吏那は繋がれていた手に更に片手を重ねてきた。

 俺が視線を吏那に移すと、一つ大きく頷いてみせる。

 「中学生の頃。私の睡眠障害がわかって、何もかも嫌になった時がありました。
 何で私ばっかり……って被害者意識が強くて、逃げだしたいと思ってました。
 どうしてこんなにつらいのに私は生きていかなきゃいけないんだろうって……」

 吏那の手は寒空の下で冷えきっていた。

 「お母さんに『私、死んじゃってもいいかな?』って言ってしまったことがあったんです。
 お母さんは泣いてました」

 「……」

 「後悔しました。
 家族は何をしても私を許してくれて愛してくれるんだって自惚れていたんです」

 「俺は家族に愛されなかったけどな」

 自嘲気味に吐き出した。

 「椎名先輩みたいな奇跡的な人、どこにも居ません」

 「奇跡……」

 冗談で言ってるのかと思えば、切実なほどに吏那は真剣な表情を象っていた。

 「俺なんてどこにでも居ると思うけどな」

 吏那は辺りをきょろきょろ見回してから、

 「ほら。居ません」

 と、どこか怒ったように告げた。

 「前も言いましたけど、椎名先輩はわかってないんです。自分がどれだけ特別な存在か」

 俺は何で年下の吏那に説教をくらってるんだろう。

 「椎名先輩は私に引け目を感じる必要ないって言ってくれましたけど、椎名先輩だって同じです。
 どんなことがあったって私が椎名先輩を嫌いになるなんてこと絶対ないですから」

 熱弁した吏那が愛しすぎて、思わず不意打ちで口づけてしまった。

 冷たい、キス。

 外でいちゃつく男女なんてうざいだけだと感じていたのに。

 「サンキュ、吏那」

 俺は華奢な吏那の体を抱きしめた。

 こんな小さな体に俺は支えられている。

 吏那に助けられて救われているのは俺のほうかもしれない。

 「椎名先輩……」

 俺の背中に吏那の手が回される。

 ずっとこうして吏那と体温を分け合えていられたら俺はそれだけで良かった。