机に前傾になり、咄嗟に吏那へ手を伸ばし、体を支える。

 ──ひやりとした。

 なんて生易しい感覚ではない。

 生きた心地がしなかった。

 吏那は俺の腕に支えられて安らかに寝息をたて始めている。

 これが吏那の睡眠障害。

 宗志さんから聞いて充分に理解していたはずだったけれど、目の前で起こってみて初めて、その怖さを思い知る。

 本当に何の前触れもなく、忽然と寝てしまった。

 俺は自分の腿の上に眠りの世界に攫われた吏那の頭を乗せた。

 綺麗な寝顔だ。

 吏那は汚れた地上に舞い降りた天使だと、いつか各務が大げさな形容をしていたけれど、あながち馬鹿にもできない天使のようにまっさらな吏那。

 世界に対して無防備になるってのはこういうことか。

 眠った瞬間から人は意識がなくなって警戒体制が解除される。

 いつ吏那は無防備になるかわからない。

 いきなり世界から放り出される恐怖はどれだけ吏那の心を蝕んだんだろう。

 「吏那が眠ってるなら俺が起きててやるよ」

 そっと吏那に告げる。

 守ってやりたい。強くなりたい。誰よりも何よりも。

 吏那が安心して俺に眠りを預けられるように。

 ──キスしたら、起きるか?

 こんな発想、俺にはなかったと一人で苦笑いを浮かべてしまった。