その瞬間、君は世界に対して無防備になる。

 やっと聞けた吏那の声。

 吏那が“椎名先輩“と呼ぶ響き。

 それだけで泣きそうになってる俺は馬鹿みたいだ。

 「な、何で……? 椎名先輩が……」

 ひどく吏那は慌てふためき混乱している。

 「宗志さんに頼まれて迎えに来た。学校、一緒に行かねぇか?」

 「お兄ちゃんが……」

 宗志さんと吏那母は、後は俺に任せたと言わんばかりに階段を降りてしまう。

 全面的に信頼されても、この扉が吏那の手によって開けられるかはわからない。

 「吏那のこと、宗志さんから聞いた」

 「……」

 扉の奥は無音。

 それでも続けた。

 「そのうえで正式に吏那に告白しに来た」

 「……え?」

 「告白くらい吏那の顔を見てさせろよ。思いきり俺をフってくれて構わねぇから」

 嘘だ。

 一度や二度フラれたくらいで吏那を諦めてなんかやる気はなかった。

 「椎名先輩は優しいから、私に同情してるだけです……」

 「それ絶対に吏那から言われると思ってた」

 「……」

 「俺を見くびるなよ。同情と愛情の違いくらいわかってる」

 愛情などと、どれだけ恥ずかしい単語を使っているのかは理解している。

 けど、頼むから吏那に届いてほしい。

 俺のこの気持ちは嘘偽りなく真実でしかないことを。

 「……椎名先輩には私じゃだめです。もっと他に」

 「いい女が居るって?」

 「……はい……」

 「吏那はそれでいいのかよ」

 「……」

 「俺が吏那以外の女と付き合って、吏那は本当にいいのかよ!」

 まただ。

 吏那のこととなると俺は熱くなる。

 1階にまで丸聞こえだろう。

 みっともなくてもなんでも何より吏那に届いてほしい。

 「だって、私は普通じゃないんです。仕方ないじゃないですか……」

 扉越しでも吏那が泣いてるのがわかった。

 もう愛しくてたまらない。

 愛しくて苦しくて窒息しそうなほど、吏那が好きだ。

 「吏那が俺に引け目を感じる必要はねぇだろうが!
 俺は吏那が好きだって言ってんだよ!」

 どうしてこうもスマートに想いを伝えられないんだ。

 本当は扉を蹴破ってでも吏那を抱きしめたい。

 だけど駄目だ。

 吏那が壁を乗り越えて一歩踏み出さなければ意味はない。

 俺が扉を開けたら駄目なんだ。

 「頼むから、顔見せろよ……」

 一転して俺からは嗄れたような声しか出てこなかった。

 「吏那を放っておけねぇ」

 情けなくても、かっこ悪くても吏那に伝わってほしい。

 吏那は俺に引け目を感じる必要もないし劣った人間でもない。

 俺を溺れさせて、余裕を無くさせて、夢中にさせる魅力がある。

 「吏那じゃねぇと駄目なんだよ」

 吏那は無言を貫いている。

 まさか、今、症状が出て眠ったか?

 「吏那は俺のことどう思ってんだよ?
 吏那の本心を聞かせろよ」

 「椎名先輩……!」

 扉が開いたかと思うと、弾丸のように吏那が俺の胸へ飛び込んできた。

 「椎名せんぱ……っ」

 「吏那……」

 声にならずに泣きじゃくる吏那を力一杯抱きしめる。

 本物の吏那だ。

 吏那が俺の腕の中に居る。

 もっと吏那を感じたくて華奢な体を抱く腕に力が入った。