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 「臨時休業ですか?」

 バイト終了後、賄いを食べさせてもらっていた時、猛さんが切り出したのは12月23日に店を閉めるというものだった。

 「イブとクリスマスはすでに予約で埋まってるから忙しくなるだろ。その前に1日だけ休むかってことにしたんだよ」

 店の定休日は火曜。

 23日を休業日にすれば連休となる。

 定休日以外は休みなく働く猛さんが臨時で店を閉めるってことは……。

 「家族で旅行でも行くんですか?」

 「そうなんだよ。嫁さんが連れてけってうるさいから箱根に一泊」

 そう愚痴りながらも猛さんは自身も楽しみなのを隠しきれていない。

 「万威には悪いが彼女とデートでもしてこい。イブとクリスマスは俺と過ごすんだからな」

 「その言い方やめください」

 「事実だろ。早く彼女をここに連れてこい」

 1日デートか。

 急に言っても吏那は無理だろうけど……。

 「行きたいです!!」

 さっそく美術室で23日のことを話すと、吏那は目を輝かせて即答した。

 これには俺も驚いた。

 「行きたいです! ぜひ!」

 「あぁ。わかった……」

 「やったー!」

 学校の休日はランチタイムからディナータイムまでフルでシフトに入ってるから、吏那とデートらしいデートはしたことがなかった。

 期末テスト明けに一緒に新宿まで膝掛けを買いに行ったくらいなものだった。

 「そうだ。23日は午前中に猛さんの後輩にバイクをメンテに出すから昼前からは無理」

 「何時からなら大丈夫ですか?」

 「15時には」

 「わかりました。帰りは遅くなってもいいかお兄ちゃんたちに聞いてみます!」

 余りにも吏那がさらっと伝えてきたからタイミングを逃したけれど、吏那は遅く帰るつもりなのだろうか。

 「私、お兄ちゃんにプランを聞いてみます! お兄ちゃん詳しいと思うので……。
 椎名先輩とイルミネーションが見たいんです!」

 「あぁ、頼む」

 吏那のはしゃぎっぷりに俺は置いてきぼりにされている気分だ。

 この勢いだと、今までバイトに時間を割かれることが多い俺は吏那を寂しがらせていたのだろうか。

 「吏那」

 「え……?」

 「いや、何でもねぇ」

 “寂しいか?“とストレートに聞くのは俺の罪悪感を軽くしたいだけだ。

 23日に埋め合わせをするしかない。

 「イルミネーション、どこが綺麗なのかな?」

 無邪気に喜ぶ吏那が可愛い。

 けれど俺も吏那と出かけることに気分が上昇していく。

 制服ではない吏那はどんな感じなのだろう。

 俺たちの期待を打ち砕くかのように、この日、吏那とイルミネーションを一緒に見ることは不可能だった。