冬の巫女は名前とは裏腹にその見た目は奇抜そのものだと聞いていた。
髪は血の様に赤く、美しい翠玉の様な翠緑色の瞳。
冬神がすぐに巫女を見つけられる為に、巫女の始祖の血統と異能がそうさせているらしい。
けれど、俺が親父から冬神の使命を継いでからしばらく経ってもそんな女は見当たらなかった。
使いの妖や式神を使っても、冬の巫女にしか扱えない癒しの異能のことも、赤い髪と翠緑色の瞳を持った女の情報なんて一つも得られなかった。
愚かな人間共が俺の花嫁になろうと何人も姿を偽りやってうんざりしていた。
冬神の花嫁になれば永遠に楽に暮らせる。一生食いっぱぐれなくてすむ。神との間の子供を産めばこっちのもの。
そんな奴らばっか。
他の四季神達はもうとっくにそれぞれ花嫁を見つけていた。
つい最近、春神もようやく花嫁を迎えた様だった。
どんな困難でも果敢に立ち向かう優しい人でぽやぽやしてる自分を引っ張ってくれるかっこいい女性(ひと)だと春神は惚気ていた。
離ればなれになってしまったお姉さんにとても会いたがっていると寂しげに言っていた。
周りが大事な花嫁を見つける中で俺は何も手掛かりのないまま日々を過ごす。
妖と式神達も懸命に探してくれてはいるが成果はない。
このままずっと1人で周りに花嫁を決められてしまうのではないかと嫌気が差し始めていた頃だった。
用事で下界に出ていた式神の1人もちゆきが朗報を届けてきてくれたのだ。
悪意ある人間に襲われて怪我を負い、彷徨っていたところを赤い髪の女に助けられたらしい。
しかも、異能を施されて怪我も治してくれたそうだった。

「刹那様!!絶対にあの人が冬の巫女ですよ!!僕の怪我を異能で治してくれたし!!」
「確かに普通の人間じゃ無理だが…本当に?」
「本当ですってば!!あの赤い髪と翠緑の目はもちろん、異能を怪我をした僕に施してくれたんです!!」
「きっとカラクリかなんかだろ?また俺を騙そうとしてる奴に決まってる」
「もう本当ですってば!!信じてください!!僕が案内しますから付いてきてください!!」

目を輝かせながら必死に俺の着物の裾を引っ張るもちゆきの姿に呆れつつもその話を信じてみることにした。
妖と違って式神は俺の命を受けて召喚された存在だからか嘘をつくのがあまり得意ではない。だから、信じてみる価値は十分あった。
もちゆきを助けてくれた力も見てみたかったし、どんな人間なのか会ってみたかった。
もちゆきに案内された場所に着くと、其処は大きな屋敷の中。
だが、連れて行かれた場所は明るい声がする方ではなく、暗く寂しい寒々とした狭い部屋。まさか、こんな所に冬の巫女がいる訳がない筈。
冬の巫女なら生まれた土地でとても大事に扱われている筈なのにこんな場所に住んでいるなんて考えられなかった。
くんくんと鼻を動かしたもちゆきが何かの気配を感じ「わん!」と吠えると嬉しそうに真っ直ぐ駆けて行く。
確かに気配を感じる。部屋が暗いせいで姿は確認できない。
俺はもちゆきが走り去っていった方向に顔を向けると燭台の灯りだろうか?橙色の淡い光がもちゆきと赤い髪の女を照らしていた。
もちゆきはその女に撫でられてとても嬉しそうだった。
だが、俺の気配に気がついた女が声を荒げた。手には手持ちの燭台と短刀を構えた。
その姿は、もちゆきの言う通り赤い髪で翠緑色の瞳を持った女。
今まで偽ってまで俺に近付いてきた女とは違う。正真正銘の冬の巫女の姿。そして、異能で俺の式神を助けて手懐けてしまった人。
これが杠葉七海との最初の出会いであり、彼女こそようやく見つけ出した冬の巫女であり俺の花嫁だったのだ。