「うん。いいんだ。だってその傷跡は、小野寺とおそろいになるんだろ」

 迷わず答えた。

 秀幸はぼう然となって茅野の足をはなした。

 彼は――彼はそこまで自分を想っていてくれたのか。

「小野寺、長い間そばにいさせてくれてありがとう。家族の顔色うかがって自分に嘘ついてばっかりの僕の人生の中で、小野寺と一緒にいる時間だけは安心してご飯も食べられたし、眠ることもできた。ずっと、子供みたいに甘えさせてくれてありがとう。これだけしつこく一緒にいても、これ以上親密になれないってことは、たぶん小野寺の気持ちがただの友情と同情なんだって、僕ももうわかってるんだ。だから、困らせないように言わないでおこうと思ってた。だけど……膝のことを聞いたから。僕はどうしても半月板を提供したいって思ったんだ」

 茅野は眉根をぎゅっと寄せたまま、へたくそに笑った。

「本当はお礼なんかじゃなくて、ただの僕の自己満足かもしれない。でも、この体に傷跡が残るなら、それは僕にとって一生に一度だけ、本当の恋をした証(あかし)になる」

 茅野は一度大きく息を吸った。一生懸命微笑んで、それでも握りしめた両手を震わせながら言った。

「僕は、小野寺が好きだ」

 秀幸は鋭いもので、肉をえぐられたような痛みを感じた。

(ああ、とうとうこの言葉を聞いてしまった)

 ずっと自制してきたのに、とうとう彼から踏みこんできてしまった。