「もう……僕たちの友人ごっこもおしまいだよね。気持ち悪いよね。ホモなんて。ここにいるみんなに笑われちゃうよ」

 自虐的に言って、茅野は秀幸の腕をふりはらった。

「茅野」
「ごめんね。僕、なんにもしてあげられなくて。これで終わりだ――さよなら」

 赤くなった眼をぐい、とセーターの袖でぬぐって床に置いたリュックを拾いあげると、扉を開けて走り出ていく。

 開きっぱなしになった扉の向こうでは、廊下にいた寮生があっけにとられた顔でばたばた走って行く茅野の背中を見送っていた。

     ※   ※   ※

「曽我ああああっ」

 寮の廊下にドスのきいた怨嗟の声が響いた。

 普段冷静な秀幸が額に血管を立てて激怒しているのを見て、廊下にいた寮生たちは息を殺して道を開ける。

「いるんだろ、出てこい曽我あっ」

 秀幸は大股に歩いて、ミーティングルームのドアを蹴り開けた。勢いあまって壁にはねかえったドアが、ばあん、と大きな音をたてる。

「おーおー、やっと目が覚めたって顔だな」

 曽我は嬉しげに笑って、首を左右に振ってこきこき鳴らした。曽我のまわりに集まっていたラグビー部の後輩たちが、目を丸くして対峙するふたりをかわるがわる見ている。