哉がお腹痛いって言うから、心配でついてきたんだよ!」
また胃の辺りがキュウとなった。
「来てくれてありがたいけど、そんな1人で帰っても大丈夫なくらいだぜ?ウッチーのが心許ないかもしれないし、気にしないで戻っていいよ」
「気にすんなって!オレが気になるから、家まで送るよ。それにウッチーはもう余裕で大丈夫そう、だっただろ?」
ウッチーが楽しそうにみんなと話していたのを思い出した。
「そうだな、ありがとう。でも家までじゃなくて、いつもの別れ道のところまでで大丈夫だよ。じゃあ帰ろうか」
月明かりの下、2人並んで歩く。
「急に腹が痛いなんて、友哉意外と食べすぎてたのか?そんな食べてるようには見えなかったけど」
「そうなんだよ。そんなに食べてはない。オレも心当たりがないんだけど、なんかこう胃の辺りがキュウっと痛くなってさ。でも今は痛くないな。もう治ったかな?」
「なんだよー!もう治ったのかよー!心配して追いかけてきて損したー」
「なんか、ごめん……」
そうだった。やまともみんなと仲良くなってきてたのに、オレのせいでそのチャンスを奪ってしまったのかと、また落ち込みそうになった。
「ウソウソ!気にすんなって!治って良かったじゃん!オレも友哉いないとつまんないからさ、花火するより、こうやって話してるほうが楽しいからいいよ」
そう笑って話すやまとは心からそう思っているようで、落ち込みそうになった気持ちがフッと上昇した。
「今度、どっかで花火しようぜ!心配かけたお礼にオレが花火用意しとく!」
「お!言ったなー!やろうやろう!楽しみだなー」
「そういやさ、今日の水切りの話、あれめっちゃいい話だった。次から天の川みる目が変わる!やまとの話を聞いたばっかのときは、どんな話なんだろーおもしろいなーって感じで聞いてたんだけどさ、何個も聞いてたら、どの話も優しくてあったかい感じがして、もうすっかりやまと小話のファンになってしまった」
やまとの小話を聞いていつも思っていたことを、今なら言えそうだと思って口にする。
「田中さんも、中村さんもいい話だって言ってたし」
やまとの話をみんなが素敵だと言ってくれて嬉しいはずなのに、そうじゃない気持ちがチラチラ顔を出す。オレはそこを見ないようにして、やまとに伝えた。
「そうかあ?まあ、オレが好きな話しかしてないからな。そういってもらえて光栄でござります」
照れたのかやまとはやや下を向いて、髪をくしゃくしゃっと触った。
「でもさ、こんなにオレの話を楽しんでくれてるのは、友哉くらいだなー」
思わぬ言葉に驚く。
「え?あんなにおもしろいのに?」
「おい!その言い方なんか失礼じゃないか?でもまあウッチーとかみてみろよ。気づいたら、みんなまたかよーってなってる気がする」
そういえば、ウッチーも沢田たちもそんなに聞きたがらなかったことを思い出す。
「そうなのかー。まあオレもまだ4ヶ月くらいしか付き合いないけど、これから先そうなるのかな?」
少し考えてみた。でも飽きる未来など全く見えなかった。
「……いや、たぶんそうならないな。ずっと聞きたがってそう!」
そう言って、勢いよくやまとの方を向いた。やまとが、目を大きく見開いたと思ったらバッとオレから目を逸らした。
「そ、そんな風に言われたら、今後期待に応えられるか、し心配になってくるじゃんか」
やまとがしどろもどろになっている。困らせたかもと慌てて付け加えた。
「今までの話最高だったから、これからの話も大丈夫だよ!だから、心配しないで話してくれると嬉しい。あ!オレもリアクションの練習しとくし」
「リアクションの練習〜?!なんだよそれー」
と言ったやまとはもういつも通りだった。そんなこんなで話をしてたら、もう別れ道だった。
「やまと、ついてきてくれて本当にありがとうな。リベンジ花火やろうぜ」
「おう!夏休みメッセージ送るよなー!一応、お大事にー!」
やまとの後ろ姿を見送り、家に向かった。
さっきと同じ月明かりのはずなのに、今の輝きは、今日を楽しんだあなたへのハイライトですよという感じがして、ウッチーじゃないけど少し背中に羽が生えたようだった。見ないふりをした色んな気持ちが月の輝きの後ろの影になって、そうっとオレの傍らにやってきているのも忘れるくらいに。
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「やまとおはよー!ウッチーはまだかな?」
「そろそろ着くって連絡入ってたよ」
今日は、ウッチーの洋服を買いに行く。というのも、あのクラスでのバーベキュー会のときに、ウッチーが自分の私服がダサいと感じたようで、来年は服飾の専門学校に行くやまとのセンスで服を選んで欲しいと頼み込んできたからだ。ウッチーの私服はとりわけセンスが良いと目立つこともなかったが、決してダサい感じでもなく、いわゆる高校生男子が着ていそうなTシャツとパンツという組み合わせだった。ウッチーにそう言っても、このままじゃダメだ、新しいスパイス的な服を手に入れたいと言って聞かなかったもんだから、今日買いに行くことになった。そして、1人よりも2人の意見がいいのではと、オレの同行も決まった。
「お待たせー!」
そのあとすぐに、向こうのほうからウッチーがやってきた。
今日は、高校生でも買えて、おしゃれアイテムも豊富そうなルリシロへ行く。ルリシロへ向かう途中、やまとの私服を見てみた。確かに、服飾の専門学校へ行きたいだけあって、オレやウッチーとは違う印象を受けた。帽子やサイズ感というのだろうか、そういうのが雑誌にでてきそうなオシャレな感じがした。
「なんか付いてる?こっち見てるけど」
見ているのがバレてやまとが怪訝そうな顔で聞いてきた。
「違う違う!確かにやまとってオシャレだなーって見てた。ウッチーよく気づいたな」
「そうだろ?やまとオシャレなんだよ。バーベキューの日、女子も言ってたぜ。若月くんオシャレなんだねって。それでこうやって、お頼み申しました」
ウッチーの言葉を聞いたあと、また胃の辺りが痛んだ。最近よく痛くなるけど、少ししたら治るし何だろうと思っているところだ。
「そんな風に言われると恥ずかしいし、これから選ぶ服のハードルが上がるだろ!なんか緊張してきたよ。ウッチーに似合う服見つけられるかな」
やまとが、見た目のオシャレさとは裏腹に自信なさそうに言うのが面白かった。
「大丈夫!オレやまと信じてるから!今日はトータルコーディネート、よろしくお願いします!」
ウッチーがキラキラした目をやまとに向ける。オレもやまとが選ぶ服見るの楽しみだな〜なんて話していたら、ルリシロに着いた。
「じゃあ、まずパンツから見てくるか!デニムとか綿とか色々あるから、たくさん試着もしよう!」
おー!と言って、パンツ売り場へ移動し、ウッチーの好みとやまとのセンスを合わせながら、色んなタイプのパンツを試着していった。試着室から出てくるウッチーのワクワクした表情を見ると、こうやって選ばれた服は服冥利に尽きるなと思いながら、選ぶウッチーを眺めていた。パンツを決めた後は、それに合うTシャツを選びに行った。そして、その並んだ棚を見て、一口にTシャツと言っても、色や形やデザインがたくさんあることを知った。これは探すのが大変そうだと思っていたら、ウッチーも、これか?いやこっちか?と手にとり悩んでいたので、そうなるよなあと心の中で頷き、オレもオレで見て回った。すると、このTシャツ!と1つのTシャツに目がいった。そのTシャツを手に取って見ていると、気に入ったの?と後ろを通ったやまとが声をかけてきた。
「このTシャツ?これはオレにじゃなくて、なんかやまとっぽいなーと思ってさ。手にとってみてたんだよね」
やまとがジッとそのTシャツを見つめている。
「ご、ごめん!やっぱオレのセンスじゃダメだなー!」
そう言って棚に戻そうとしたところを、やまとがオレの手からTシャツを取り上げた。
「いいじゃん!なんか買おうと思ってたから、これ買っちゃお!選んでくれてありがとな」
歯を見せニッカリ笑うやまとを見て、オレが選んだ服でいいのかと不安に思ったが、それ以上に嬉しくなってしまった。
「おーい!これなんてどうかな〜?」
ウッチーがTシャツを両手いっぱいに抱えた姿を見て、やまとと顔を合わせて笑った。よし、ウッチーに1番似合ってるの選ぼうぜーと3人で一枚ずつ見て、やいやい言いながら取って戻してを繰り返した。
「はー!2人ともありがとうな!これでイケてる夏が過ごせそうだぜ!部活の集まりとか遊びに行くときは、今日買った服でいく!今日のお礼に2人にジュースおごるから、トリーズ行こう!」
買い物を終えたウッチーが少し跳ねながら歩く。この荷物の重さすら、今は嬉しいなんて言うくらいだった。今日はこのウッチーを見るために着いてきたんだなと思ったくらいの輝きを見せてくれた。トリーズでジュースを奢ってもらった後は、そのまま解散した。次遊ぶときは着てくるよなーと大手を振って、ウッチーは帰って行った。
「ウッチーすげー喜んでたな。本当によかったなー!やまとのアドバイスとか選んだ服もウッチーに似合ってたし、それもすごいよ。オレもなんか服で悩んだら、やまとに聞くことにする!」
「そんなことないけど、まあウッチー喜んでたし、友哉が似合ってたというなら大丈夫でしょう!あ、そういえば、これ友哉に」
そう言ってやまとがルリシロの袋をオレに手渡してきた。袋を開けると、そこにはキレイな青いミニタオルが入っていて、その角にはオレの好きなプペトロの刺繍が施されていた。
「え?!いつの間に!ってか、え!これオレに?もらっていいのか?」
まさかやまとからこんなものがもらえるなんて予想外で驚いて立ち止まってしまった。
「そんなに喜ぶか?オレにTシャツ選んでくれたから、そのお礼だよ〜」
「え!選んだっていうか、やまとっぽいな〜って見てただけだから、こんな素敵なものもらうほどのことなんてしてない……のに」
嬉しいよりも申し訳ないの方が上回って、そのことすら申し訳なくなる。
「そんなに気にしないでよ!オレが嬉しかったからやっただけだよ。なんなら誕生日プレゼントってことにしてよ!友哉誕生日いつだっけ?」
「半年後…」
やまとが大声で笑う。
「まだまだじゃん!いいからさ、せっかくだからたくさん使ってよ。好きでしょう?プペトロもさ」
「うん、好き。そうだな、ありがたくもらって、たくさん使う!ありがとう!そしてオレもいつか何かお礼するから!」
気にしなくていいのにと笑うやまとの側で、ミニタオルを大事にカバンにしまって、再び歩き出す。ウッチーが言っていた、荷物の重さが嬉しいといった意味がとてもよく分かった。

