4時間目の授業が終わって早々に、俺は一人で購買に行きメロンパンを手に入れた。

 パックのコーヒー牛乳を自販機で買い、向かうは美術室。

 本校舎の1階片隅。

 昼休憩に入ればこんな校舎の端にまで訪れる生徒など皆無に等しい。

 腰のポケットからヘアピンを取り出し鍵穴に差し込む。

 要領を掴んだおかげで3秒もかからず、施錠されていたはずの扉は開けられた。

 顔料の匂いが暑さで蒸され、独特の臭気が室内に立ち込めている。

 この部屋は校内で人払いしたい時に俺が見つけた最適な場所。

 冷暖房が設置されていない美術室は夏は暑さと湿気が肌の表面にまとわりついてくるようだし、匂いは強いものの、換気で軽減すれば耐えられないほどでもない。

 何より冬は日当たり抜群で快適に過ごすことが出来た。

 窓を開け放ち、生温い風で換気をして、椅子の一つへ腰掛ける。

 よく冷やされたコーヒー牛乳にストローを差し込む。

 甘味よりも苦味を舌で感じ、体内に注ぎ込んでいく。

 俺しかいない静かな空間はメロンパンの簡易な包装を開ける音さえ大きく響いた。

 パンを嚥下しながら、俺の目は絶えず、美術室の扉に注がれていた。

 ──今日こそ開かないだろうか……。

 もう吏那と初めて会話を交わしてから一週間が経とうとしている。

 会話って呼んでいいのかも定かではなく曖昧なものだったけれど。

 あの時もこうして俺は美術室でメロンパンを食べていた。