「は?」

 俺の目つきが鋭くなったからか、反射的に吏那は肩で反応した。

 「私はいつも一人で、その……みんなに煙たがられてると思います。
 私と一緒に居たら椎名先輩まで悪く思われるんじゃないかって……」

 吏那がここまで自分を肯定できない理由はなんなんだろう。

 そういえば教室まで俺にジャージを届けに来た時も、表情がぎこちなかった。

 上級生である2年の教室だからかと思ってたけど、違うのだろうか。

 「そんな心配いらねぇよ。俺は誰にどう思われようがどうでもいい」

 そう断言すると、吏那は俺を見つめたまま、力の抜けた笑みを浮かべた。

 「椎名先輩は強いですね……」

 「強い、か?」

 「はい。ちゃんと自分を持ってるって感じがします」

 「よくわからねぇけど、他人の評価なんて気にしてても仕方ないだろ」

 「それが強いと思います。私は友達が一人もいないくせに、やっぱり自分が嫌われてることが嫌だと感じてしまって……。まだ諦めきれないんです……」

 吏那は薄い瞼を伏せ、口元に頼りない笑みを作る。

 どういう顔をしていいのか本人もわからなくて、無理に笑うことでごまかしているのだろう。

 「誰だって進んで周りに嫌われたいヤツはいねぇよ」

 吏那は俺にたどたどしく視線を向けた。

 「俺は他人にこう見られたいって思うことがないだけ。
 それが強いかどうかはわからねぇけど、俺の教室までジャージを返しに来た吏那は間違いなく強いじゃねぇか」

 吏那の大きな目が見張られ、潤みが増す。

 「周りにどう思われるか自分で勝手に憶測たてるより、吏那が優先したい気持ちはねぇのかよ」

 その眦で持ち堪えている雫を拭おうかと腕を伸ばしかけ、一瞬の躊躇が止める。

 急激に吏那に触れるってことを意識したからだ。

 「ま、吏那が嫌なら別に構わねぇけど」

 その手で頬杖をついたのは不自然にならなかっただろうか?

 目を眇め、冗談っぽく言うと、

 「そんなことあるわけないです!!」

 と、吏那は勢いよく立ち上がり、拍子に椅子が倒れた。

 無言で俺より目線が高くなった吏那と見つめ合った後。

 「わかったって」

 「ご、ごめんなさい!!」

 俺は笑い、吏那は赤面し、あたふたと椅子を戻して着席し直す。

 その動作が、まるでどんぐりを必死に追いかけて駆け回るコリスのようで、見ていて飽きない。

 「椎名先輩。私、文化祭が楽しみになりました」

 はにかんで微笑む吏那。

 ──やっぱり吏那は心臓に悪い。

 「良かったな」

 吏那を迎えに来ている男が兄だと知ったからか、吏那と文化祭で一緒に居られることになったからか。

 胸に広がる噎せ返るほどの甘酸っぱい感情に自分でも戸惑う。

 昼休みがずっと続けばいい。

 俺の望みを裏切るように吏那との時間は何よりも早く過ぎ去ってしまうように感じていた。