「よっしゃー、明日から自由だ!」
部活終わりに寄ったハンバーガー店のボックス席で、山本が乾杯とでも言いたげにコーラのカップを掲げた。隣の有岡がポテトを食べながら呆れた目で山本を見ている。
「いや明日からはテスト週間だろう。なにも自由じゃない」
「でも部活はないじゃん? だからどっか遊びに行こうぜ!」
「却下」
「有岡ひどーい。一ノ瀬と佐倉は遊んでくれるよな?」
突然話が飛んできて、俺はシェイクを飲みながら悠理と顔を見合わせた。
今日の部活のミーティングで、テスト週間が始まると知らされた。そのため明日から二週間、しばらく部活は休みとなるそうだ。普段部活ばかりのサッカー部だと一気に空き時間が増えることになるが、とはいえ一年生の俺たちにとっては高校に入って初めての定期試験の準備期間でもある。
「俺は普通に止めとくよ。テスト勉強したいし」
悠理はそう言って大口を開け、チーズバーガーに齧り付く。パテとチーズが二枚入っている大きめのやつだ。悠理のこの食欲にも、さすがに大分慣れてきた。
「ハルも勉強するよね?」
悠理に話を振られ、俺はまあ、と口を開いた。
「あんまり自信ないし、やらないとヤバいからね」
「えー、お前らもかよ。俺の味方はいねぇのかー!?」
口を尖らせる山本に、有岡がため息をつく。
「いないからお前も勉強しろ。どうせテスト範囲も知らないんだろう」
「おっしゃる通りでございまーす」
「堂々と言うな」
べしっと有岡が山本をはたく。
山本と有岡は、パス練の一件からよく絡むようになっていた。二人は中学の頃に塾で知り合った仲らしく、四組と五組でクラスが違うのによく昼休みに互いの教室を行き来している。よく喋る山本と鋭いツッコミの有岡のやりとりは、端から見ていて面白かった。
「ハル、試験ほんとにヤバい感じ?」
正面の席でわいわいと言い合いをしている二人を眺めていると、悠理が声を掛けてきた。ハンバーガーは既に食べきったらしく、中身のなくなった包装紙を手でくしゃくしゃと丸めている。
「うん、結構ヤバい……特に数学が」
口に出して、ずしりと気が重くなる。最近では、数学の内容はもう未知の領域に入っていた。教科書の説明や問題集の解説もあまり理解できず、授業についていくのもやっとなほど。このままだと赤点をとってしまいそうだった。
「もう今から不安すぎるんだよね。逆に国語はいけるんだけど」
「おっ、ちょうど良いじゃん。俺、数学得意だけど国語苦手なんだよな」
「一緒に勉強してくれるの?」
「むしろこっちからお願いしたい」
悠理の提案は願ってもない話だった。互いに苦手な科目を教え合えば、二人で良い成績が取れるかもしれない。それに部活がなくても悠理と一緒にいられると考えると、なんだか嬉しくなってくる。
「じゃあ、明日の放課後一緒に勉強しよう」
「明日だけじゃなくて、毎日でもいいけど?」
「それはさすがに迷惑じゃない?」
「別に? 悠理とならいつでも大歓迎」
悠理はにこにこ微笑んでいた。その笑顔を見ていると、つい甘えてしまいたくなる。俺の悲惨な数学は、一日二日教えてもらったところでどうにかなる気がしないのだ。
「なら……テスト期間はよろしくお願いします」
「おっけー。ならひとまず明日の放課後に図書室行こ」
悠理はびしっと親指を立てている。その気軽さが逆に頼もしくて、思わず頬が緩んでいた。
いまだ言い合いをしている山本と有岡の前で、俺たちはこっそり笑い合う。
憂鬱な気持ちは、いつの間にか和らいでいた。
部活終わりに寄ったハンバーガー店のボックス席で、山本が乾杯とでも言いたげにコーラのカップを掲げた。隣の有岡がポテトを食べながら呆れた目で山本を見ている。
「いや明日からはテスト週間だろう。なにも自由じゃない」
「でも部活はないじゃん? だからどっか遊びに行こうぜ!」
「却下」
「有岡ひどーい。一ノ瀬と佐倉は遊んでくれるよな?」
突然話が飛んできて、俺はシェイクを飲みながら悠理と顔を見合わせた。
今日の部活のミーティングで、テスト週間が始まると知らされた。そのため明日から二週間、しばらく部活は休みとなるそうだ。普段部活ばかりのサッカー部だと一気に空き時間が増えることになるが、とはいえ一年生の俺たちにとっては高校に入って初めての定期試験の準備期間でもある。
「俺は普通に止めとくよ。テスト勉強したいし」
悠理はそう言って大口を開け、チーズバーガーに齧り付く。パテとチーズが二枚入っている大きめのやつだ。悠理のこの食欲にも、さすがに大分慣れてきた。
「ハルも勉強するよね?」
悠理に話を振られ、俺はまあ、と口を開いた。
「あんまり自信ないし、やらないとヤバいからね」
「えー、お前らもかよ。俺の味方はいねぇのかー!?」
口を尖らせる山本に、有岡がため息をつく。
「いないからお前も勉強しろ。どうせテスト範囲も知らないんだろう」
「おっしゃる通りでございまーす」
「堂々と言うな」
べしっと有岡が山本をはたく。
山本と有岡は、パス練の一件からよく絡むようになっていた。二人は中学の頃に塾で知り合った仲らしく、四組と五組でクラスが違うのによく昼休みに互いの教室を行き来している。よく喋る山本と鋭いツッコミの有岡のやりとりは、端から見ていて面白かった。
「ハル、試験ほんとにヤバい感じ?」
正面の席でわいわいと言い合いをしている二人を眺めていると、悠理が声を掛けてきた。ハンバーガーは既に食べきったらしく、中身のなくなった包装紙を手でくしゃくしゃと丸めている。
「うん、結構ヤバい……特に数学が」
口に出して、ずしりと気が重くなる。最近では、数学の内容はもう未知の領域に入っていた。教科書の説明や問題集の解説もあまり理解できず、授業についていくのもやっとなほど。このままだと赤点をとってしまいそうだった。
「もう今から不安すぎるんだよね。逆に国語はいけるんだけど」
「おっ、ちょうど良いじゃん。俺、数学得意だけど国語苦手なんだよな」
「一緒に勉強してくれるの?」
「むしろこっちからお願いしたい」
悠理の提案は願ってもない話だった。互いに苦手な科目を教え合えば、二人で良い成績が取れるかもしれない。それに部活がなくても悠理と一緒にいられると考えると、なんだか嬉しくなってくる。
「じゃあ、明日の放課後一緒に勉強しよう」
「明日だけじゃなくて、毎日でもいいけど?」
「それはさすがに迷惑じゃない?」
「別に? 悠理とならいつでも大歓迎」
悠理はにこにこ微笑んでいた。その笑顔を見ていると、つい甘えてしまいたくなる。俺の悲惨な数学は、一日二日教えてもらったところでどうにかなる気がしないのだ。
「なら……テスト期間はよろしくお願いします」
「おっけー。ならひとまず明日の放課後に図書室行こ」
悠理はびしっと親指を立てている。その気軽さが逆に頼もしくて、思わず頬が緩んでいた。
いまだ言い合いをしている山本と有岡の前で、俺たちはこっそり笑い合う。
憂鬱な気持ちは、いつの間にか和らいでいた。


