教室前方戸口からかけられた声に張本人の俺だけじゃなく、クラス内の目が一斉に向けられる。
俺を呼んだのは、吏那に嫌がらせをしていたあの1年の5人組だった。
俺に文句でも言いにきたのだろうか。
渋々、俺は彼女たちの前に進み出た。
「今日から椎名先輩の謹慎が明けると聞きましたので……」
これから通夜にでも出かけるのかというほど、5人は沈痛な面持ちでいる。
クラスの人間が野次馬根性なのか俺たちの会話に耳をそばだてていた。
「時間ねぇけど、廊下で話すか?」
さすがに一学年上のテリトリーでここまで注目されるのは酷だろう。
俺の提案に5人は素直に頷いた。
俺が1年の女子5人を引き連れて歩く光景は異様に違いない。
予鈴が鳴るまであと5分もなく、2年の教室が並ぶ廊下を抜け、階段の踊り場まで来た。
「──で、何?」
びびってる様子の女相手に俺の低い声と態度は冷たく厳しいものだっただろう。
歓迎しろってほうが無理だった。
この女子たちが、吏那に嫌がらせを繰り返していた。
5人は不安そうに目配せした後、
「すみませんでした!!」
とリハーサルでもしていたかのように同時に揃って頭を下げた。
「──謝る相手が違うんじゃねぇの」
冷ややかに突き返す。
口先だけでも優しさを見せてやる気もなかった。
「椎名先輩が停学処分になってしまって、何て謝ったらいいのか……」
「みんなわかってるみたいです。椎名先輩が私たちを庇ってくれたって……」
別に目の前の5人を庇ったわけじゃない。
論点がずれすぎていて、訂正する気も起きなかった。
「詫びはいらねぇ。用はそれだけか?」
立ち去ろうとする俺を、5人は引き留めようか逡巡している。
まだ俺に話し足りないのはわかったものの、目敏く汲んでやるつもりもない。
「あのっ!!」
自分の教室へと戻ろうと進む俺に背後から声がかかった。
俺はそのまま足を交互に動かし続ける。
俺に聞く気がないと察したのか、一方的に言葉を背中に投げてきた。
「紅月さんにはやりすぎたかなって反省してます! 最近みんなが憧れてる椎名先輩と仲が良くて嫉妬してたのも認めます! 学校に来たら謝ろうって思ってます! だけど……」
ストレートで不器用な謝罪はありのままの気持ちが溢れ出ている。
俺は両足を揃えたが、振り返りはしなかった。
「紅月さんは本当にずるいと思う! 私たちは特進コースで必死に勉強してるのに、紅月さんだけは授業に出なくても居眠りしてても怒られないし、ヒイキばっかり!!」
女は感情的になった自分に気がついたのか、そこで声が止む。
いつかナミから言われた台詞が脳裏を掠めた。
『そうそう。紅月さんの父親が名の知れた弁護士みたいで。過去、桜高も陰でお世話になったこととかあるんだって。
そのおかげか授業をサボっても、居眠りしても、教師は誰も怒らない。体育も見学しかしない。
ヒイキされすぎで顰蹙を買ってるって1年の後輩たちから聞いたよ』
沈黙が横たわっている空間に予鈴が響き渡った。
「──吏那、休んでるのか?」
俺から発したのは、それだけ。
少しの間があってから、
「……文化祭の日以来、欠席してます」
と、さっきとは違う声が教えてくれた。
「へえ……」
それだけを返し、俺は教室へと戻った。
俺を呼んだのは、吏那に嫌がらせをしていたあの1年の5人組だった。
俺に文句でも言いにきたのだろうか。
渋々、俺は彼女たちの前に進み出た。
「今日から椎名先輩の謹慎が明けると聞きましたので……」
これから通夜にでも出かけるのかというほど、5人は沈痛な面持ちでいる。
クラスの人間が野次馬根性なのか俺たちの会話に耳をそばだてていた。
「時間ねぇけど、廊下で話すか?」
さすがに一学年上のテリトリーでここまで注目されるのは酷だろう。
俺の提案に5人は素直に頷いた。
俺が1年の女子5人を引き連れて歩く光景は異様に違いない。
予鈴が鳴るまであと5分もなく、2年の教室が並ぶ廊下を抜け、階段の踊り場まで来た。
「──で、何?」
びびってる様子の女相手に俺の低い声と態度は冷たく厳しいものだっただろう。
歓迎しろってほうが無理だった。
この女子たちが、吏那に嫌がらせを繰り返していた。
5人は不安そうに目配せした後、
「すみませんでした!!」
とリハーサルでもしていたかのように同時に揃って頭を下げた。
「──謝る相手が違うんじゃねぇの」
冷ややかに突き返す。
口先だけでも優しさを見せてやる気もなかった。
「椎名先輩が停学処分になってしまって、何て謝ったらいいのか……」
「みんなわかってるみたいです。椎名先輩が私たちを庇ってくれたって……」
別に目の前の5人を庇ったわけじゃない。
論点がずれすぎていて、訂正する気も起きなかった。
「詫びはいらねぇ。用はそれだけか?」
立ち去ろうとする俺を、5人は引き留めようか逡巡している。
まだ俺に話し足りないのはわかったものの、目敏く汲んでやるつもりもない。
「あのっ!!」
自分の教室へと戻ろうと進む俺に背後から声がかかった。
俺はそのまま足を交互に動かし続ける。
俺に聞く気がないと察したのか、一方的に言葉を背中に投げてきた。
「紅月さんにはやりすぎたかなって反省してます! 最近みんなが憧れてる椎名先輩と仲が良くて嫉妬してたのも認めます! 学校に来たら謝ろうって思ってます! だけど……」
ストレートで不器用な謝罪はありのままの気持ちが溢れ出ている。
俺は両足を揃えたが、振り返りはしなかった。
「紅月さんは本当にずるいと思う! 私たちは特進コースで必死に勉強してるのに、紅月さんだけは授業に出なくても居眠りしてても怒られないし、ヒイキばっかり!!」
女は感情的になった自分に気がついたのか、そこで声が止む。
いつかナミから言われた台詞が脳裏を掠めた。
『そうそう。紅月さんの父親が名の知れた弁護士みたいで。過去、桜高も陰でお世話になったこととかあるんだって。
そのおかげか授業をサボっても、居眠りしても、教師は誰も怒らない。体育も見学しかしない。
ヒイキされすぎで顰蹙を買ってるって1年の後輩たちから聞いたよ』
沈黙が横たわっている空間に予鈴が響き渡った。
「──吏那、休んでるのか?」
俺から発したのは、それだけ。
少しの間があってから、
「……文化祭の日以来、欠席してます」
と、さっきとは違う声が教えてくれた。
「へえ……」
それだけを返し、俺は教室へと戻った。


