その瞬間、君は世界に対して無防備になる。

 ***

 俺らしくもなく、あれから吏那がどうなったのか気になりすぎて仕方がなかった。

 俺の言動がもとで火に油を注いで、吏那が傷ついていたら……。

 そう考えると気が気じゃなくなる。

 ──らしくない。

 いつもだったら面倒ごとは傍観どころか見向きもしないのに、自分から関わるなんて……。

 けれど、どうしても見過ごせなかった。

 憂いをぶつける場所もなくまま放課後になり、いちはやく教室を出て昇降口に向かう。

 ちょうど靴箱に差し掛かった時、

 「!」

 急に制服であるポロシャツを背後から引っ張られた。

 「いきなり何しやがんだよ」

 いらつきを隠さず振り返って、目を見開いた。

 俺のシャツを掴む小さな握り拳の犯人が吏那だったからだ。

 「……椎名先輩、少しだけ時間ありますか?」

 「あ、ああ」

 強い意志のこもった目だったが、どこか緊張したように表情が固い。

 吏那は生徒の往来が少ない来客用の出入口付近まで俺を連れて来た。

 こんな人目を避けて、俺は吏那にシメられでもするんだろうか?

 思いもよらなかった吏那の登場に、俺の鼓動は不規則に乱れていた。

 「すみません。こんなとこまで連れてきて……」

 「いや、別にいいけど」

 こうして対面すると吏那は本当に小さく華奢だ。

 155センチ前後しか身長がないうえに俯いているから、頭部の天辺がよく見えた。

 分け目は若干左、と。

 「あの……昼休みはありがとうございます。
 上履きが無くなっ……忘れていたので、とっても助かりました」

 はにかみながら、そっと俺を見上げる吏那。

 女の上目遣いがヤバいって各務が言っていたのはこういうことなのかと初めて認識する。

 本人、全く自覚はないだろうけれど。

 「礼を言われるようなことはしてねぇよ」

 何でか脇腹をつつかれているようなむず痒い感覚に襲われる。

 「そんなことないです。私、椎名先輩が来てくれて、人生ひっくり返るくらい嬉しかったんです!」

 驚くほどの力説だった。

 「大袈裟」

 フッと思わず吹き出してしまった。

 吏那は何で笑われたのか理解しかねる表情で俺を見ながら、内側から発光しているような真っ白な肌に赤みが帯びていく。

 「昼休み、何で来ねぇの?」

 「それは……」

 「俺、吏那が来るの結構期待して待ってるんだけど」

 口端の角度を上げて吏那を見つめる。

 「だって……」

 困惑がわかりやすく顔に出てる吏那は言い淀んだ様子で、

 「……椎名先輩に迷惑かなって思ったんです……」

 そう口にした。

 「俺に迷惑?」

 「……あの、私と関わったら椎名先輩によろしくないと思うんです……」

 吏那が何を言っているのか頭に浸透していかない。

 「私、余り他の人たちに良く思われていないので、その……」

 自分を卑下する吏那に胸が痛む。

 同時に腹の底から迫り上げる苛立ちも。

 他者によく思われない自分と居て俺まで悪く思われるのかと気を遣ってるってわけだろう。

 吏那をそう気弱にさせている原因は何なんだと、苛立って仕方なかった。

 「迷惑か迷惑じゃねぇかは俺が決める」

 長い睫毛を半分伏せていた吏那が視線を上げた。

 ──俺へと真っ直ぐに。

 「第一、迷惑だと思ってる女を誘うほど、俺はイイヒトじゃねぇんだよ」

 愛想のない、きつい語調になった。

 「無理強いはしねぇから……。吏那が来たかったら来い」