ひゃっ、と変な声をあげて茅野はしゃがんでそれらを拾い集め、乱暴に紙袋につめるとあわてて今来た方向にひきかえした。

 秀幸はドアを押し開け、後を追う。旧校舎に走りこんだ茅野が、手近な教室に入るのを確認し、秀幸もそこへ飛びこんだ。

 中はひとけがなく電灯もついていない。使っていない教室のようだった。

 追いつかれた茅野は完全に気が動転しているようだった。よろめき、大きな荷物をあちこちぶつけ、机や椅子に体当たりしながら、とうとう奧の壁につきあたって座りこんでしまった。

 荷物を投げ出して幼児みたいに両手で顔を覆う。

「……なんで、なんで、逃げるんだよ」
「だって」

 息をきらして問う秀幸に、茅野が蚊の泣くような声で弁解する。

「だって……恐いんだ。小野寺に嫌われるの……死にそうに恐いんだよ」

 両手で顔を覆ってしまった。

「茅野、俺、謝ろうと思って待ってた」
「……あやまる?」
「俺も茅野のことが好きだった。ずっと前から、茅野が言うように、何かを犠牲にしても大事にしたいって思えるくらいに好きだった。好きじゃなかったら、こんなに長く側にはいられなかったと思う」

 茅野は、顔を隠していた両手をそっとおろした。涙のうかんだ瞳でじっと秀幸の顔を見る。

「……小野寺が優しいのは知ってる。いつも僕を甘やかしてくれるのも知ってる」
「そうじゃないよ」