吏那の彼氏になってから、宗志さんとも、何回か顔を合わせているけど、どこか俺には刺々しい。

 もちろん宗志さんは分別ある大人で理解者だけど、俺は可愛い妹を盗った男としての認識があるんだろう。

 やってくれる。

 俺に敵意を持たれるのは仕方ないけれど、いたずらに吏那を不安がらせないでもらいたかった。

 「……やっぱりそうなんですか?」

 「ないことはないけど」

 正直に答えると、わかりやすく吏那はショックを受ける。

 不謹慎だけど、吏那に嫉妬されて悪い気はしない。

 「心配いらねぇよ」

 「でも……」

 「俺が好きなのは吏那」

 机に身を乗り出して、無防備な吏那に口づける。


 大きな目を更に開いて吃驚していた吏那は俯いて照れ隠しのように口元を緩めた。

 「毎日弁当食わせてもらってるから、お礼も兼ねて俺がご馳走する」

 「はい。楽しみにしてます」

 いちいち吏那の反応が俺の心を鷲掴みにしてくる。

 吏那の隣に並べる権利は俺だけに独占させてほしい。

 「私、サンタさんは居るんだって小学校5年生まで思ってました」

 「俺は端から居ると思ったことはねぇな」

 「椎名先輩らしいですね。お父さんとお母さんは私の枕元にプレゼントを置くのが上手だったんです。」

 吏那の父親には会ったことがないけど、吏那母はそういうの好きそうだよな。

 サンタの存在を純粋に信じられる環境だったってことが、吏那の家族の温かさを象徴しているようだ。

 「友達にも自信満々に話してたんです。
 私のところにはサンタさんが来てくれるって。
 でも、友達には馬鹿にされました。
 吏那ちゃんはいつまでも子どもみたいだって。
 小学生なんで、全然子どもなんですけど、みんな少しでも背伸びしたい時期だったから。
 それで私、小5のクリスマスイブの夜。寝た振りをしたんです。
 サンタさんが居るってことをみんなに証明しようって思って、起きてて説得するつもりだったんです」

 「説得って何だよ?」

 「うーん。私と一緒に友達の家まで行ってほしいって」

 子どもの可愛い浅知恵だったんだろう。

 「結局。私のベッドにプレゼントを置きに来たのはお父さんでした。
 お父さんは私が目を覚ましていたことは今でも知らないと思います。
 その日の夜は布団を頭までかぶってずっと泣いてました」

 「……」

 「それで気づいたんです。
 現実を知らずに夢を見るって残酷なんだって。
 だって現実は厳しくて、逃げ出す場所なんてないから」

 いつか吏那は言っていた。

 少女漫画は夢見がちで苦手だと。

 「私にとってクリスマスの思い出はこの時が一番鮮明で。毎年、家族でパーティして楽しいはずな……」

 喋っている途中で、急に吏那は目を閉じた。

 ゆっくりと吏那の体は右へと傾いていく。

 「危ねぇ!」