俺への疑いが晴れても、各務は頭を抱えて苦悶していた。

 だから、そんな薄っぺらいものなんだって。

 俺に『好き』だの『付き合って』だの言ってくる女なんて、風が吹けば心変わりする程度の脆い気持ちでしかない。

 いつだって馬鹿みたいに褒められてきた俺の容姿なんて、ただの生まれつき。

 俺の何を好きだと言えるのか、告白されるたびに心が冷えていく。

 「椎名先輩。どうしました?」

 今日も吏那と美術室で昼食を摂る。

 「何でも」

 俺は無意識に吏那の胸元のリボンを見ていたらしい。

 ネクタイピンはつけられていない。

 ま、そうか。

 いつも吏那を迎えに来ているのは、この学校の生徒ではなく大人の男だ。

 「自販機、あたたかい飲み物がおかれるようになったんですね」

 吏那は俺の手の中のココア缶に目を留めた。

 「やっとだな」

 「おいしいですか?」

 「ああ」

 「甘いですか?」

 「苦かったら飲まねぇな」

 「もうココアが美味しくなる季節なんですね」

 「ん? 味は年中変わらねぇだろ」

 「それはそうなんですけど……そうじゃないんです。椎名先輩たまに天然ですよね」

 「は?」

 こんな取り止めのない話は出来るのに、吏那にあの学校まで迎えに来る男のことは聞けない。

 気になってないとは言えないのに何故聞けないのか……。

 そして、吏那が笑っていても、常に何かに怯えているような態度でいることも口にできない自分がいた。