茅野が確信を持って深くうなずいた。

「僕、論文書いてたんだ。近代詩人の作品論を。前から書いてみたいって思ってたんだ。様式もよくわからなかったけど、勢いだけで一週間で書いた。それを文学部の教授にお願いして見てもらったんだ。そしたら『稚拙だけど熱意は感じる。文学部に来るなら僕のゼミに来なさい』って言ってもらえて。僕、文学部への転部届けもらったんだ。教務科で詳しく教えてもらったら法学部と必修科目がいくつか被ってて、来年から国文学科の三年生として入れてもらえそうなんだ」

「家族は……いいのか?」
「大反対されてる。いや、両親はもう『穂がそこまでいうなら』って感じなんだけど。やっぱり、兄が」

 そこで茅野はうつむいた。

「……だから、家出しちゃった」
「えっ」
「一昨日(おととい)までは二十四時間営業のファミレスとかファストフード店とかを転々としてて。でもやっぱり横になれないと辛くて。そろそろ限界になってきたから、今日はネットカフェか満喫かなあって。ネットで調べてみたら、となりの駅のネットカフェに五時間三千円くらいの深夜パック料金があってさ」

 とんでもないことを言い出す。

「本気か?」
「どう? 気が狂っちゃったかと思った?」

 いたずらっぽくそう言う茅野は、いままでになく、すっきりとした顔をしていた。いきいきとして、カゴから飛び出した小鳥のようだ。