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 ヴァンパイアの衣裳を脱ぎ制服に着替える。

 そういえばクラスTシャツを文化祭で一度も着ていなかった。

 デザインも悪くないし、パジャマ代わりにでもするか。

 適当に衣裳を畳んで、更衣室用の教室を後にする。

 「?」

 吏那の姿が見えない。

 視線を周囲へぐるりと巡らせる。

 終了時刻が迫ってるからか一般客も減ってきていた。

 「椎名先輩……」

 か細い声が聞こえて振り返る。

 「吏那」

 「すみません。お手洗いに行っていたんです……」

 ほんわかとした笑みで俺を見上げる吏那。

 その違和感と額に流れる汗に気づき、自然と眉間に力がこもった。

 「吏那、何があった?」

 口調と目つきが鋭利になったのが自分でもわかる。

 「……何でもありません」

 吏那が目を逸らす。

 到底頷ける返答ではなかった。

 「──来い」

 「し、椎名先輩っ?!」

 吏那の細い腕を引っ張り、ぐんぐん廊下を進んでいく。

 ただならぬ俺の様子に、面白いほど人は避けてくれた。

 頭の中を支配してるのは憤怒と焦燥。

 吏那を狭い教科準備室に連れ込み、中から鍵をかける。

 通常の教室より面積が小さく、天井までのキャビネに資料がぎっしり詰め込まれている教員が使う部屋。

 カーテンは閉まっていて薄暗く、湿っぽい匂いが室内に充満していた。

 「きゃっ……!」

 吏那を中央に固められたデスクの上へと押し倒す。

 「し、椎名先輩……?!」

 吏那の瞳が恐怖と困惑を映して、俺を見上げている。

 机に散らばる艶やかな髪。俺の手で机に縫い付けたたおやかな細い手首。

 どろりとした黒い感情が思考を塗り潰していく。

 「……冗談……ですよね」

 「冗談……なわけねぇだろ」

 目を細め、顔を吏那に近づけていく。

 「いや……! 椎名先輩やめっ……」

 俺の下で捩ってもがく吏那。

 本人としては精一杯の力だろうけれど非力すぎて、無駄な抵抗に過ぎなかった。

 「椎名せんぱっ……」

 「静かにしてろ」

 吏那の耳元で命令するように低く囁く。

 抵抗していた腕の力がぴたりと止んだ。

 「誰か来てもいいのか?」

 俺のトーンを落とした声に毒が仕込まれていたように吏那は微動だにしない。

 「隠そうとするんじゃねぇよ」

 吏那の制服のジャケットの金ボタンを全て外していく。

 「だめです! 椎名先輩……っ!」

 吏那は俺の意図がわかったのか、再び暴れ出す。

 スカートにインされたシャツとキャミソールを引き出して、捲り上げた。

 「み、見ちゃだめ……!」

 ウエストが細いせいで、それはいとも簡単に俺の目の前に曝される。

 「──やっぱり腹かよ」

 「……」

 吏那の日焼け知らずの真っ白な腹部についた赤紫色の痣。

 痣じゃなくて火傷……か。

 観念したのか吏那は震えるばかりだった。

 「これ、誰にやられた?」