静まりかえった部屋で、茅野が泣きそうにうわずった声を絞る。
「友情じゃないんだ。僕のは恋なんだ。たぶんもう他の人を好きにはなれないくらいの重症なんだ。たとえ小野寺に半月板をあげて僕の膝が痛んでも、それは小野寺が味わうはずだった苦しみを僕がほんの少し肩代わりしてあげてるってことなんだ。きっと僕は膝が痛むたびに小野寺を想って幸せな気持ちになる。小野寺の苦しみを今、僕がかわりに背負えてるって思うだろう」
「茅野」
ふるふると茅野の瞳の表面が波打つ。透明な滴が下まぶたにふくれあがっていく。
「小野寺、困らせて、ごめんね。でも、膝の骨だけは受け取ってほしい」
涙が堰をきって頬をつたう。
秀幸は途方に暮れた。思わず立ち上がって、茅野の頬をつたう涙を人差し指の背ですくいあげた。右をすくうと、左からこぼれ、きりがない。
仕方なくなって、静かに泣く茅野の頭を胸におしつけ、抱きかかえていた。不規則な熱い吐息が秀幸の服に染みて、茅野が秘めてきた情熱を伝える。
少し落ち着くのを待って、秀幸はゆっくり話しだした。
「茅野、落ち着いてきいてくれ。――それな、曽我さんの嘘だ」
「え?」
腕の中で茅野の背中が、ぴくっとこわばった。
「俺が膝をいためてるのは本当だ。でも、半月板を健康な生体から移植するなんていう手術はない。俺が今ドクターから薦められているのは、ぼろぼろになった半月板を人工半月板と置き換える手術だ。この手術は、今まで関節炎を患う年配の患者向けに行われてきた。だから、術後激しい運動をすることは考慮されていないし、アスリートとして復帰した前例がないんだ。それをやってみようかって話なんだ」
「友情じゃないんだ。僕のは恋なんだ。たぶんもう他の人を好きにはなれないくらいの重症なんだ。たとえ小野寺に半月板をあげて僕の膝が痛んでも、それは小野寺が味わうはずだった苦しみを僕がほんの少し肩代わりしてあげてるってことなんだ。きっと僕は膝が痛むたびに小野寺を想って幸せな気持ちになる。小野寺の苦しみを今、僕がかわりに背負えてるって思うだろう」
「茅野」
ふるふると茅野の瞳の表面が波打つ。透明な滴が下まぶたにふくれあがっていく。
「小野寺、困らせて、ごめんね。でも、膝の骨だけは受け取ってほしい」
涙が堰をきって頬をつたう。
秀幸は途方に暮れた。思わず立ち上がって、茅野の頬をつたう涙を人差し指の背ですくいあげた。右をすくうと、左からこぼれ、きりがない。
仕方なくなって、静かに泣く茅野の頭を胸におしつけ、抱きかかえていた。不規則な熱い吐息が秀幸の服に染みて、茅野が秘めてきた情熱を伝える。
少し落ち着くのを待って、秀幸はゆっくり話しだした。
「茅野、落ち着いてきいてくれ。――それな、曽我さんの嘘だ」
「え?」
腕の中で茅野の背中が、ぴくっとこわばった。
「俺が膝をいためてるのは本当だ。でも、半月板を健康な生体から移植するなんていう手術はない。俺が今ドクターから薦められているのは、ぼろぼろになった半月板を人工半月板と置き換える手術だ。この手術は、今まで関節炎を患う年配の患者向けに行われてきた。だから、術後激しい運動をすることは考慮されていないし、アスリートとして復帰した前例がないんだ。それをやってみようかって話なんだ」

