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 翌日の文化祭一般開放日は朝から盛況だった。

 他校の制服を着た男女。
 未就学児を連れた家族。

 いつもはいないはずの外部の人間が加わり、校内はどこも賑わっている。

 人混みが不得手な俺でも、不思議と不快ではなかった。

 クラスの当番は昼頃だったから約束通り、吏那と校内を見て回る。

 もらった引換券でクレープを手にし、クイズに参加しろだの、占いをするだの、勧誘されながら、混み合う廊下をゆらりと歩いていた。

 「本当にクレープいらねぇのか?」

 「私、甘いもの苦手なので」

 「俺ばっか食ってんのもな。一口ならいけるだろ」

 持っていたクレープを吏那の唇の前に差し出すと、吏那は躊躇って視線を泳がせてから、

 「いただきます」

 と、かぷりとかぶりついた。

 「……甘いです」

 吏那は顔を赤らめて、瑞々しい唇についた生クリームをぺろりと舌で舐めとった。

 「そりゃクレープだからな」

 その仕種が俺の胸を叩いて、視線を前へ向けた。

 人だらけで歩きにくい。

 しかも、やたらと見られている気がする。

 「椎名先輩って血まで甘くなってそうですよね」

 「試してみるか?」

 「え……?」

 生真面目な吏那は全てを真に受ける。

 「冗談。血を吸うのは俺のほうだし」

 「あ、今日椎名先輩はヴァンパイアになりますしね……」

 今は違うけど。

 また、あの衣裳を着るのかと思うと億劫にもなってくる。

 とにかくマントが邪魔で重い。

 「あそこ、賑わってますね」

 吏那が指で示した教室に入る。

 ホワイトボードに並べて掲示された複数の写真の前に、人が群がっていた。

 「あの3番の女の子、めっちゃ可愛くない?」

 「えー。カラコンとメイクでごまかしてんじゃん」

 写真の中に自分の姿を見つける。

 「ここ。ミスター&ミスコンの投票会場ですね」

 吏那が小声で呟く。

 投票用紙に男女1名ずつ名前を書いて設置されている投票箱に入れるらしい。

 間仕切りで仕切られた奥側では何名かが集計作業を忙しなく行っている。

 自分が去年選ばれておきながら、こんな仕組みになっているとは初めて知った。

 「うそっ! あれって、あの7番の椎名くんじゃない?」

 「本物のほうがかっこいい!!」

 にわかに周囲がざわめきたつ。

 「ってか、女づれ?」

 「誰? あの女……」

 耳に入る雑音に吏那は居心地の悪そうな顔をしている。

 「次、行くか」

 吏那の小さな手をとろうとした矢先、

 「あっ。椎名! 来てくれたの?」

 ナミが俺たちの所までやって来た。

 「別に覗いただけ」

 「投票していきなよ! 自分に投票してもいいんだよ?」

 「しねぇよ」

 紺色のクラスTシャツを身につけているナミは、完全に文化祭モード。

 無理矢理結ばれたであろうポニーテールには大きな向日葵の花がついていた。

 ナミは俺の隣に居る吏那を一瞥した後、

 「椎名のヴァンパイア姿、後で見に行くから。
 昨日もやばすぎるってみんな騒いでたよ」

 と、まるで空気のようにその存在に触れなかった。

 「別にわざわざ俺を見る必要ねぇだろうが。ナミ……さん」

 「は?」