殴る。殴り返される。何度も何度も。

 秀幸は顔と腹、そして拳が壊れるような痛みを感じながら、しびれる頭のはじで考えた。

(どうしてもっとうまく生きられないのだろう)

 でもどうしようもないのだ。うまく泣くことのできない自分は、こんな弱音の吐き出しかたしか知らないのだから。

 鼻血が口の中まで流れこんでくる。口の中が鉄さびの匂いでいっぱいになる。相当打ち込まれてふらふらになりながら、まだ秀幸は立っていた。もう視界がかすんできている。

「強情だなあ」

 髪を乱れさせて、左側の唇を少し切った曽我が片頬をひきあげて笑った。服装は崩れていたが、表情にはまだ余裕が見える。

「暴れて少しは気がすんだかよ」

 浅くため息をついて、また頭を振り、首をならした。

 自分でさんざん殴ったくせに、痛々しげな目で秀幸をみつめていた。

「……可哀想なほど不器用なんだよな。ま、でもそういう強がり、嫌いじゃないぜ。男なんてやせ我慢してナンボだもんなあ」

 秀幸は、ふら、と体勢をくずし後ろに尻をついた。

 倒れていた机の天板に背中をもたれかからせる。身体中のあちこちが熱をもって、ずきずき脈打っている。もう指一本動かす闘志もなくなって、力なく天井をあおいだ。