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 「そこのイケメン三人組。ちょっと写真撮らせて!」

 夏休み気分がすっかり抜けた9月中旬。
 まだまだ連日最高気温は35℃を超え、夏の終わる気配は見せない。
 3時間目終了後、気怠い空気が流れている2年7組の教室に大声を出して現れた女──三宅(ミヤケ)ナミ。
 バレー部に所属し、なおかつキャプテンも務めている彼女は健康的な長い足を前に踏み、ショートカットの髪を軽やかに揺らして俺たち目指し近づいてきた。

 「イケメンって俺? 俺?」

 「あ、ごめん。各務(カガミ)は除外。
 今年の文化祭のミスター&ミスコンの主催はウチのクラスでさー。校内の美男美女を撮らせてもらってんの。
 椎名(シイナ)織原(オリハラ)くんに頼みたいんだけど」

 「何で俺は除外よ。ナミゾーひっでぇな」

 各務はオーバーなくらい剥れて、机に突っ伏した。

 「俺だってエントリーくらいさせろっつーの」

 「休み時間短いし、各務に構ってる余裕ないの! ほら。椎名からね。カメラ目線ちょうだい!」

 俺に対して、ナミはスマホを構えた。

 「勝手に撮るなよ。俺は興味ねぇからパス」

 「なーに言ってんの。去年のミスター桜高(オウコウ)は椎名でしょ! 男なら、二連覇目指せっつーの!」

 気怠い表情で答えても、ナミは俺に無断でシャッターボタンを押しているようだった。

 しばらくスマホを向けられていた後に、今度は織原の撮影に移る。

 織原は律儀にもナミのスマホへ柔らかな笑顔を向けていた。

 俺から言わせてもらうと織原の人好きする笑顔こそ、他人との境界線を明確にしている気がしなくもない。

 「さっすが織原くんは優しいなー。無気力な椎名の二連覇を阻止してよ」

 「まさか。万威(マイ)に敵う男いないって」

 刺々しいナミに織原は爽やかに答えた。

 毎年11月の文化の日に合わせて行われる桜山高校文化祭。

 伝統となっているらしい文化祭の目玉行事ミスター&ミスコンは開催するクラスが選抜した事前にエントリーされている生徒の中から当日の投票で決まる。

 昨年1年だった俺は隠し撮りされた写真で知らぬ間にエントリーされ、歴代最多得票で栄えあるミスター桜高に選ばれた。

 何でも1年がミスターに選ばれるのは俺が史上初で名誉だとか、快挙だとか持てはやされた。

 そんな栄冠が何になるというのだろう。

 ミスターになったところで1円にもならないのなら何の意味も感じない。

 「ねぇ、椎名。今年のミスター桜高の副賞は焼き肉のお食事券みたいなんだけど」

 「マジかよ。お前ら全員、俺に投票しろ」

 「万威。いきなり目が輝きすぎ」

 「椎名っち、わかりやすっ」

 各務にまでバカにされようが気にならない。

 腹が膨れるなら話は別だった。

 「おい、ナミ。俺の写真撮り直せよ」

 「えー? 仏頂面でも椎名はちゃんとイケメンだからいいよ。それにもう4時間目始まるんだけど」