***

 停学期間の1週間はあっという間に過ぎ去った。

 昼は自宅で課題をこなし、夜はバイトに行く。

 謹慎中はバイトも行くべきではないだろうけれど構わなかった。

 猛さんには停学処分をくだされた俺を咎め立てられるかと思ったけれど、

 「停学かよ! ざまをみろ、万威! うけけけけ」

 腹を抱えて笑いとばしてくれたおかげで、俺自身も重く受け止めずに済めて助かった。

 一番、不快だったことは俺が処分をくらった文化祭当日に母親が俺を学校まで引き取りに来たことだった。

 「万威。 迎えに来たわよ」

 どう見ても二十代にしか見えないあの女は学校という規律が重んじられる場でも水商売の雰囲気が滲み出ていた。

 「先生。大目に見てくださらない?
 万威は私の息子だと思えないくらい優しくていい子なの。
 窓ガラスを故意に割るわけないわ」

 教師にまで色目を使う母親。

 「いや。しかし……。本人が認めていますので……」

 教師も教師で鼻の下を伸ばして、見事にあの女の術中にはまりわかりやすく狼狽していた。

 教職者も、ただの男なんだと。

 俺は冷然と、目の前で繰り広げられているくだらない寸劇を網膜に映していた。

 教師から解放され、母親と校内を歩く際も隣に並ばす先を歩く。

 「万威。駐車場そっちじゃないわよ」

 「今から仕事だろうが。俺はバイクで帰る」

 「えー? たまには万威を助手席にのせてドライブしたいんだけど」

 その日の帰りはもちろん母親とは別々だった。

 自分の息子が停学になろうと動揺や説教の一つもしないで、自分のペースを貫ける。

 余計な手間をかけさせた礼も詫びも言えなくなった。

 そして、謹慎が明け、久しぶりの登校日を迎える。

 停学処分を受けた後の教室に入ることに緊張するほど可愛げのある性格はしていない。

 懸念なのは吏那が俺を見てどう反応するかだとか、勝手な行動をして拒絶されるんじゃないかだとか、で。

 「おっ! 椎名っちー! 変わってねぇなあ」

 謹慎明けの俺の入室に教室の空気が一変したのは何となく肌で感じた。

 それでもいつもと変わらず各務が脳天気な態度で俺の席までやってくる。

 「一週間で変わるかよ」

 「5日も休みやがってずるいよな」

 「課題だされまくって普段より勉強してた」

 「万威。謹慎お疲れさま」

 織原が後ろから肩に手を置く。

 万人に効果的な柔軟な笑みで。

 「手の怪我は大丈夫か?」

 「別に何ともねぇよ」

 幸いなことに縫う必要もなく、保険医に処置してもらっただけで病院にも行かなかった。

 傷が塞がりきらなくて通常より大きな絆創膏はとれないものの、日常生活に支障がでるレベルではない。

 「僕たちのクラス、文化祭の売り上げトップだったって」

 「へぇ」

 「万威は今年の文化祭の主役だったからね」

 「は?」

 「そうそう。これで椎名っちの人気が落ちてしめしめと思ってたのに、また全部持ってくんだもんな」

 各務に恨めしげな視線を向けられる理由がわからない。

 俺は文化祭中に窓ガラスを割って停学を食らう最低な人間のはずだ。

 考えるだけ無駄か。

 吏那以外に俺の何がどうとかこうとか思われていても構わない。

 「椎名先輩!」