その瞬間、君は世界に対して無防備になる。

 値踏みするような遠慮のない視線でナミが吏那を見る。

 吏那は居心地が悪かったようでナミから視線を逃がした。

 「吏那、悪い。変なヤツに足留めくらわせて」

 俺が吏那へ一歩進み出て、吏那の退歩を促す。

 「変なヤツって俺のことかよ」

 後ろから聞こえる各務の文句は無視する。

 吏那は俺に縋るような視線を向けてきた後、丁寧にお辞儀をして廊下を早足で立ち去っていく。

 「くぅ~! やっぱり吏那ちゃん可愛いなー。抱きしめてあげたい」

 と、自分を抱きしめてる各務を本気で殴ってやろうかとさえ思う。

 「先に行ってる」

 付き合っていられない。

 降下していく機嫌に合わせて足取りも雑になった。

 「儚げで、愛らしくて、清らかで、吏那ちゃんはマジで俺の理想のタイプ!
 椎名っちー! 俺に吏那ちゃん紹介……」

 「ふざけんな! 吏那に手ぇ出すんじゃねぇよ!」

 振り返って恫喝に近い形で大声を出していた。

 気づけば、各務・織原・ナミだけじゃなくて、廊下を行き交っていた生徒たちが、みな瞠目して俺を見ていた。

 感情的になった自分を自分で認められない。

 まとわりつく鬱陶しい視線をやり過ごして、先に進んだ。