***
文化祭一日目。
パイプ椅子が並べられた体育館に、全校生徒が制服のまま集合し、開幕式が執り行われる。
開幕式はオープニングアクトとして登場したダンス部のステージから華々しく始まった。
照明が落とされた体育館で、ステージだけが蛍光色のレーザーで彩られる。
美人揃いだと有名らしいダンス部の女子たちにライブ会場のごとく体育館が一気に歓声で沸き立った。
「やべぇ。あのクビレ。3組の山田さんって普段地味なのにダンスしてると変わるな」
隣で各務が今にも立ち上がらんばかりに興奮している。
各務にとって、女子はかわいければ誰でもいいんだろう。
ダンス部のステージが終わった後は、司会を担当している恐らく3年の男子2人が漫才さながらにレベルの低いボケとツッコミを繰り返し進行していく。
今は校長の話が続き、冷や水をぶっかけたように体育館の熱気はクールダウンしていた。
「空気読めねぇなー。長いよ」
「去年もこうだったじゃないか」
あくびをした各務に、俺の隣に座る織原が小声で言う。
去年も開幕式に出ていたはずなのに何の記憶も残っていない。
たぶん無関心で、最初から最後まで眠りに耽っていた。
席はステージに近い前から3年、2年、1年と席が並ぶため、去年は最後尾だった。
今年はここより後ろの席で吏那も同じステージを見ているだろう。
吏那とは変わらず美術室で昼休みに会っていた。
けど、爪を立たせずに表面を撫でるような内容のない会話しかしていないように思える。
それは、きっと吏那も理解しているはずだ。
理解していても、何が、どこが、と具体的に指摘できるようなものではなく。
どうにかしたいけれど、どうしたらいいのかわからない。
このままでいいのか、よくないのか……。
「椎名っちは吏那ちゃんと回るのか?」
もう10分は続いている校長の話に飽きたのか各務が声のボリュームを落として聞いてきた。
「悪いかよ」
「うらやましい。椎名っちが死ぬほどうらやましい」
「好きに死ね」
「ひでぇっ」
声が段々と大きくなる各務に織原は「しっ」と指を唇にあてた。
「つーかさ、何で椎名っちと吏那ちゃん、さっさとくっつかねぇの?」
ふてくされた各務に俺は返答はしなかった。
──くっつく
そんな手軽で気軽な言葉で吏那との関係を語られたくはない。
母親を見てきた俺は知っていたはずだ。
男女の関係など、脆く、儚く、移ろいやすく、虚飾に塗れた薄汚い、軽蔑すべきものだと。
吏那との関係はそんな表現で飾りたくなかった。
校長の有り難い長い話の後に登場した吹奏学部の演奏が終わり、再び活気を取り戻した生徒たち。
プログラムが進み、ステージでは各クラスと部活動の代表者による模擬店の紹介コーナーに入っていた。
ここまで俺が眠らずに参加できていることが奇跡だ。
2ー1から始まった模擬店紹介はじゃがバタを売るだの、お化け屋敷だの、イントロクイズ大会を開催だの、ステージ上でアピールを代わる代わる繰り返している。
「お、ナミゾー、ステージにでてきた」
各務が呟く。
ナミが出てきたということは5組の紹介だろう。
ナミともう一人男子がステージでマイクを握っている。
『2年5組は恒例行事となったミスター&ミス桜高の実行委員となりました!』
『今年も実行委員が厳選した桜高の美男美女各20名がエントリーされています!』
『今年の栄冠の行方は誰だ!』
『みなさまの一票が結果を左右します。2年5組まで、ぜひ奮って投票にお越しください』
ナミたちは頭を下げ、舞台袖に消えていた。
「どうせ今年もミスターは椎名っちだろ。つまんね」
「自分がエントリーされなかったからって万威を僻むなよ」
「オリハランもエントリーされてるもんな。あと身長が10センチ高かったら俺も……」
「身長の問題じゃないと思うよ」
「オリハランその素敵笑顔でさらっと猛毒吐くのやめて!」
俺を飛び越えて、会話を交わす各務と織原。
ミスターでも何でも、俺の知らないところでやられてるから、どんな結果が出ようと知ったことではない。
副賞の焼肉は魅力的だけど。
「お、うちのクラスじゃん!」
気づけばステージではクラスメイトの女子3人が“ハロウィン喫茶“をどこか壊れたかってほどのハイテンションで紹介していた。
文化祭一日目。
パイプ椅子が並べられた体育館に、全校生徒が制服のまま集合し、開幕式が執り行われる。
開幕式はオープニングアクトとして登場したダンス部のステージから華々しく始まった。
照明が落とされた体育館で、ステージだけが蛍光色のレーザーで彩られる。
美人揃いだと有名らしいダンス部の女子たちにライブ会場のごとく体育館が一気に歓声で沸き立った。
「やべぇ。あのクビレ。3組の山田さんって普段地味なのにダンスしてると変わるな」
隣で各務が今にも立ち上がらんばかりに興奮している。
各務にとって、女子はかわいければ誰でもいいんだろう。
ダンス部のステージが終わった後は、司会を担当している恐らく3年の男子2人が漫才さながらにレベルの低いボケとツッコミを繰り返し進行していく。
今は校長の話が続き、冷や水をぶっかけたように体育館の熱気はクールダウンしていた。
「空気読めねぇなー。長いよ」
「去年もこうだったじゃないか」
あくびをした各務に、俺の隣に座る織原が小声で言う。
去年も開幕式に出ていたはずなのに何の記憶も残っていない。
たぶん無関心で、最初から最後まで眠りに耽っていた。
席はステージに近い前から3年、2年、1年と席が並ぶため、去年は最後尾だった。
今年はここより後ろの席で吏那も同じステージを見ているだろう。
吏那とは変わらず美術室で昼休みに会っていた。
けど、爪を立たせずに表面を撫でるような内容のない会話しかしていないように思える。
それは、きっと吏那も理解しているはずだ。
理解していても、何が、どこが、と具体的に指摘できるようなものではなく。
どうにかしたいけれど、どうしたらいいのかわからない。
このままでいいのか、よくないのか……。
「椎名っちは吏那ちゃんと回るのか?」
もう10分は続いている校長の話に飽きたのか各務が声のボリュームを落として聞いてきた。
「悪いかよ」
「うらやましい。椎名っちが死ぬほどうらやましい」
「好きに死ね」
「ひでぇっ」
声が段々と大きくなる各務に織原は「しっ」と指を唇にあてた。
「つーかさ、何で椎名っちと吏那ちゃん、さっさとくっつかねぇの?」
ふてくされた各務に俺は返答はしなかった。
──くっつく
そんな手軽で気軽な言葉で吏那との関係を語られたくはない。
母親を見てきた俺は知っていたはずだ。
男女の関係など、脆く、儚く、移ろいやすく、虚飾に塗れた薄汚い、軽蔑すべきものだと。
吏那との関係はそんな表現で飾りたくなかった。
校長の有り難い長い話の後に登場した吹奏学部の演奏が終わり、再び活気を取り戻した生徒たち。
プログラムが進み、ステージでは各クラスと部活動の代表者による模擬店の紹介コーナーに入っていた。
ここまで俺が眠らずに参加できていることが奇跡だ。
2ー1から始まった模擬店紹介はじゃがバタを売るだの、お化け屋敷だの、イントロクイズ大会を開催だの、ステージ上でアピールを代わる代わる繰り返している。
「お、ナミゾー、ステージにでてきた」
各務が呟く。
ナミが出てきたということは5組の紹介だろう。
ナミともう一人男子がステージでマイクを握っている。
『2年5組は恒例行事となったミスター&ミス桜高の実行委員となりました!』
『今年も実行委員が厳選した桜高の美男美女各20名がエントリーされています!』
『今年の栄冠の行方は誰だ!』
『みなさまの一票が結果を左右します。2年5組まで、ぜひ奮って投票にお越しください』
ナミたちは頭を下げ、舞台袖に消えていた。
「どうせ今年もミスターは椎名っちだろ。つまんね」
「自分がエントリーされなかったからって万威を僻むなよ」
「オリハランもエントリーされてるもんな。あと身長が10センチ高かったら俺も……」
「身長の問題じゃないと思うよ」
「オリハランその素敵笑顔でさらっと猛毒吐くのやめて!」
俺を飛び越えて、会話を交わす各務と織原。
ミスターでも何でも、俺の知らないところでやられてるから、どんな結果が出ようと知ったことではない。
副賞の焼肉は魅力的だけど。
「お、うちのクラスじゃん!」
気づけばステージではクラスメイトの女子3人が“ハロウィン喫茶“をどこか壊れたかってほどのハイテンションで紹介していた。


