手術には一週間ほど入院することになる。その後のリハビリには一ヶ月以上かかると説明された。

 何年もかけてタフな肉体をつくりあげたアスリートでも、一週間もベッドの上にいたらあっという間に筋肉は落ちる。リハビリが終わるころには、秀幸はただの一般人になっているだろう。もう茅野が胸を焦がした力強いラグビー選手ではなくなってしまう。茅野を精神的に支えてやることもできないだろう。

「お前が聞いた移植とかって話はな、曽我さんが作り話をして、お前が俺をどう思ってるか試したんだよ」
「あ……あ……」

 茅野が両手を口にあてた。これ以上はないほど目を見開いている。

「俺がいつまでも手術を受けることを決断できずにいるから、お前をけしかけたんだろうな」

 茅野の体が小刻みに震えだした。

「僕……僕……なに言っちゃったんだろ。結局、なんにもできないのに」

 秀幸の胸の中で茅野が頭を抱える。くしゃ、と自分の両手で髪をかきむしった。

「好きなんて言って……もう、無理だよね? 小野寺のベッドで寝るなんて気持ち悪いよね。ここにきて甘えちゃだめだよね」

 は、は、は、と茅野がまるで心が壊れてしまったように、かわいた笑いをもらした。

「茅野」

 秀幸は椅子に座った茅野の正面からもう一度、細い体を抱きしめた。秀幸の腕も震えていた。怖くて仕方がなかった。茅野が傷ついてしまうのが。絶望してしまうのが。