狙い通り俺と織原の写真を手に入れたナミは迷惑そうに眉頭を歪めた。

 「こんな短い時間に来るんじゃねぇよ」

 「放課後だけじゃなくて最近は昼休みも消えちゃうのは椎名でしょうが」

 ナミの目には探りの色が明確に彩られた。

 放課後はさっさとバイトに行ってるけれど、昼休みに関しては誰にも知られたくはない。

 「それって、もう1年の写真も撮ってんだよな」

 「そりゃあね。1年5組に超イケメンが居たんだよ。いくら椎名でも今年はやばいかもよー。
 ほら、サッカー部の期待のルーキー……」

 「そうじゃなくて、女は?」

 「女子?」

 「紅月(こうづき)吏那( りな)って写真撮ったか?」

 俺の言葉に三人が揃って驚愕を表情に浮かばせたかと思えば、いち早く各務が面白いものでも見つけたようにニヤリと笑った。

 「椎名っちから女の名前聞くって初めてじゃね? 誰? 吏那ちゃんって、彼女?」

 「うるせぇな。違うよ」

 「みずくせぇなあ。椎名っちモテまくりのくせに、彼女作らねぇから、てっきり俺のケツが狙われてんのかと」

 「んなわけねぇだろうが、馬鹿」

 馬鹿な各務には付き合っていられないけれど、俺はその上をいく馬鹿だ。
 ここで彼女の名前を出すなんて迂闊以外の何ものでもなかった。

 「つーか、俺、校内の可愛い子は全員インプットしてるはずだけど“吏那“は知らねぇな」

 「ねぇ、椎名。吏那って誰よ?」

 面白がる各務を尻目に、ナミが真顔で俺に問い掛けた。

 ナミが吏那を知らないってことは少なくても現時点で吏那はミスコンにエントリーされてないってことだと安堵する。

 「誰でもねぇよ」

 突っ慳貪(けんどん)な俺の声に被せるようにチャイムが鳴る。

 別クラスのナミは後ろ髪を引かれるような態度で俺たちの教室を走って出て行った。

 程無く頭部に髪の過疎地が目立つ教師が訪れ、4限の物理が開始される。

 午前最後の授業で空腹状態。

 おまけに朝晩は幾らか涼しくなろうとも日中の蒸し暑さは健在で不快なことこの上なく、教師の台詞は上滑りしていく。

 吏那は今日こそ俺が待つあの場所へ来るのだろうか?
 
 金以外に興味をもてなかった俺が吏那をここまで気にしてるのは滑稽と言わずして何と表現したらいいのか。