「なにしてくれてんだよ」

 椅子にかけてふんぞりかえっていた曽我の襟首をつかんで立たせた。

「お前って、自分のことはなんも見えてねえのな。今自分が、ダメになるかならないかの瀬戸際にいるの、わかってんのかよ」

 曽我は秀幸の鼻の先でせせら笑っている。鋭く細められた目はまるで、現役時代を思い出したかのように好戦的でいきいきと燃えたぎっていた。

「は? ……ダメになる? 俺がか?」
「いつまでも自分を殺して善人ぶって。そんな自分が偉いとでも思ってんの?」

 やれやれ、と言いたげな顔で曽我が煽る。

「さっさとこいよ、今さらひっこみつかねえんだろ?」

 曽我の一言が導火線を焼き切った。

 最初の一発は秀幸からだった。

 殴りとばされた曽我の体が後ろの椅子にあたり、椅子もろとも後ろにさがった。周囲のテーブルや椅子が、ドミノ倒しのように倒れて片側に寄った。

 ガタガタと派手な音が部屋中に反響する。遠巻きに見ていた部員の輪が乱闘にけおされて外側に広がった。

「ケンカだ」
「誰か呼んでこい」

 緊迫した声が飛びかう。

「曽我さんっ」

 葛城が悲痛な声をあげて、ふたりの間に割って入ろうとした。