その瞬間、君は世界に対して無防備になる。

 sideナミ

 「待てよ。万威」

 織原くんは椎名の隣へ追いついていく。

 廊下には椎名が残した余韻が消えなくて、不在でも場の空気をも掌握してしまう椎名が少し憎らしく思えた。

 「椎名っち、恐すぎ。あんなに怒んなくてもいいじゃん。ちびるかと思った」

 隣で各務が膨れっ面をしている。

 「……らしくない」

 「ナミゾー、どうした?」

 「あんなの、椎名らしくない……」

 椎名は並はずれてかっこいいだけじゃなくて、いつもクールで、冷めてて……。

 同い年の男子たちとはどこか一線を画している、誰も寄せつけないような確固たる大人びた諦観を感じさせた。

 鋭い眼差しは目つきが悪いというよりはどこか謎めいて、色っぽい。

 何より椎名だけが有する独特の雰囲気に夢中な女子は桜高以外にだってたくさん居た。

 でも、椎名は誰のものにもならないとばかりに誰に告られても断ってばかり。

 去年のミス桜高の村松先輩だって、椎名に挑んでフラれた過去がある。

 高校に入学して、椎名と同じクラスになって、椎名が気になり始めて、知らない内に私もまんまと椎名を好きになっていた。

 私は話しかけやすいタイプなのか昔から男子に告られることは多かったし、何人か付き合った人も居た。

 それなりに自分はモテるほうなのかもと自負はあったけど、競争率の高い椎名に告白なんて自信は伴わない。

 椎名に特定の彼女が居たという情報は聞いたことがなかった。

 私だけの“気軽な友達“ポジションを1年かけて必死に作り上げた。

 ──のに。

 いつの間にか椎名の傍に浮上していた一人の女の子。

 確かに近くで初めて紅月さんを見たけど、文句なく可愛い部類に入る。

 幼さを残した可愛らしい小顔。

 華奢で、色白で、庇護欲をそそられる男受けしそうな雰囲気。

 バレー部で日々鍛えている私には持ち合わせていないものばかりだ。

 でも、嫉妬なんかしてない。

 家柄も良く、外見にも恵まれているはずの彼女は、1年の中で影が薄く、あまつさえ嫌われているらしい。

 だから私は彼女を見下している……のかもしれない。

 自分より下だと認めた女に椎名が盗られるなんて嫌。

 裏のある彼女が椎名の特別になるなんて許せない。

 椎名、気がついてよ。

 紅月さんは純粋に見えたって、裏で何してるのかわからない子だよ……。

 絶対に騙されてる。

 椎名は無気力で無愛想でも情が深いから、ハブられてる紅月さんを放っておけなかったはずだ。

 彼女の自業自得なのに。

 ああ、黒くて嫌な感情……。

 すごく自分が嫌いになる。

 だけど。

 紅月さんはもっと嫌い。

 『ふざけんな! 吏那に手ぇ出すんじゃねぇよ!』

 椎名はあんなに感情を丸出しにしたりしなかったし、大声を出したりもしなかった。

 お願い。

 私に振り向いてなんて言わないから、椎名は変わらないで……。

 あの子のものにならないでよ。