学校指定の紺色のピーコートにタータンチェックのマフラーを口元まで巻いて。スパイクの足音が聞こえてくると、あわてて読みかけの文庫本を閉じて、きょろきょろ視線をさまよわせて秀幸の姿を探す。
そこはいつも、せわしなく人が行きかっていた。テニス部の部員達が顔を洗っていたり、野球部のマネージャーがボトルに水をくんでいたり……。その中で茅野の姿は、秀幸の目にランプを灯したようにすぐにみつかった。
こんなふうに自分の思惑に反して自然に視線が導かれることを、「美しい」と呼ぶのかもしれない、と不思議な気持ちで秀幸は考えていた。
それなのに、秀幸は茅野を故意に無視した。
茅野の前を通り過ぎるときは、あえて他のチームメイトと大事そうな話をしたり、応援してくれる女子生徒に愛想良く手を振ってやったりした。話しかけるきっかけなど与えてやらなかった。
そのままでいいと思っていた。
これからもずっと、何かもの言いたげに、熱っぽい視線で自分の背中を追いかけていればいい。
「あの時はどうもありがとう」なんて、そんなありきたりの言葉をもらって、「気にするなよ」なんていい人ぶってそれに答えて。それでおしまいになんてさせてやらない。茅野の高校生活の平凡な一ページになんてなってやらない。
秀幸は意固地になっていた。
その不自然な執着が本当はなんなのか、知りたくもないと思っていた。
そこはいつも、せわしなく人が行きかっていた。テニス部の部員達が顔を洗っていたり、野球部のマネージャーがボトルに水をくんでいたり……。その中で茅野の姿は、秀幸の目にランプを灯したようにすぐにみつかった。
こんなふうに自分の思惑に反して自然に視線が導かれることを、「美しい」と呼ぶのかもしれない、と不思議な気持ちで秀幸は考えていた。
それなのに、秀幸は茅野を故意に無視した。
茅野の前を通り過ぎるときは、あえて他のチームメイトと大事そうな話をしたり、応援してくれる女子生徒に愛想良く手を振ってやったりした。話しかけるきっかけなど与えてやらなかった。
そのままでいいと思っていた。
これからもずっと、何かもの言いたげに、熱っぽい視線で自分の背中を追いかけていればいい。
「あの時はどうもありがとう」なんて、そんなありきたりの言葉をもらって、「気にするなよ」なんていい人ぶってそれに答えて。それでおしまいになんてさせてやらない。茅野の高校生活の平凡な一ページになんてなってやらない。
秀幸は意固地になっていた。
その不自然な執着が本当はなんなのか、知りたくもないと思っていた。

