「小野寺に膝の骨をあげられないんだって知った時、正直すごく落ちこんだけど、ちょっと目が覚めたみたいな気持ちになったんだ。僕は物事を浅くしか考えてなかったなあって、反省した。小野寺はひとりでつらい思いをしてたのに、僕はそれにすら気づかず小野寺とどうかなりたいって、それしか考えてなかったなあって」

 きまりわるそうにくすっと笑った。

「小野寺が何も恐れない果敢なプレーで僕に勇気をくれたように、今度は僕が目の前の壁にぶちあたってみようって思ったんだ。精一杯自分らしく生きて、遠くで小野寺を応援しなくちゃって思ったんだ。小野寺に恋をした男は、けっしてうじうじ惨めな人生を送ってたりしない。小野寺がくれた思い出のおかげで今も頑張って生きてるって、いつかそんなふうに思ってもらえるように」

 愛しさに胸が痛む。たまらなくなって後ろから茅野をぎゅっと抱きしめた。

「息がとまっちゃうよ」

 茅野がもがき、小さく抗議する。

「立場が逆転しちまったな」

 秀幸はもっとなにか言ってやりたいのに、嬉しくて言葉がうまく出てこない。生まれ変わったように強い意志をみせる彼が、まぶしくて直視できない。

「小野寺、手術、受けてくれる? 僕、なにがあってもずっと小野寺のそばにいるよ」

 もうはなさないよ、と茅野は胸の前で、ひしと秀幸の両腕を抱く。

 どちらからともなく二人はもう一度唇を重ねあった。