椎名先輩はいつも自分を犠牲にして私を助けてくれる。

 「私のせいで……椎名先輩が……」

 「吏那のせいじゃない」

 「私のせいだよ! 私が車に轢かれれば良かったのに!!」

 「黙れ!」

 お兄ちゃんに一喝され、心臓が縮こまる。

 「二度と言うな。命を賭けて吏那を助けたアイツに失礼だろ」

 命を賭けて……。

 その重さに潰されそうになる。

 「ねえ、お願い……椎名先輩を助けて……」

 椎名先輩のお母さんに頼まれたの。

 椎名先輩を助けてくれって……。

 もうすぐ私が自宅に着くことを知ってたから、椎名先輩のお母さんは最期の力を振り絞ってこと切れそうになるのを必死にこらえていたんだと思う。

 這いつくばってでも、私に伝言を託した。

 どうしても椎名先輩を救ってほしかったんだ……。

 ちゃんと椎名先輩はお母さんに愛されていた。

 でないと、椎名先輩みたいに人に優しくできる人間に育つはずがない。

 ねぇ、椎名先輩。

 まだイルミネーションだって一緒に見てないのに。

 私がどれだけ今日のデートを楽しみにしてたか知らないよね……。

 「椎名先輩……私を置いていかないで……」

 涙で濡れるのも構わずお兄ちゃんの服に顔を押し付ける。

 私を助けなければ良かったのに……。

 私に関わらなければ、こんなことにならずに済んだ。

 私を助けに来ないで、椎名先輩……。

 椎名先輩がいない現実なんて私は欲しくない。

 『……バカなこと言ってんじゃねぇよ。吏那』

 「椎名先輩……?」

 気のせいなんかじゃない。

 私の頭がおかしくなったわけでもない。

 椎名先輩が私に話しかけてきている。

 私の頭に、心に、響くように直接……。

 『泣くなよ。笑ってくれよ』

 「無理だよ……笑えない……」

 『俺は吏那の笑顔が見たい。そのためには俺の命だってなんだってくれてやる』

 「駄目だよ……。椎名先輩が生きてなきゃ意味がないよ……」

 『――頼むよ、吏那』

 笑えるわけないよ……。

 椎名先輩の望みでも私は笑えない。

 椎名先輩がいなきゃ笑うことさえ出来ない……。

 私の笑顔が見たかったら、椎名先輩は生きてください……。

 絶対に生きてください。

 お願いします。

 椎名先輩が目覚めた時には、きっと泣きながらだって笑ってみせます。

 どんなに不細工に見えたって笑います。

 椎名先輩が大好きなんです……。

 死ぬほど大好きです。

 死ぬなんて言っちゃダメだった。

 椎名先輩とだったら、生きて生きて生き抜きたいほど、椎名先輩が好きです。

 どんな困難にも立ち向かってみせると思えるほど、椎名先輩と一緒に思い出を作っていきたいんです。

 私はずっと何で生きてるのかわからなかった。

 眠ってしまうのなら、起きたくはなかった。

 つらい現実なんて見たくなかった。

 起きている間は毎日苦しくて、生きてることが苦痛だった。

 でも、今の私はこの先どんなに苦しいことが待ち受けていたとしても椎名先輩の傍なら頑張って生きていけるって本気で信じてるの。

 恐れずに前を向けるし、後ろを振り返ることだって出来る。

 ちっぽけで消えてしまいそうな私を椎名先輩が見つけてくれたから。

 それはきっと私に降り注いだ奇跡。

 世界中の誰よりも愛しい、奇跡の人……。

 夢と幻の狭間にいる椎名先輩を私は迎えに行く。

 茨の道をかいくぐってでも……。

 この世界で一緒に生きよう、椎名先輩……。