『×月×日
万威は泣いてばかり。
生まれたばっかの赤ちゃんってこんなに寝ないものなの。
授乳も3時間起きと聞いたけど、3時間なんてあかない。
それに、こっちは3時間休めるわけじゃない。
いつ私は寝ればいいの?
とにかく寝たい。眠すぎる。
産んだ時に裂けたアソコは痛くて座ってるだけでヒリヒリする。乳首は傷だらけ。
授乳ってめちゃくちゃ疲れる。
でもカワイイなあ。
万威のぷくぷくほっぺを食べちゃいたくなる』
『×月×日
授乳後のゲップってさせないとダメ?
せっかく寝たからこのまま寝かせたいのに。
万威は吐き戻しひどくて、洗濯物どんどん増えちゃう』
『×月×日
万威に歯が生えていた!
下側の前歯。
赤ちゃんの歯みがきってどうすればいいの?』
『×月×日
万威の発疹が全身に広がっている。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
病院で診てもらったほうがいいかな。
カユイよね?
ツライよね?
ごめんね。万威』
『×月×日
やっぱりお金がないってツライな。
万威が成長したら、もっとお金が必要だし。
うん。せつやくちょきんちょちく。
世の中、お金がないと人生の選択肢が狭まる。
せちがらい世の中だぜ』
『×月×日
万威がせっかく作った離乳食を全部戻しちゃった。
マジへこむ』
『×月×日
私には家族なんていなかったから、万威が生まれて出来た初めての私の家族。
私の味方が出来たみたいで嬉しかった。
万威だけは何があっても私が守ってあげる』
『×月×日
もう男に抱かれるのヤダな。
でも金がなくなる。
私の人生、何でこうなっちゃったの?
万威のあどけない寝顔を見ると泣きたくなる。
こんなのがママで本当にゴメンね』
『×月×日
万威はにんじんもピーマンもタマネギもヤダヤダする。
このワガママ王子め』
『×月×日
万威があまり笑わない?』
『×月×日
万威はお菓子を上げると、喜ぶ。
でも上げすぎはよくないよね』
一粒の涙が古ぼけたノートに落ちて、シャーペンで書かれた母親の字が歪む。
「俺は……」
みっともない。
けれど、涙を止めることができなかった。
俺を孕んだから仕方なく生んで嫌々育ててたんじゃなかったのか。
何なんだよ。
今更すぎる。
『×月×日
やっぱり万威は余り笑ってくれない。
どう接していいかわからなくて、つい話しかけられなくなっちゃう。
万威といっぱい話したいのにな。
保育園で万威に何があったのか聞きたいのにな。
今日も仕事行きたくないなあ』
『×月×日
万威の寝顔を見ていると、つらいことも苦しいことも耐えられるような気がする。
この子の歩む人生が光に満ちていますように。
愛される子に、そして誰かに愛を与えられる子になりますように。
私みたいな人生を歩まなくて良いように……』
『×月×日
今日は保育園の参観日。
だけど私が行っても浮いちゃうだけだし、若すぎるってウワサされてるのも知ってるし、万威が恥をかいちゃうね。
だから、こっそり木陰から覗いてきた。私、キモい』
今まで学校の参観日なんて一度も来てくれなかった。
本当は寂しかったけど母親に嫌われてるんだと思っていたから、仕方ないと思っていた。
来てほしいなんて言えなかった。
甘えられなかった。
俺のために来なかったなんて知らなかった。
来てほしいと俺が母親に伝えたら、来てくれていたのだろうか……。
『先生。大目に見てくださらない?
万威は私の息子だと思えないくらい優しくていい子なの。
窓ガラスを故意に割るわけないわ』
文化祭で停学になった時も、母親は俺を疑うことなく真っ先に信じていた。
どうして気づけなかったんだろう?
若くして俺を生んだ母親がどれだけ苦労して俺を育ててきたか知ろうともしないで……。
「椎名先輩……」
「吏那」
何で吏那が俺以上に泣き出しているのか……。
ベッドに座った吏那の華奢な肩を抱き込んだ。
万威は泣いてばかり。
生まれたばっかの赤ちゃんってこんなに寝ないものなの。
授乳も3時間起きと聞いたけど、3時間なんてあかない。
それに、こっちは3時間休めるわけじゃない。
いつ私は寝ればいいの?
とにかく寝たい。眠すぎる。
産んだ時に裂けたアソコは痛くて座ってるだけでヒリヒリする。乳首は傷だらけ。
授乳ってめちゃくちゃ疲れる。
でもカワイイなあ。
万威のぷくぷくほっぺを食べちゃいたくなる』
『×月×日
授乳後のゲップってさせないとダメ?
せっかく寝たからこのまま寝かせたいのに。
万威は吐き戻しひどくて、洗濯物どんどん増えちゃう』
『×月×日
万威に歯が生えていた!
下側の前歯。
赤ちゃんの歯みがきってどうすればいいの?』
『×月×日
万威の発疹が全身に広がっている。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
病院で診てもらったほうがいいかな。
カユイよね?
ツライよね?
ごめんね。万威』
『×月×日
やっぱりお金がないってツライな。
万威が成長したら、もっとお金が必要だし。
うん。せつやくちょきんちょちく。
世の中、お金がないと人生の選択肢が狭まる。
せちがらい世の中だぜ』
『×月×日
万威がせっかく作った離乳食を全部戻しちゃった。
マジへこむ』
『×月×日
私には家族なんていなかったから、万威が生まれて出来た初めての私の家族。
私の味方が出来たみたいで嬉しかった。
万威だけは何があっても私が守ってあげる』
『×月×日
もう男に抱かれるのヤダな。
でも金がなくなる。
私の人生、何でこうなっちゃったの?
万威のあどけない寝顔を見ると泣きたくなる。
こんなのがママで本当にゴメンね』
『×月×日
万威はにんじんもピーマンもタマネギもヤダヤダする。
このワガママ王子め』
『×月×日
万威があまり笑わない?』
『×月×日
万威はお菓子を上げると、喜ぶ。
でも上げすぎはよくないよね』
一粒の涙が古ぼけたノートに落ちて、シャーペンで書かれた母親の字が歪む。
「俺は……」
みっともない。
けれど、涙を止めることができなかった。
俺を孕んだから仕方なく生んで嫌々育ててたんじゃなかったのか。
何なんだよ。
今更すぎる。
『×月×日
やっぱり万威は余り笑ってくれない。
どう接していいかわからなくて、つい話しかけられなくなっちゃう。
万威といっぱい話したいのにな。
保育園で万威に何があったのか聞きたいのにな。
今日も仕事行きたくないなあ』
『×月×日
万威の寝顔を見ていると、つらいことも苦しいことも耐えられるような気がする。
この子の歩む人生が光に満ちていますように。
愛される子に、そして誰かに愛を与えられる子になりますように。
私みたいな人生を歩まなくて良いように……』
『×月×日
今日は保育園の参観日。
だけど私が行っても浮いちゃうだけだし、若すぎるってウワサされてるのも知ってるし、万威が恥をかいちゃうね。
だから、こっそり木陰から覗いてきた。私、キモい』
今まで学校の参観日なんて一度も来てくれなかった。
本当は寂しかったけど母親に嫌われてるんだと思っていたから、仕方ないと思っていた。
来てほしいなんて言えなかった。
甘えられなかった。
俺のために来なかったなんて知らなかった。
来てほしいと俺が母親に伝えたら、来てくれていたのだろうか……。
『先生。大目に見てくださらない?
万威は私の息子だと思えないくらい優しくていい子なの。
窓ガラスを故意に割るわけないわ』
文化祭で停学になった時も、母親は俺を疑うことなく真っ先に信じていた。
どうして気づけなかったんだろう?
若くして俺を生んだ母親がどれだけ苦労して俺を育ててきたか知ろうともしないで……。
「椎名先輩……」
「吏那」
何で吏那が俺以上に泣き出しているのか……。
ベッドに座った吏那の華奢な肩を抱き込んだ。


