『と、いうわけで、何といっても2年7組の目玉はっ!』

 『あの昨年のミスター桜高っ!』

 『椎名万威くんがっ!』

 マイクを通して、溜めて、溜めて、話すクラスメイトに合わせて、体育館が「おーっ」と盛り上がっている。

 これが若者のノリなのだろうか。

 エネルギーの強さに圧倒されてしまう。

 『何と、ヴァンパイアのコスプレでウェイターをやります!!』

 ステージ上の3人が声を合わせて、マイクで伝えると、女子の割れんばかりの悲鳴が響いたと例えるには不充分なほど、まさに体育館中に轟いた。

 「ライブ開始のアイドル登場みたいだね」

 「椎名っちが吸血鬼になるって告知しただけだぜ」

 織原と各務が俺の隣で話していた。

 女子の熱気に男子は完全に圧されてしまっている。

 次のクラスの紹介に進められず、司会者の2人は焦っていた。

 ──面倒なことにだけはなってくれるなよ。

 と、俺は目を眇めて他人事のように思っていた。

 俺は吏那と二人で過ごせればそれでいい。

 開幕式を終え、体育館から散らばった生徒たちは各クラスが製作したオリジナルTシャツに着替え、いよいよ文化祭がスタートした。

 「何だ、これ。うちのクラス。開店前からすごい行列なんだけど」

 実質、今日は午後半日で校内のみでの開催。

 初日はどのクラスも翌日の一般開放日に合わせて試運転程度に営業するものらしいが、俺のクラスは廊下に恐ろしく伸びた行列のために、休む間もなく立ち回ることになっていた。

 「ねぇ、椎名くんは?」

 「椎名くん、どこ?」

 「ごめんね。万威はこの時間に入っていないんだ」

 不満を訴えていた客の女子たちは執事姿に狼の耳と尻尾を装備した織原の登場で文句なく静まったらしい。

 「これもいい!」

 「明日も来ます!」

 「織原くん素敵っ!」

 「ははっ。ありがとう」

 自分に向けられるスマホに、ひらひら手を振って柔らかな笑顔で答えている織原。

 あれはプロだな。

 暗幕を垂らして作られた簡易バックヤードで待機していた俺はまた織原に一目置いた。

 「椎名くんのヴァンパイア姿はプレミアものだからね」

 俺は終了直前10分ほど店頭に立たされるだけで済んだ。

 それが巧みに飢餓感を煽り、明日はもっと来客を見込めそうだと、ハロウィン喫茶を取り仕切る敏腕な女子たちはほくそ笑んでいた。