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 桜山高の利点は駅に近いこと。

 ステーションビルにはコンビニも本屋も雑貨屋も入っているし、利便性は抜群だった。

 それは別の形で俺の利点でもあった。

 生徒はほぼ真っ直ぐ校門から駅に吸い込まれてしまうため、駅から反対方向へ少し歩くだけで生徒にほとんど会わなくなる。

 学校から徒歩5分の地にあるコンビニの駐車場にバイクを停めていても気づかれていない。

 ちなみにコンビニのオーナーには何故か気に入られ、バイク駐車の許可も特別にもらっていた。

 俺のバイク通学は織原と各務くらいしか知らないはずだった。

 放課後、バイトに行くためにコンビニへバイクを取りに向かうと、傍に一人の男が立っていた。

 思わず息を呑む。

 見覚えがある。

 その秀麗なスーツ姿の男は、吏那の兄だった。

 「椎名 万威くんって君か?」

 遠目では見たことがあったけど、傍で見ても顔の整った美しい男だった。

 凛々しく隙のない完璧な出で立ちは、癒し系でどこか危なっかしい吏那とは対極的だ。

 シャドウストライプのスーツを恐ろしいほど完璧に着こなした吏那の兄は目線が同程度の俺を射るように見つめている。

 「そうですけど」

 答えるまでに間が開いてしまった。

 吏那の兄が俺のバイクの前で待っていると誰が予測できるだろう。

 「待ち伏せしてすまなかったな。俺は紅月吏那の兄で宗志(ソウシ)だ」

 回答を待つ前から、俺が椎名万威だと確信はあったんだろう。

 吏那の兄──宗志さんがなぜ俺を知っているのか……。

 「少し万威くんと話がしたい。これから時間を作れるか?」

 「これからバイトがあるんで……」

 この状況を頭では整理できていないものの、ポーカーフェイスで答えた。

 何となく、宗志さんに困惑している自分を見透かされたくない。

 「ホストか?」

 「いや、普通の××通りの飲食店ですけど」

 高校生がホストって何だよ。

 俺はホストに見えるってことか?

 さっきから宗志さんは俺に対して好戦的な気がしなくもない。

 「なら終わってからはどうだ?」

 「別に構わないですが、23時30分を回ると思いますけど」

 「俺も構わない。万威くんはスマホを持っていないんだったな。バイト先まで迎えに行く。店を教えてくれ」

 事務的に話を進める宗志さん。

 何となく……じゃない。

 少なくとも俺は宗志さんによろしく思われていないようだ。

 「わかりました」

 宗志さんに店を教えて、一旦別れる。

 バイクを走らせていたら、骨まで凍みるような冷気に頭も冴えてきて、疑問ばかりが生まれた。

 吏那の兄が俺に何の話があるっていうんだろうか。

 それにどうしてあのコンビニに停められたバイクが俺のものだと知っているのか……。

 気ばかり焦るだけで、バイト中は時間が流れるのがやけに遅かった。

 あらかじめ猛さんに今日の賄いはいらないと伝えてあったため、閉店作業を一通りこなして、「お先です」と早々に裏口から出る。

 「寒……」