***
ほとんど眠れずに新しい朝を迎えた。
しばらくぶりに吏那と会ってどうするかだとか、吏那の家に行くってことは両親にも会うのかとか、心配すべきことはたくさんある。
けど、何故か俺は不思議と落ち着き払っていた。
日の出を迎えたばかりのみずみずしい空気に包まれた中、宗志さんは俺を迎えに自宅までやって来た。
「別れたばかりの気がするな」
苦く笑う宗志さんは昨日とは違うスーツをもうきっちりと着込んでいる。
欠伸一つしない。
朝から隙のない人だ。
吏那の家まで車で40分かかった。
庭付きの裕福な家が競い合うように立ち並ぶ閑静な住宅街に吏那の自宅はあった。
ホワイトを基調とした高級感のある二階建ての一軒家だった。
吏那の母親の趣味なのか庭には鉢植えが幾つも配置されている。
春には色鮮やかな花々で飾られ、夏には濃淡様々な緑に彩られ、さぞ眩しかったことだろう。
吏那の自宅玄関へと宗志さんの後に続いた。
「まぁ、いらっしゃい」
俺が来るのを知っていたのか、吏那の母親が俺を出迎えた。
「おはようございます。初めまして。椎名万威です」
柄にもなく急にあがってしまった。
好きな女を生んだ女性と初対面。
悪い印象はもたれたくない。
「やだ。本当にびっくりするくらい綺麗な男の子だわ」
「父さんは?」
「あの人、仕事が詰まってるってもう出たのよ」
吏那の父親が居ないことで、そっと安堵していた。
俺に父親がいないからかもしれないけど、どう接するべきなのかわからなかった。
ましてや弁護士なんて堅い仕事に就いている人間に関わった経験がない。
「吏那に言った? 支度はしてろって」
「もちろんよ。可哀相でしょ? 万威くんに寝起きのパジャマ姿を見られるなんて」
不埒な想像をしたのは男の性だから仕方ない。
吏那の母親は吏那によく似ている。
小柄で華奢だけどガリガリじゃない体型も、黒目がちの大きな目も母親譲りだろう。
「早速だけど、万威くんに吏那をお願いできるかしら?
迷惑かけてごめんなさいね」
吏那の部屋は2階だった。
“RINA“と木目のプレートが白い扉に飾られている。
宗志さんと吏那母に連れられて、部屋の扉の前に立つ。
この中に吏那が居る。
それだけで鼓動が逸った。
まず宗志さんがノックをした。
「吏那。起きてるんだろう?」
「……お兄ちゃん」
吏那の声だ。
怖いほど、俺の心臓が音をたてた。
「制服に着替えたか?」
「うん。だけど、やっぱり今日も休みたい」
「いつになったら行くつもりだ。
もう体は平気なんだろう。逃げ癖がつくと、しんどくなるのは吏那だぞ」
「……わかってるもん」
俺の知らない少し拗ねた甘えた口調だった。
やはり家族には心を許しきっているのだろう。
「お兄ちゃん。お母さんに今日も休むって伝えて」
扉越しの吏那の頑なな声に、宗志さんはややオーバーに肩を竦める。
「やっぱり俺じゃだめだな」
宗志さんは苦り切った顔で小さく告げ、俺の肩に手を置いた。
バトンタッチというわけだろう。
俺は小さく息を吸った。
「──吏那……」
呼びかけてみる。
聞こえていないはずはなかったけど返事はない。
その代わりにガタンと大きな物音が扉の向こうで鳴った。
「……し、椎名先輩ですか?」
「あぁ。久しぶりだな、吏那」
ほとんど眠れずに新しい朝を迎えた。
しばらくぶりに吏那と会ってどうするかだとか、吏那の家に行くってことは両親にも会うのかとか、心配すべきことはたくさんある。
けど、何故か俺は不思議と落ち着き払っていた。
日の出を迎えたばかりのみずみずしい空気に包まれた中、宗志さんは俺を迎えに自宅までやって来た。
「別れたばかりの気がするな」
苦く笑う宗志さんは昨日とは違うスーツをもうきっちりと着込んでいる。
欠伸一つしない。
朝から隙のない人だ。
吏那の家まで車で40分かかった。
庭付きの裕福な家が競い合うように立ち並ぶ閑静な住宅街に吏那の自宅はあった。
ホワイトを基調とした高級感のある二階建ての一軒家だった。
吏那の母親の趣味なのか庭には鉢植えが幾つも配置されている。
春には色鮮やかな花々で飾られ、夏には濃淡様々な緑に彩られ、さぞ眩しかったことだろう。
吏那の自宅玄関へと宗志さんの後に続いた。
「まぁ、いらっしゃい」
俺が来るのを知っていたのか、吏那の母親が俺を出迎えた。
「おはようございます。初めまして。椎名万威です」
柄にもなく急にあがってしまった。
好きな女を生んだ女性と初対面。
悪い印象はもたれたくない。
「やだ。本当にびっくりするくらい綺麗な男の子だわ」
「父さんは?」
「あの人、仕事が詰まってるってもう出たのよ」
吏那の父親が居ないことで、そっと安堵していた。
俺に父親がいないからかもしれないけど、どう接するべきなのかわからなかった。
ましてや弁護士なんて堅い仕事に就いている人間に関わった経験がない。
「吏那に言った? 支度はしてろって」
「もちろんよ。可哀相でしょ? 万威くんに寝起きのパジャマ姿を見られるなんて」
不埒な想像をしたのは男の性だから仕方ない。
吏那の母親は吏那によく似ている。
小柄で華奢だけどガリガリじゃない体型も、黒目がちの大きな目も母親譲りだろう。
「早速だけど、万威くんに吏那をお願いできるかしら?
迷惑かけてごめんなさいね」
吏那の部屋は2階だった。
“RINA“と木目のプレートが白い扉に飾られている。
宗志さんと吏那母に連れられて、部屋の扉の前に立つ。
この中に吏那が居る。
それだけで鼓動が逸った。
まず宗志さんがノックをした。
「吏那。起きてるんだろう?」
「……お兄ちゃん」
吏那の声だ。
怖いほど、俺の心臓が音をたてた。
「制服に着替えたか?」
「うん。だけど、やっぱり今日も休みたい」
「いつになったら行くつもりだ。
もう体は平気なんだろう。逃げ癖がつくと、しんどくなるのは吏那だぞ」
「……わかってるもん」
俺の知らない少し拗ねた甘えた口調だった。
やはり家族には心を許しきっているのだろう。
「お兄ちゃん。お母さんに今日も休むって伝えて」
扉越しの吏那の頑なな声に、宗志さんはややオーバーに肩を竦める。
「やっぱり俺じゃだめだな」
宗志さんは苦り切った顔で小さく告げ、俺の肩に手を置いた。
バトンタッチというわけだろう。
俺は小さく息を吸った。
「──吏那……」
呼びかけてみる。
聞こえていないはずはなかったけど返事はない。
その代わりにガタンと大きな物音が扉の向こうで鳴った。
「……し、椎名先輩ですか?」
「あぁ。久しぶりだな、吏那」



